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2021-02-12
【薬剤師監修】登録販売者が妊婦・授乳婦に医薬品販売する際の注意点やポイントとは?
・Before
・After
妊婦や授乳婦が医薬品を買いに来られたとき、おそらくほとんどの登録販売者が「この薬を売っても大丈夫なのだろうか」「子どもに影響が出てしまうのではないか」と不安になるのではないでしょうか。 どう対応すべきかわからず、焦ってしまった経験がある方もいるでしょう。ここでは妊娠中や授乳中の方が薬を服用するとどのような影響が出る可能性があるのか、販売してはいけない医薬品にはどのようなものがあるのかなどを詳しく解説します。
妊娠中・授乳中に薬を服用することで考えられる影響
まず、なぜ妊娠中や授乳中は薬の服用に注意が必要なのかをおさえておく必要があります。妊娠初期から後期、そして授乳中と分けて薬の影響を見ていきましょう。
妊娠中や授乳中の薬服用に注意が必要な理由
すべての薬が妊婦や授乳婦に影響があるわけではありません。ただ、多くの薬は、大なり小なり何かしらの影響があると言われています。
まずは妊娠中の母胎と胎児の関係についてです。
お腹のなかの胎児は、へその緒を通して胎盤から成長に必要な栄養をもらっています。母親が食べたものから必要な栄養素を厳選して胎児へと送っているのです。
胎盤はフィルターの役割も果たしているので、胎児にとって害となるものはブロックしてくれます。
しかし薬のなかには、胎盤のフィルター機能をそのまま通り抜けてしまうものがあり、胎児へと運ばれてしまう可能性があるため、服用に注意が必要なのです。
同様に、薬には母乳のなかに成分が移行してしまうものがあります。そのような薬を服用した状態で授乳すると、子どもに薬の成分の影響が現れる恐れがあるため注意しなければなりません。
妊娠中・授乳中の薬服用の影響
妊娠中に薬を服用した場合、妊娠週数によって胎児へ出やすい影響が異なります。
■4週未満
4週未満というと、まだ妊娠検査薬が使えない時期のため母親が妊娠に気づいていない時期です。
この時期は胎児の器官の形成が始まっていないため、市販の薬を服用したとしても影響はほとんどないと言われています。
■4週~7週
この時期は「絶対過敏期」と呼ばれており、薬の服用にはとても注意が必要な時期だと言えます。なぜなら4~7週は胎児の心臓や中枢神経など、生命活動にとても重要な器官が作られる時期だからです。
妊娠中にもっとも薬の影響を受けやすい時期にあたるため、とくに注意しなければなりません。
■8週~15週
絶対過敏期は過ぎましたが、まだまだ安心はできません。8~15週は胎児の手足や性器、口蓋などが作られる時期で、使用できる薬は限られます。
また、胎児によって異なりますが13週を過ぎればある程度の形成が終わるため、薬の影響で奇形が起きるなどの可能性は8~12週の時期よりも低くなります。
■16週以降
16週からようやく安定期です。ただし安定期=薬の影響が出ないというわけではありません。
この時期の服用が原因となって胎児が奇形を起こすことは考えにくいですが、薬の影響で発育が遅れたり精神的な発達に影響が出たりする可能性があります。
■授乳中
授乳中に服用した薬は、母乳中へ移行する可能性があります。とはいえごくごく少量の成分しか移行しないため、基本的には子どもに大きな影響が出ることはないと言われています。
しかし薬の種類によっては少量でも子どもに影響が出るものもあるため、自己判断で安易に服用するのは避けるべきでしょう。



【参考】妊娠中・授乳中に服用してはいけない薬
妊娠中や授乳中は、絶対に飲んではいけない禁忌の薬と、状況に応じて飲んでもよい薬とに大きく分けられます。
妊娠中に服用してはいけない薬
妊娠中の服用が禁忌となっている薬は主に次の通りです。
・抗精神病薬
・高血圧の治療薬
・脂質異常症の治療薬
・ホルモン剤
・糖尿病の治療薬
・抗がん剤
上記に挙げたものでも種類によっては禁忌でないものもあります。どれも市販薬では取り扱いがないものですが、市販薬であれば何でも販売してよいわけではないので注意してください。
禁忌ではないにせよ服用を控えるべきものや、妊婦が服用した際の安全性が確立されていない薬は市販薬にも数多く存在します。
たとえばジクロフェナクやフェルビナク、インドメタシンやロキソプロフェンなどは妊娠後期(28週~)に服用すると胎児の心臓や血圧に影響が出る可能性がある薬です。そのため使用は控えるようにとされています。
どうしても鎮痛剤が欲しいようであれば、飲み薬ならアセトアミノフェン、外用剤ならサリチル酸メチル配合のものを勧めるのが無難です。
ほかに鎮咳薬によく配合されているチペピジンやノスカピン、ブロムヘキシンなどは妊婦へ使用した場合の安全性についてまだ情報が不足しているため、こちらも販売は避けるべきでしょう。
授乳中に服用してはいけない薬
授乳中の服用が禁忌とされている主な薬は次の通りです。
・アミオダロン(抗不整脈薬)
・ダナゾール(子宮内膜症治療薬)
・免疫抑制剤
・酒石酸エルゴタミン(偏頭痛治療薬)
・炭酸リチウム(気分安定薬)
・シクロホスファミド(抗がん剤)
ほかにも禁忌の薬はありますが、妊娠中と比べると服用できる薬の種類はかなり増えます。
上記の薬はどれも市販薬では取り扱いがありませんので、こちらも相談を受ける頻度は少ないでしょう。
では市販薬だとどのような薬に注意が必要なのでしょうか。
たとえば鎮咳薬に含まれているコデインリン酸塩やジヒドロコデインリン酸塩は乳児の死亡例が報告されているため、授乳中の服用は避けるべきです。
ほかに胃薬に配合されているロートエキスは胎児が頻脈を起こす可能性があるため、こちらも授乳中の服用は避けましょう。
妊婦・授乳婦に医薬品を販売する際に確認すべきこと
妊婦や授乳婦が薬を買いに来られたら、最低限次の3つは確認しましょう。
妊娠週数
妊婦とひとくちに言っても、週数によって薬を販売できるかどうかが変わります。妊娠初期(~15週)は重要な器官が形成される時期なので、基本的には販売できないと考えてください。
ただし便秘薬として使われている酸化マグネシウムは、体内にほとんど吸収されないため用法用量を守って使用するのなら妊娠初期でも問題ないとされています。
妊娠後期(28週~)に入ると、痛み止めの外用剤や解熱鎮痛剤に含まれているジクロフェナクやロキソプロフェンなどの使用は控えなければいけません。妊娠後期の方にはこれらの薬を販売しないよう注意が必要です。
医薬品の記載事項
ほとんどの市販薬には「妊娠中・授乳中の方は薬剤師や登録販売者に相談すること」と書かれています。
なかには「妊娠中や授乳中は使用しないこと」と明示されている薬もあるので必ずパッケージの記載は確認しましょう。
パッケージの記載は妊婦や授乳婦に販売できるかどうかを判断する大事なポイントとなります。
かかりつけ医への相談有無
たとえパッケージに「妊娠中・授乳中の方は薬剤師や登録販売者に相談すること」と書かれていても、妊娠週数によってはお勧めできない場合も少なくありません。
妊婦や授乳婦への販売を判断するのはとても難しいため、必ず「かかりつけ医に相談されていますか?」とひとこと聞きましょう。まだ相談していない状態なら要注意です。
薬によっては子宮収縮を促して流産や早産につながるものもあるため、医師への相談なしに市販薬を使うことは高いリスクが伴います。
また、授乳中の服用が適さないケースもあるでしょう。
そのため妊娠中や授乳中に薬を服用する際の注意点をしっかりと伝えたうえで、かかりつけ医に相談するよう促してあげましょう。
そうすることで胎児や子ども、そして母親の安全確保につながります。
妊婦・授乳婦に健康に過ごしてもらうために、登録販売者ができること
妊婦や授乳婦が薬を買いに来られたときに「医師へ相談してください」とだけ伝えていては不親切だと言わざるを得ません。
たとえ薬を販売できない状況だとしても登録販売者ができることはたくさんあります。
適切な情報提供により不安を取り除いてあげる
妊娠中や授乳中は薬を飲んではいけないと思っている方がとても多いものです。
とくに妊娠中の方は「胎児に何かあったらどうしよう」と必要以上に過敏になり、つらい症状を我慢したまま生活している方が少なくありません。
登録販売者として、母親の体調にも考慮した適切な情報を伝え、不安を取り除いてあげましょう。
薬を飲む以外の解決策を提案する
薬を販売する、しないの2択だけでなく、服薬以外の解決策も提案してみましょう。
たとえば肩こりや腰痛で悩んでいる方に「患部を温めると筋肉がほぐれて血行がよくなるので、痛みが和らぎますよ」と温熱シートのようなものを勧めてみてください。
便秘で悩んでいる方に「水分を多めに摂って食生活を見直すだけでも便通が改善されますよ」とアドバイスするのも良いでしょう。
薬を使わなくても解決に導ける悩みもありますので、視野を広げてさまざまな角度から解決策を探すことが大切です。
自己判断せず、かかりつけ医に相談してもらうよう促す
ある方には問題なく使える薬でも、ある方には使用が向かないケースもあります。
薬の使用が適しているかを自己判断するのはとても難しいため、基本的にはかかりつけ医に相談してもらうよう促しましょう。
もちろん、できるだけの情報提供をした上で最終的に促すことが大切です。

登録販売者として適切な情報を伝え、基本的には受診勧奨を
妊婦や授乳婦へ市販薬を販売する際は、いつも以上に細心の注意が必要となります。
薬の相談を受けた場合は、妊娠週数とかかりつけ医へ相談しているのかどうかを必ず確認しましょう。
かかりつけ医へ相談していない場合は服用が適さないケースもあるため、情報提供をしっかりしたうえで基本的には受診を促してあげてください。
情報提供をしないまま受診を促すと「相談に乗ってくれなかった」と思われてしまう可能性があるので、頭から「かかりつけ医へ相談してください」と伝えるのは避けたほうが無難です。
相談された内容によっては薬の服用以外にも解決方法があるため、薬とは一旦距離を置いてアドバイスをするのもよいでしょう。
【執筆者プロフィール】
執筆者:木村妃香里
薬学部を卒業後、都内の大手ドラッグストアで4年間勤務。毎日2,000人近くが来局する店舗でOTC販売を経験。現在は薬の正しい使い方や選び方を広めるために、執筆業をメインに活動。

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