現場で役立つ知識
2022-05-13
<登録販売者向け>更年期障害を緩和する市販の漢方薬やサプリをお求めのお客さまへの対応【薬剤師に学ぶ医薬品知識】
・Before
・After
40代半ばから50代半ばくらいの年齢になると、さまざまな不調が更年期障害としてあらわれます。のぼせや顔のほてりなどの身体症状のほか、イライラやうつなどの精神症状が代表的でしょう。 厚生労働省によると、更年期障害で通院している人の数は年間約25万人にも上るそうです。ドラッグストアや薬局でも、更年期障害に関する相談を受けることはめずらしくないでしょう。 今回は、更年期障害に使われる漢方薬やサプリメントの選び方、症状をやわらげるための対策や治療方法などについて詳しく解説します。
更年期障害とは?
更年期とは、閉経する前の約5年間と閉経した後の約5年間をあわせた10年間ほどの期間のことです。
女性の多くは50歳前後で閉経を迎えるため、40代半ばから50代半ばくらいの期間が更年期となります。
45歳くらいになると月経の際に違和感を感じ始め、体に明らかな原因がないにもかかわらずほてりやイライラなどの症状が出る「不定愁訴(ふていしゅうそ)」が見られるようになります。
この不定愁訴は、更年期障害の代表的な症状の一つです。
女性に多い更年期障害とは
更年期障害とは、更年期にあらわれるさまざまな不調のことです。
女性の体は、生涯を通してホルモンバランスが大きく変化しています。
なかでも更年期は、卵胞ホルモン(エストロゲン)を分泌している卵巣の働きが衰えてくる時期であるため、体調にも変化が出やすいのです。
前述の通り、更年期障害は一般的に40代半ばから50代半ばで起こるものです。
一方、30代後半から40代半ばにかけて更年期障害のような症状が出る「プレ更年期」も知られています。
原因
更年期障害が起こるのは、卵胞ホルモンが急激に減少するためです。
卵胞ホルモンの分泌量は、40代半ば頃から急激に減少します。
これにより自律神経が乱れることで体に不調を来すようになるのです。
プレ更年期が始まる30代後半も、ちょうど卵胞ホルモンが減少し始める時期になります。
そのため、更年期障害と似たような症状が出やすいのです。
主な症状
更年期障害であらわれる症状は人によってさまざまですが、主に以下の症状が知られています。
- ホットフラッシュ(発汗、のぼせ、ほてりなど)
- 倦怠感、疲れ
- めまい、立ちくらみ
- 息切れ、動悸、頻脈
- 耳鳴り、頭痛
- イラつき、不安、抑うつ
- 不眠
- 肩こり、腰痛
- 冷え症
- 不正出血、月経異常
更年期障害でない場合に出る症状も多く、最初のうちは「なんだか調子が悪いな」と感じつつも、原因がわからないため対処に困るケースもあるでしょう。
また、更年期障害だと思っていたけれど、実はうつ病やパニック障害などの精神疾患だったということもあるため、注意が必要です。
更年期障害への対策と治療方法
つらい症状がある場合は、早めに対策を始めて症状の緩和を目指しましょう。
お客さまから更年期障害について相談された場合は、状況やご希望に合わせて次のような対策を提案してみてください。
食事
更年期を迎えると、体の代謝が変化して栄養状態にも変化が出てきます。
その栄養を補ったり偏りを整えるため、バランスの良い食事を心がけることが大切です。
たとえば、「主食:副菜:主菜」を「3:2:1」の割合で食べるのが理想のバランスだと言われています。
魚介や野菜、大豆製品を多く使う和食はとくにおすすめです。
運動
更年期障害の改善には、運動も重要です。
山形大学と琉球大学が共同で行った研究では、1回20~50分の運動を週に2回行い、12週間継続することで更年期障害の症状が改善したこともわかっています。
運動と聞くと身構えてしまう方もいるかもしれませんが、ウォーキングやジョギング、ヨガやサイクリングなどのように低強度のもので問題ありません。
日常にうまく組み込み、無理なく続けましょう。
アロマ
アロマを使って心身を癒すアロマテラピーも、症状の緩和に効果があると考えられています。
好きな香りを楽しんだりマッサージに使ったりすると良いでしょう。
更年期障害の原因は卵胞ホルモン(エストロゲン)の減少であるため、エストロゲン様作用(女性ホルモンに近い働き)のあるものを選ぶのがおすすめです。
改善したい症状に合わせて、香りを選びましょう。
病院・クリニック受診
更年期障害は婦人科での治療が可能です。
生活に支障が出るほど症状がつらい場合は、我慢せずにまずは受診するようお客さまに伝えましょう。
漢方療法や少なくなった卵胞ホルモンを補って症状を改善させるホルモン補充療法(HRT)などの選択肢があります。
まずは、かかりつけ医に相談してみると良いでしょう。
市販の漢方薬・サプリメント
体の調子を整えて症状を緩和する漢方薬も有効です。
漢方の「気」「血」「水」の考え方に照らし合わせ、適切な薬を選択します。
漢方薬は病院やクリニックで処方してもらうこともできますし、市販で購入も可能です。
選び方について、次で具体的に見ていきましょう。
漢方薬・サプリメントの選び方
市販のもので更年期障害の症状を緩和する場合、漢方が第一選択薬となります。
漢方薬と一口に言ってもさまざまな種類があるので、お客さまの体質に合ったものを提案できるようにしておくことが大切です。
漢方薬(生薬)の選び方
更年期障害によく用いられる漢方薬には、次のものがあります。
・加味逍遙散(かみしょうようさん)
更年期障害への対策として最もよく使われている漢方薬です。
体力が中等度以下で、のぼせや疲れやすさ、冷え性などがある方に向いています。
・桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)
体力が比較的あり、肩こりや頭痛、めまい、手足の冷えなどがある方に用いられます。
・当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)
体力がなく、貧血の傾向があり疲れやすい方に向いている漢方薬です。
血行を良くしたり、水分代謝を整えたりすることで、冷え症の改善も期待できます。
・温経湯(うんけいとう)
体力が中等度以下で、手足にほてりがあったり、唇が乾きやすかったりする体質の方に向いています。
不眠などの症状がある場合にも、選択肢に入れると良いでしょう。
このほか、更年期障害の改善に効果がある生薬やビタミンを配合した「命の母A」という製品にも症状の緩和が期待できます。
3大婦人薬と言われている加味逍遙散と桂枝茯苓丸、当帰芍薬散の構成生薬を参考にして作られています。
サプリメントの選び方
漢方薬などの医薬品を使った治療をベースに行い、それを補助する目的でサプリメントを使うのも良いでしょう。
更年期障害によく使われるサプリメントの成分で有名なのがエクオールです。
エクオールは卵胞ホルモンと似たような働きがあるため、更年期障害の症状緩和に良いと言われています。
そのほか、エストロゲン様作用のあるイソフラボンや、慢性的な疲れにアプローチするビタミンやミネラル、貧血がある場合には鉄分などもおすすめです。
<対応例>更年期障害で来店されたお客さまの対応
◆人物データ
50代女性
職業 :接客業
既往症 :胃潰瘍
服用中の薬:なし
アレルギー:なし
症状 : 体がほてりやすい。気持ちの浮き沈みもあり、いくら寝ても疲れが取れない。
◆対応例
お客さま:
すみません、最近、体がすぐほてるようになってしまいまして…。何か良い薬はありますか?
登録販売者:
ほてりでお悩みなんですね。ほかに症状はありますか?
お客さま:
あとは、疲れやすさを感じるのと、なんとなく気分が落ち込みがちな気がします。
登録販売者:
手足の冷えはありませんか?
お客さま:
とくに気になることはありません。
登録販売者:
それでしたら、加味逍遙散という漢方薬を使ってみてはいかがでしょうか。のぼせや疲れやすさによく使われるものですよ。
お客さま:
では、そちらをお願いします。
登録販売者:
しばらく服用しても症状が続くときは、病院を受診してくださいね。お客さまの年齢くらいになると、ホルモンバランスが変化するので体調を崩しやすいんです。婦人科に行くと診てもらえますよ。
お客さま:
わかりました。ありがとうございます。
接客のポイント
ほてりは感染症や甲状腺機能亢進症、高血圧などによってもあらわれます。
今回のお客さまは、ほてりや疲れやすさ、気分の落ち込み以外に症状はないということで、これらの疾患は除外できるでしょう。
年齢的にも更年期障害の可能性があるのではと考えられます。
また、手足の冷えもないため、今回はのぼせや疲れやすさがある方によく使われる加味逍遙散をおすすめしました。
接客では、あえて「更年期障害」という単語を出さないようにしています。
お客さまによっては更年期障害と言われて嫌な気持ちになってしまうためです。
その代わり、年齢的にホルモンバランスの影響を受けやすい時期だと説明し、婦人科の受診を促しています。
男性の更年期障害も増えている
更年期障害は女性特有のものというイメージが強いかもしれません。
しかし、実は男性にも起こり得るもので、近年とくに注目を集めているのです。
男性更年期障害(LOH症候群)は男性ホルモンの一つであるテストステロンの分泌が低下することで、40代後半ごろから起こると言われています。
女性と同じようにのぼせや多汗、イライラなどの症状が起こるほか、勃起不全が起こるのも特徴です。
症状がひどい場合には、テストステロン補充療法や漢方薬などで治療を行います。
更年期障害は必要に応じて受診勧奨を
市販薬で更年期障害の対応をする場合は、漢方薬を使った治療がメインです。
治療を補助する目的でサプリメントをおすすめするのも良いでしょう。
更年期障害の症状として見られやすい不眠や不安などは、精神疾患でもあらわれます。
また、月経異常などの場合には、婦人病の可能性もあるでしょう。
症状の一部を聞いて更年期障害だと決めつけず、必要に応じて受診勧奨することが大切です。
また、お客さまに安易に「更年期障害」という単語を使わないような精神面での配慮も必要になるでしょう。
【執筆者プロフィール】
執筆者:岡本妃香里
薬学部を卒業後、都内の大手ドラッグストアで4年間勤務。毎日2,000人近くが来局する店舗でOTC販売を経験。現在は薬の正しい使い方や選び方を広めるために、執筆業をメインに活動。

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