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2022-02-10
【薬剤師に聞く】漢方を飲んだら痩せる?漢方ダイエットの注意点を解説
・Before
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「漢方ダイエット」、こんな言葉が叫ばれて久しいですね。「ぽっこりおなかを漢方で改善!」といった文言をドラッグストアなどで目にすると、「漢方薬で痩せられるんだ!」と多くの方が思ってしまうでしょう。今回は、そうした漢方ダイエットの注意点について解説します。
漢方ダイエットとは?飲むだけで痩せられる?
痩せるために漢方を飲む「漢方ダイエット」には大きな落とし穴があります。
そのことを、少なくとも薬の販売にかかわる私たちはきちんと理解しておかなくてはいけません。
そもそも大前提として「漢方薬(だけ)で痩せる」ということは、ほぼありえないためです。
東洋医学における肥満の原因とは?
肥満になる原因の大半は、生活習慣にあります。
生活習慣を改善せずに「漢方薬だけで痩せられる」と思うことが、すでにダイエットの失敗につながっていることを理解しましょう。
そのうえで、東洋医学における肥満の原因について考えていきます。
東洋医学とは、漢方医学のルーツである中国の伝統医学で、「中医学」もここに含まれます。
この東洋医学では、肥満の原因を痰湿(たんしつ)、脾虚(ひきょ)、臓毒証(ぞうどくしょう)、肝鬱気滞(かんうつきたい)の4つに分類しています。
今回はそれぞれについて詳しく解説していきます。
痰湿(たんしつ)
●「痰湿」とは
暴飲暴食や運動不足によって消化しきれずに体内に飲食物が停滞し代謝を下げて脂肪を増やしてしまうような病態と考えられています。
主な症状は、倦怠感、むくみ、胃部不快感(嘔気)、頭重などです。
粘性の高いヘドロのようなものをイメージするとわかりやすいですが、これらが体内に停滞すると胃腸系の働きを低下させたり、血管を詰まらせたりします。
この状態を放置してしまうと、血圧、血糖、コレステロールなどの数値にも悪影響を及ぼす可能性が高くなるのです。
●痰湿タイプの肥満を改善する方法
まずは暴飲暴食を止めて「腹七分目」くらいの食事量に設定すること、痰湿の原因となる脂っこいものや味の濃いもの、糖分の多い飲料水、チョコやクリーム(脂肪分+糖分)を使ったお菓子、そのほか高カロリー食品などをできる限り控えることが望ましいでしょう。
そのうえで定期的な運動習慣も必要です。
やや早歩きで20〜30分程度のウォーキングレベルの運動を、できる限り毎日行いましょう。
「運動なんてできない!」という方の場合でも、「エスカレーターやエレベーターを使わない」「一駅歩く」などの工夫で運動を習慣化する工夫をしましょう。
これらの生活習慣を行ったうえで、漢方薬をサポート的に飲むのは効果的です。
●痰湿タイプの肥満に有効な漢方薬
暴飲暴食で溜め込んだものの消化には「加味平胃散(かみへいいさん)」、食欲が普段はあまりないのに、なんとなくダラダラ食べてしまうタイプには「六君子湯(りっくんしとう)」などがおすすめです。
脾虚(ひきょ)
●「脾虚」とは
簡単に言えば、消化器系の機能が低い病態です。これは生活習慣よりも先天的な胃腸虚弱が起こす肥満である場合が多く見られます。
一方、後天的な生活習慣で胃腸を傷めて起こる場合も。
脾虚タイプには、「それほど食べていないにもかかわらず太る」という特徴があります。
食が細く、もともと量はあまり食べられないのに水太りのようにぽちゃぽちゃしている。そうしたむくみを伴う太り方をしてしまうのです。
そのほか、食欲不振、嘔気、貧血、面食萎黄(顔色が土気色)、筋肉がつきにくいなどの症状があります。
脾虚の人は消化器系の働きが悪く消化や吸収がうまくいかないために、栄養を作って体中に栄養を運ぶことが充分にできません。
そうすると、筋肉に締まりがなくなり水太りのような見た目になってしまうのです。そのため、「肥満」というよりも「しまりがない状態」と呼ぶのが正確でしょう。
●脾虚タイプの肥満を改善する方法
脾(消化器系)の働きを補う「補脾(ほひ)」の作用をもつ食材を積極的に摂ると良いでしょう。
たとえば、大豆、枝豆、じゃがいも、さつまいも、山芋、オクラ、なす、人参、豚肉などです。
「豆類」「イモ類」「根菜類」などで分類するとわかりやすいかもしれません。
また、脾に負荷をかけないために冷たいものや消化に悪いものを避け、ストレスケアに留意しましょう。
●脾虚タイプの肥満に有効な漢方薬
漢方薬としては、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)、参苓白朮散(じんりょうびゃくじゅつさん)、四君子湯(しくんしとう)などがよく使われます。
臓毒証(ぞうどくしょう)
●「臓毒証(ぞうどくしょう)」とは
胃腸に熱が起こる胃熱(いねつ)や便秘、口が渇くなどの症状が出ます。
食欲が旺盛で、体ががっちりした固太りタイプが多いのが特徴です。
臓毒証になると、食べたものが排便できずに熱となって体に溜まり、苦しさを感じるようになります。
それでも食欲が止められずにどんどん太ってしまうケースが多いです。
こうしたタイプのことを漢方では「実証(じっしょう)」という体質に分類します。
反対に、虚弱でエネルギーが不足しているタイプは「虚証(きょしょう)」とされるのであわせて覚えておきましょう。
●臓毒証タイプの肥満を改善する方法
まず「胃熱」を改善することが基本になります。そのために「清熱(せいねつ)」という熱を冷ます力をもった漢方薬が良いでしょう。
加えて、熱による便秘を改善する必要があります。
●臓毒証タイプの肥満に有効な漢方薬
清熱+便通を促す(下剤)効果をあわせもつ「防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)」がよく使われます。
「痩せ薬=防風通聖散」というイメージがありますが、あくまでも実証タイプの肥満にのみ用いられるものだということを忘れないようにしましょう。
虚証タイプの人が使うと体調不良を起こす場合があるので注意してください。
肝鬱気滞(かんうつきたい)
●「肝鬱気滞」とは
肝鬱気滞とは、東洋医学で体を流れるエネルギーとして定義されている「気」がうっ滞している病態です。
肝鬱気滞になるとイライラしたり、お腹が張ってガスが溜まったりします。
自律神経に悪影響があらわれることも多く、食欲が止められなくなってしまったり、反対に拒食になったりするケースも見られます。
肝鬱気滞の「肝」は東洋医学における五臓の一つで、ストレスによって機能を失調しやすい特徴をもっています。
そのため、「ストレス食いによる肥満」はこの肝鬱気滞が引き起こすことが多いわけです。
●肝鬱気滞タイプの肥満を改善する方法
ストレスケアを心がけること、肝が好む「酸味」の食材(柑橘類や酢など)や香草など香りの強い食材を積極的に摂ることが有効です。
また、大きな声を出したり軽く汗をかくような運動をするのも肝に良い影響を与えます。
●肝鬱気滞タイプの肥満に有効な漢方薬
五臓の「肝」の働きを改善する作用のある「加味逍遥散(かみしょうようさん)」や「抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)」などがあります。
これらを併用していくことで、ストレスによる過食などの改善も期待できるでしょう。
肥満の原因への適切なアプローチが重要
漢方ダイエットの大前提として、「原因へのアプローチを行うことが大切」です。
適切な漢方薬を選定するために肥満の原因を見極めることが必要という意識を薬を提供する側がもっておかなくてはいけません。
「肥満=防風通聖散」のような決めつけの選定は、漢方薬といえども危険な副作用につながる危険性があると充分に理解したうえで、慎重にお客さまに合った薬の選定に臨みましょう。
漢方薬には、正しく使うことで西洋薬とは異なる切り口ですばらしい効果を発揮するものがたくさんあります。
ぜひ正しい知識をもって、体質改善に悩む方の力になってあげてください。
【執筆者プロフィール】
執筆者:杉山卓也(すぎやま・たくや)さん
漢方薬剤師/漢方アドバイザー。「こころと漢方の専門家」として神奈川県座間市にある「漢方のスギヤマ薬局」でメンタルを中心とした漢方相談をするかたわら、東京都世田谷区に漢方専門店「成城漢方たまり」、1年間で中医学や薬膳、経済まで学べる「tamari中医学養生学院」の経営や漢方業界唯一のオンラインサロン「タクヤ中医学オンラインサロン」を運営し、600名を超える会員を集めている。
神奈川中医薬研究会会長、星薬科大学非常勤講師、合同会社Takuya kanpo consulting代表
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