現場で役立つ知識
2020-09-28
【登録販売者の悩みに回答!】帰宅後、自分の接客を振り返って落ち込んでしまう方へ<教えて村松先生:第1回>
・Before
・After
セミナーや動画配信を中心に、登録販売者や資格受験者向けの学習支援を行っている株式会社東京マキア代表の村松早織先生には、日々、登録販売者からの悩み相談が送られてきます。連載第1回は、自分の接客を振り返って落ち込んでしまう方へ、悩みに対する向き合い方を解説していただきました。接客時の具体的なアドバイスもあるので、ぜひ参考にしてみてください。
第1回目のお悩みは、登録販売者であれば避けて通れない、お客さまとのコミュニケーションについて。思い描いた対応ができず、落ち込んだ経験がある方も多いのではないでしょうか。
そんなときの対処法や具体的な接客方法を…「教えて!村松先生」!
無力感・失望感を覚えるのは、誰もが通る道
ベストなお客さま対応ができなかったという悔しい経験は、誰にでもあるのではないでしょうか。
原因は、知識不足やコミュニケーション能力不足など自分自身の問題だったり、人員不足などによる職場環境の問題だったりと様々です。店舗によっては薬剤師が常駐していない、登録販売者が少ないなど、困った時に相談できる相手がいないこともあります。
さらに、相談できる人がいても、その方が別のお客さま対応をしていれば、タイミングの問題で話しかけられないこともあるでしょう。
自分に対しての無力感・失望感は、新人時代には誰もが通る道です。しかし、仕事に慣れてきたとしても、医療業界にいれば常に知識のアップデートが必要になりますし、勉強すればするほどほかの問題にも気づきやすくなり、悩みがつきることはなかなかありません。
これは医療関係者の宿命であると言えそうです。「理想の自分」に近づけている気がしない……、私もいまだにそんな気持ちになることがあります。
私はドラッグストアに転職した当時、医療用医薬品の世界から市販薬の世界にパッと飛び込むかたちになりました。転職活動中に市販薬の本を何冊か買って読み込み、入社前に配属予定のお店の商品を見学しに行ったこともありました。
それでも働きだしてから最初のうちは、非常にとまどいました。お客さまからは、自分が予想もしていないような質問が次々に飛んできます。また、市販薬は配合剤が多いため、単純に「各成分の知識」をもっているだけでは立ち行かないこともあります。
薬学を大学で学んできた者でもこんなにとまどうのですから、登録販売者の方々が現場に立つ不安は計り知れないものがあります。
悩むのは、お客さまを大事に思っている証拠
私の場合はお風呂で湯船につかっている時でした。無我夢中で働いて、へとへとになって帰ってきて……今日1日のお客さま対応で不安だったことが、フワフワと際限なく浮かんでくるのです。
「慢性疾患が複数あったお客さまにすすめた胃薬、大丈夫だったかな……」とか、「喘息のお客さま、あの対応で本当に良かったのかな……」とか。私は薬剤師なので、新人とはいえおのずと「最後の関門」の役割になります。
一緒に働くみなさんを不安にさせないよう、落ち込みながらもとにかく必死で勉強しました。
おそらくこのコラムを読んでいるみなさんのなかには、登録販売者として「最後の関門」の役割を担っているという方も多くいらっしゃると思います。
私の経験と同じように「帰宅してから自分の接客を振り返ると落ち込んでしまう」という悩みをおもちの方は、きっとたくさんいることでしょう。実際このような悩みは私の元に多く寄せられています。
まずみなさんにお伝えしたいのは、「自分の接客を振り返る行為はすばらしい兆候」ということです。
もしもお客さまへ適当に接していたなら、そんな悩みをもつことすらありません。悩むのは一人ひとりのお客さまに対して真剣に向き合っている証拠です。
そうは言っても、自分の接客は正しかったのか疑問が浮かんだり、その時はベストな対応だと思っても、ほかにもっと方法があったのではないかと考えたりして、その日の接客を何度も繰り返し考えてしまうんですよね。
落ち込まないためにできること
大事なのは、1回1回のお客さま対応にできうる限りのベストをつくすことと、その日のできごとはその日のうちに決着をつけることです。
ここでは、落ち込まないためにはどうしたら良いのか、また、そうなってしまった時にどのように自分と向かい合えばよいのか、ヒントをご紹介したいと思います。
1.お客さまには誠実に対応する
本当はよくわからないのになんとなくの知識で受け答えると、のちのちトラブルになることもあります。わかっていることはきちんと説明し、わからないことは正直にお伝えしましょう。
また、自分の知識だけでは判断できないという場合、「わかりません」で終わらせずに一度調べてから返答するのがベストです。あらゆる知識を頭に入れておくことは不可能なので、添付文書や信頼できる書籍などの情報を積極的に活用しましょう。
医薬品の体への影響はすべて解明されているわけではないため、調べてもデータ不足であるとか、そもそもデータがない場合もあります。しかし、同じ「わからない」でも、「自分の知識不足でわからない」と「情報を調べた結果、わからなかった」ではお客さまの印象も大きく変わるでしょう。また、やるだけのことはやったと自分自身の納得感にもつながります。
【調べる時間をいただく場合のお声がけの例】
①お調べしますので、5分ほどお時間をいただけますでしょうか?
→お客さまをお待たせする場合、どのぐらい時間がかかるのかを具体的にお伝えします。
②お調べしたところ、Aに関しては〇〇とのことですが、Bに関しては明確な情報がございませんでした。ですので、私といたしましては△△がおすすめですが、いかがでしょうか?
→まず、調べてみてわかったこととわからなかったことをお客さまへクリアに伝えたあと、自分なりの考えを説明します。お客さまは判断材料としてあなたの提案を求めています。自分の考えを述べたうえで、お客さまに結論を出してもらいましょう。
③のちほどお電話でお答えしてもよろしいでしょうか?
→調べるのに時間がかかりそうな場合やほかのスタッフにすぐ相談できない場合、このような提案をするのも良い方法です。
④そちらに関しましては、私では判断いたしかねます。大変お手数をおかけしますが、かかりつけの医師・薬剤師にご相談ください。
→登録販売者の業務範囲を超えていると判断したら、このようにお伝えします。場合によっては、「法律上、登録販売者では判断しかねる」とお伝えするのも一つの方法です。このお声がけはどうしても突き放されたような印象を与えがちなので、「お力になれず……」などの思いやりの言葉を添えてください。
2.添付文書を確認する
添付文書は、お客さまへの情報提供の基礎となるもので、特に添付文書の「してはいけないこと」や「相談すること」の項目はとても重要です。判断に困ったときは、まず添付文書を確認し、それから対応を考えるようにしましょう。
添付文書の検索は、PMDA(医薬品医療機器総合機構)のホームページ(※)が便利です。サイトの一番上に、「添付文書等検索」と表示されています。そのなかの「一般用・要指導医薬品」というボタンをクリックし、販売名や成分名などを入力してください。
添付文書は基本的にメーカーのホームページにも載っていますが、市販薬の場合、ホームページが一般の方向けの作りになっているため、探しにくいことがあります。PMDAの添付文書検索機能を活用した方が、迷いなく進められるでしょう。
3.お客さま相談室を活用する
わからないことがあった際、誰にも聞けないという状況はとても不安になりますよね。また、PCを使いにくい職場や、書籍など資料の持ち込みがNGの会社もあると聞きます。
そのような時は製薬メーカーの「お客さま相談室」を活用しましょう。市販薬のパッケージには、お客さま相談室の電話番号が書いてあり、メーカーの担当者が直接受け応えてくれます。
質問の内容がより専門的である場合には、学術部など別の部署に回してくれることも。時間帯にもよりますが、比較的すぐに電話がつながります。
電話をかけるときは、以下の順でお伝えしましょう。
①会社名と店舗名
②登録販売者であること
③自分の名前
④質問内容
【電話をかける時の例】
〇〇ドラッグ銀座店、登録販売者の村松です。△△という商品についてお聞きしたいのですが、よろしいでしょうか?
このように伝えてから本題に入るとスムーズです。基本的に市販薬メーカーからは添付文書以上の情報は答えてもらえない場合も多いですが、内容によっては具体的なアドバイスがあることも。
また、お客さまとお話しするときにも「メーカーさまに確認したところ、このようにおっしゃっていました。」と、信頼できる第三者の見解をお伝えすると説得力が増します。上手に活用するようにしましょう。
4.その日のうちに解決する
わからないことは、必ずその日のうちに誰かに聞くか調べてから自分なりの結論を出し、次に同じような質問があったらすぐに答えられるようにする意識が大切です。
忘れないようサッとメモすることを習慣づけると良いでしょう。この積み重ねによってどんどんスキルアップしていきます。
5.今の気持ちをノートに書いてみる
自分が今感じている気持ちを、紙やスマートフォンのメモ機能にありのまま書きだすのもおすすめです。
気持ちをアウトプットすることが大事なので、殴り書きでも構いませんし、人に話すのも良いでしょう。なんとなくふさぎ込んだ気持ちを可視化してみると、意外な気づきを得ることがあります。
自分は今、何に不安を感じているのか?何に納得がいっていないのか?などが腑に落ちたら、次はどうしたらよいか対策を練ってみましょう。自然に「勉強しよう」と前向きな気持ちになることもあります。
悩んだ分だけ成長できる
自分の一日を振り返るのはとても大事なことです。落ち込む気持ちはあなたの伸びしろを表し、悩んだ分だけ成長できます。
悔しさをバネにしてどんどんスキルアップし、「理想の自分」に近づけていきましょう。
※PMDA(医薬品医療機器総合機構)https://www.pmda.go.jp/
【執筆者プロフィール】
執筆者:村松早織(むらまつ・さおり)先生
名城大学薬学部卒業後、医療用医薬品総合卸において企業内薬剤師として勤務。主に医薬品管理や医療機関への情報提供、セールスたちへの研修を行う。
その後、空港内ドラッグストアにて勤務。接客の傍ら、新入社員・登録販売者教育や、インバウンド対策の一環として英語の教育も行う。
2016年に㈱東京マキアを立ち上げ、登録販売者や受験生向けの講義を中心に事業を展開している。
YouTubeの『やっけんちゃんねる』では、現在4,000人を超えるチャンネル登録者に向けて、市販薬についての情報発信を行っている。
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