現場で役立つ知識
2022-06-03
下痢に効く市販薬をお求めのお客様への対応【薬剤師に学ぶ医薬品知識】
・Before
・After
気候が温かくなってくると、冷たいものを摂取する機会が増えたり、食中毒を起こしやすくなったりするため、下痢止めをお求めのお客さまが増えます。 しかし、下痢の症状に応じて、お客さまへ提案すべき薬の種類は大きく変わるもの。今回は、下痢の原因や下痢に効く市販薬の勧め方、薬ごとの特徴など幅広く解説していきます。
下痢の種類とその原因
下痢の原因にはさまざまな種類があり、それによって対応は変わります。
ここでは、3種類の下痢について簡単に見ていきましょう。
浸透圧性下痢
浸透圧性下痢とは、食べたものの浸透圧が高いために、腸で水分が十分に吸収されないまま排便されて起こる下痢です。
糖分の消化吸収が良くなかったり、人工甘味料を摂りすぎたり、乳糖不耐症の方が乳製品を摂ったりすることが原因です。
分泌性下痢
分泌性下痢は、腸管内の水分分泌量が増えることで起こります。
アレルギーがある食品を摂取したり、細菌やウイルスに感染したりしたときに起こる下痢です。
運動亢進性下痢
運動亢進性下痢は、ストレスや冷え、暴飲暴食などで自律神経のバランスが崩れたときに起こり、多くは腹痛を伴います。
腸が過剰に動くことで水分がしっかり吸収されないまま排便されるため、下痢になってしまいます。
下痢や軟便に効く薬とは?
下痢や軟便があるとき、薬の選択肢は下痢止めや整腸剤がメインとなるでしょう。
しかし、それぞれの成分によって下痢を止めるメカニズムが違います。
つまり下痢の原因によって適切な成分が異なるため、成分の特徴をおさえておくことが大切です。
下痢や軟便に効果的な薬は4種類
下痢や軟便に使用できる薬には、大きく分けて4つあります。以下に1つずつ紹介していきます。
腸内で過剰に分泌された水分を吸着する薬
浸透圧性下痢の場合は、腸内の水分を吸着させる成分が使用されます。
天然ケイ酸アルミニウムが代表的な成分ですが、こちらの成分が配合された市販薬はあまりありません。
殺菌作用をもつ薬
分泌性下痢のように細菌感染が原因の下痢には、殺菌作用がある薬を選ぶと良いでしょう。
ベルベリンやアクリノール、木クレオソートなどが代表的な成分です。
腸のぜん動運動を抑制する薬
運動亢進性下痢のように腸が過剰に動いているときには、ぜん動運動を抑える成分が効果的です。
具体的な成分としては、ロペラミド塩酸塩やロートエキスが知られています。
ロペラミド塩酸塩は医療用のロペミンと同じ成分です。
妊娠中でも、治療で使用する有益性が危険性を上回る場合に限り使用できる成分として知られています。
腸内環境を整える薬
乳酸菌やビフィズス菌は、腸内環境を整えて善玉菌を増やす働きがあります。
感染症や抗生物質の服用による下痢によく用いられる成分です。副作用はほとんどありません。
下痢止めと整腸剤の違い
下痢止め薬と整腸剤はどちらも下痢や軟便に使用されますが、働き方は大きく異なります。
下痢止め薬は、腸の動きを止めることで下痢を抑えます。
細菌感染が原因となる下痢症状の場合は細菌やウイルスの排出を遅らせてしまうので、症状によっては選択するべきでないケースもあります。
一方で整腸剤は、腸の動きには影響せずに善玉菌を増やし、腸内環境を整えるものです。
即効性はありませんが、下痢症状が続く期間を短縮する効果が期待できます。
感染症が原因の下痢にも使用可能です。
下痢止め薬や整腸剤の選び方
下痢止めは、症状に応じて適切な成分を選んでいく必要があります。
不適切な成分が含まれているものを選んでしまうと、症状が長引く原因となるので注意しましょう。
薬を使うほど症状がつらくない方
やり過ごせる程度の下痢でしたら、無理に下痢止めを使う必要はありません。
経口補水液で水分をしっかり摂り、乳酸菌やビフィズス菌が配合された整腸剤を使用するのも良いでしょう。
感染症の疑いがある方
細菌やウイルス感染症が原因と思われる場合は、整腸剤を選びます。
下痢止めを使用すると原因菌やウイルスの排出が遅れ、症状の悪化を招く恐れがあるため使用は避けます。
下痢だけでなく微熱や吐き気の症状もある場合は、まず感染症を疑ってください。
夏場であれば、素手で握ったおにぎり、お寿司やお刺身などの生ものが原因となりやすいです。
食品に素手で触れることで黄色ブドウ球菌が繁殖し、摂取してから数時間程度で下痢の症状が現れます。
生ものは腸炎ビブリオが原因菌となりやすく、こちらは摂取してから12時間前後で発症することが特徴です。
急な下痢で困っている方
できるだけ早く確実に下痢を止めたい方には、下痢止めの使用が適しています。
ただし、感染症でないかどうかは必ず確認しましょう。
ロペラミド塩酸塩やロートエキスは下痢をしっかり抑えてくれます。
効果を重視する方には、ロペラミド塩酸塩を勧めてみてください。
ロートエキスは抗コリン作用があるため、前立腺肥大症や緑内障の方には使用できないことに注意しましょう。
また、ロペラミド塩酸塩では眠気が、ロートエキスでは視調節障害や散瞳(瞳孔が大きくなる)などの症状が出ることがあるので、服用後に乗り物の運転をされる方にはベルベリンや次に紹介する木クレオソートを勧めます。
原因がわからない下痢で困っている方
感染症が原因であることを否定できない場合は、木クレオソートが主成分の下痢止めを選びましょう。
木クレオソートは腸の動きを止めることなく、下痢を抑える成分です。
そのため、感染症が原因の場合でも問題なく使用できます。
<対応例>下痢止め薬を求めて来店されたお客様の対応
◆人物データ
20代女性
職業 :営業職
既往症 :なし
服用中の薬:整腸剤
アレルギー:なし
症状 : 朝から下痢が続いている。吐き気や熱はない。
もともとお腹を壊しやすいことに悩んでいる。
◆対応例
お客さま:
すみません、下痢止めが欲しいのですが…。
登録販売者:
下痢止めですね。いつもお使いのものはありますか?
お客さま:
とくにないんですけど、普段から整腸剤は飲んでいます。
登録販売者:
下痢の原因として思い当たるものは何かありますか?
お客さま:
昨晩食べたものがあたったのかな…。よくお腹を壊すんです。
登録販売者:
何かにあたった場合は、腸の動きを止める下痢止めは使えないので、腸の動きを止めずに下痢を抑える木クレオソートが主成分のものを使ったほうが良いですね。
お客さま:
では、それでお願いします。
登録販売者:
頻繁にお腹を下しているようでしたら、一度病院を受診しても良いかもしれません。
下痢になりにくくするお薬もあるので、合う薬が見つかると日常が楽になりますよ。
お客さま:
ありがとうございます。今度行ってみますね。
接客のポイント
下痢の症状で来られたお客さまへの対応の際には、必ず感染症でないかどうかを確認します。
細菌やウイルスが原因の場合は下痢止めが使えないので、しっかりと覚えておきましょう。
今回のお客さまは原因がはっきりしなかったため、どのような下痢にも使える木クレオソートが主成分の商品を勧めました。
頻繁に下痢の症状が出る場合は、過敏性腸症候群や生理周期に伴う腹痛の可能性も考えられます。
このような場合は、適切な治療を受けることで症状が改善されるため、受診も視野に入れるようにお伝えしましょう。
病院に行くべき目安
次のような場合は、受診を促すようにしてください。
- 便に血が混ざっている
- 便の色が黒い
- 吐き気や嘔吐、発熱もある
- 同じものを食べた人も同時に下痢になった
- 排便後にも腹痛が続く
- 動いたり咳をしたりすると腹痛が強まる
- 下痢と便秘を繰り返している
- 激しい腹痛と下痢がある
- 水分補給ができていない
- 市販薬を使用して5~6日経過しても症状が改善しない
※高齢者や小児、持病のある方については、上記に当てはまらない場合でも受診勧奨を行いましょう
▼参考サイトはコチラ
一般社団法人日本臨床内科医会『下痢の正しい対処法』
下痢は症状の原因を確認することが大切
下痢症状にはさまざまな原因が潜んでいるため、お客さまへしっかりと聞き取りを行い、原因に則した治療薬を選択することが大切です。
下痢や腹痛の裏には、消化管出血や腹膜炎などが隠れていることもあります。
少しでも異変を感じたら受診を促すようにしましょう。
【執筆者プロフィール】
執筆者:岡本妃香里
薬学部を卒業後、都内の大手ドラッグストアで4年間勤務。毎日2,000人近くが来局する店舗でOTC販売を経験。現在は薬の正しい使い方や選び方を広めるために、執筆業をメインに活動。
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