現場で役立つ知識
2020-10-30
他業種から学ぶ、怒りを笑顔に変えるクレーム対応術【日本クレーム対応協会 谷厚志に聞く】
・Before
・After
かつて某大手企業のお客さま相談室でクレーム対応を学び、様々な企業のコンサルティングやクレーム対応マニュアルの監修などを手掛けてきた日本クレーム協会代表理事の谷厚志さんに、クレーム対応の心構えから具体的な対応方法までを伺いました。
ドラッグストアを活躍の場としている登録販売者にとって、お客さまからのクレームは身近である反面、とても辛い業務のひとつでもあるでしょう。
とくに最近では新型コロナウイルス感染症の流行もあり、マスクやうがい薬の不足が続いています。不安に駆られたお客さまからの言葉に、気持ちが憂鬱になっている方も多いかもしれません。
そこで今回は、かつて某大手企業のお客さま相談室でクレーム対応を学び、様々な企業のコンサルティングやクレーム対応マニュアルの監修などを手掛けてきた日本クレーム協会代表理事の谷厚志さんに、クレーム対応の心構えから具体的な対応方法までを伺いました。
クレームの裏にある本質を理解する。クレームに隠されたお客さまの思いと対応方法
――そもそもクレームはなぜ起こるのでしょうか?
一番大きいのは、そこに期待があったということ。たとえばマスクの欠品でクレームが起きたときは、「ドラッグストアに行けばマスクが買える」という期待がお客さまにあります。
それが叶わなかったときに、困ったり、残念だったり、がっかりする気持ちがクレームにつながるのです。
実はクレームをよく受けるのは、超人気のテーマパークだったり、人気タレントをテレビCMで起用している大きな企業が大半です。なぜなら、もともとの期待値が高いから。
「期待していたようなサービスが得られなかった」「イメージと違った」となれば、それはクレームに発展します。
――期待値が高い業態ほど、クレームを受けやすいということでしょうか。しかし、そうしたクレームで疲弊してしまう従業員は多いのではないでしょうか。
そうですね。私自身もクレーム対応をするなかで、円形脱毛症になるまで追い詰められたり、クレームが怖くて夜も眠れなくなったことが過去にありました。
でもクレームに疲弊している方やストレスを感じてしまっている人は、そもそもクレームを受けた段階で自分が被害者である意識を持っている場合が多いんです。
クレームにはいくつか種類があります。対応しようがない悪質なクレームもなかにはありますが、たとえばマスクが買えなくて怒っているお客さまにとっての最大の目的は、マスクを買うことではありません。「マスクをすることによって感染を防ぎたい」というコロナへの不安からだったりするわけです。
そんなときに、「マスクはありません」と一方的に情報を伝えるだけでは、お客さまの不安はさらに増していくでしょう。ですから、お客さまのクレームの本質を捉えて“自分たちに何ができるのか”を考えて差し上げることがとても大切なのです。

クレーム対応法①「欠品に関するクレームの対処例」
――ここからは具体的なクレーム対応法について伺います。たとえば先ほど例にあげたようなマスクの欠品でクレームが発生した場合、どのような対応が望ましいでしょうか?
大前提として、クレーム対応において100%お客さまの要望通りの解決策は出せません。でも、代替え案を提案することはできるはずです。
たとえばある企業では、マスクはないけれど「手作りマスクの作り方」や「ハンカチでマスクの代用ができる」ことをお客さまにお伝えするように工夫しました。すると、多くのお客さまは「わかりました。1度試してみます」と言って、それ以上お怒りになることはなくなったんです。
つまりそれまでお叱りを受けていたのは、「在庫はありません。ないものは仕方がないじゃないですか」と言わんばかりの開き直りに対して怒られていたのだと思います。当時のニュースでは在庫欠品による理不尽なクレームなどが取り上げられていましたが、その一方で、「お客さまのために何かできないか」と考えて行動をとっていたドラッグストアにはクレームはなかったと聞いています。
――なるほど。お客さまが何に困っていて、どうすればそれを解消できるのかを考えて解決策を提示することが大切だったのですね。
はい。ただ、最近はマニュアル通りにやっていても怒られることがあります。たとえば、「ポイントカードはお持ちですか?」と聞くと、「持っているからこのお店に来たんでしょう!」と怒る方がいたり、「そんなの持っていないわ!」と怒る方がいたり……。
こちらはよかれと思って聞いたことでも、様々な怒り方があるんです。今は人の価値観が多様化してきているので、どんなタイミングでクレームが起きるのかが予測できない場面もあります。
だからこそ「同じことをやっても怒られる」という覚悟や意識はある程度持っておく必要があるでしょう。そうでないと、お店への期待値が上がり続けているこれからのクレーム社会で生きていくのは厳しいでしょう。
クレーム対応法②「同僚や部下のクレーム対応にフォローに入る場合」
――では、もし勤務中に同僚や部下が一方的にクレームを受けていた場合、フォローに入る術はありますか?
クレーム対応が1人でできれば助けに入る必要はありませんが、一方的にお客さまからお叱りを受けていて落ち着く様子がない場合は、フォローに入る必要がありますね。
普段から様々な企業からの相談を受けているなかでも、とくに多い業態があります。それが「市役所などの行政機関」「銀行」「クリーニング店」「携帯ショップ」の4つ。それが最初はとても不思議だったのですが、あるときカウンター越しに接客をしている業態にクレームが多いことがわかりました。
というのも、実は対面かつ正面での対応が一番クレームを言いやすい状況をつくります。ですから、クレーム対応の鉄則としては、お客さまの真横につくか、斜め45℃くらいの位置に立って対立構造をつくらないようにすることが基本です。
――なるほど。立ち位置にもコツがあるのですね。
そうなんです。とくに今回の質問のように店員が2人になると、1:2の関係をつくることで「応戦に来た」とお客さまを興奮させてしまいかねません。ですので、サポートに入る方は「何かお困りのことがありましたか?」と言ってさりげなく横から入るとよいでしょう。
このときのポイントは、横から入ってお客さま側の良き理解者であること、「お困りのことを私にも聞かせてください」というスタンスで入ります。すると、お客さまも次第に落ち着きを取り戻すことが多いです。
クレーム対応法③「悪質クレーマーの見極めと対応法」
――次に、悪質クレーマーについてお話を伺えればと思います。これまでお話しいただいたようなクレームとどのように見分ければよいのでしょうか?
悪質クレーマーの定義は、組織ごとに決めておくのがよいと思っています。たとえば、「大声を出したり、カウンターをバンバン叩くような行動を起こした場合」、「“馬鹿”などのNGワードをあらかじめ定めておき、それらの暴言を言ってきた場合」など。そうした定義を決めておいて、その基準に達した段階で対応を打ち切るのです。
昔は「お客さまは神様だ」と言われ、お客さま自身がそれを主張してくることもありました。でもそれはおかしな話で、そもそも神様かどうかを決めるのは事業主側で、お客さまではありません。
ビジネスは対等でよいと思っているので、そこが崩されるのであれば企業として突っぱねていくことも必要な時代になってきています。
――事業者側も、ある程度お客さまを選んでいいのですね?
はい。これからは、事業者側が選択権を持っていいです。そうでないと、現場にいる従業員が疲弊していってしまいます。
とくにこのコロナ禍で増えたのが、ストレス発散型のクレーマー。「マスクが買えないことで俺がコロナになったらどうしてくれるんだ!」という理不尽なことを言うクレーマーが増えたので、ドラッグストアに務めている方のメンタルがとても心配です。
そうした悪質なクレーマーに関しては、店長や責任者が出ていって毅然とした態度で「申し訳ございませんが、私どもでは対応できませんのでお帰りください」と言って頭を下げる。それでだいたいの方は帰っていきます。
もしそれでも居座ろうとしたり、従業員に暴力を振るいそうになったりする場合には、「これ以上は警察を呼びます」という言葉を最後においていただきます。
警察は事件が起きないと動かないと思っている人は多いですが、実はクレーマーが発展して事件を起こすケースは、ニュースで詳細を語られていないだけで結構多いのです。だから、今は警察もクレーマーに関しては事業者側から連絡があればすぐに動いてくれます。



クレーム対応後の従業員へのフォローの仕方
――仕事とはいえ、クレームを受けたときは気持ちも落ち込んでしまうものです。そうしたクレーム対応で落ち込んでいる従業員に、周りはどのようなフォローができるでしょうか?
クレームに強い組織は、従業員同士で褒めたり、ねぎらいの言葉を投げかけられます。「大変でしたね」「対応ありがとうございました」「私だったらできませんでした」とその人の頑張りを認めてあげることがとても大切です。
一方でクレームに弱い組織というのは、従業員からお客さまへの愚痴を吐き出させようとします。人の悪口を言うと、どんどん人のことが嫌いになって、お客さまにいい感情を抱かなくなってしまうんです。
そしてそういう組織にはクレームが多い傾向があります。ですから、落ち込んだり疲弊してしまっている人には、ねぎらいや褒め言葉をさりげなくかけてあげる。それが一番の方法だと思っています。
クレームは対応して終わりではなく、対応した人のフォローやメンタルをどう保つかというところもセットで考えなければいけません。クレーム対応をした方は英雄扱いをするくらい、その人の頑張りをみんなで褒めるようにするのがよいでしょう。
クレーム対応は「100回の謝罪より、1回の共感」
――かつて谷さんもクレームに頭を悩ませた経験があったそうですが、なぜここまで続けられてきたのでしょうか?
実は、僕の『怒りを笑いに変えるクレームコンサルタント』というキャッチは、クレーム対応で出会ったお客さまが名付け親です。最初の出会いは2時間くらいひたすら怒られて、それでもよき理解者になろうと思って必死にお話を聞いていました。
すると最後に、そのお客さまは笑いながら「こんなに言い訳もせずに聞いてくれたのはあなただけだよ。これからはクレームを言わないで、素晴らしい会社だと口コミを広げるようにします」と言ってくれました。
それからは僕が独立するときにも電話をくれたり、独立して一番最初の仕事はその方が所属する会社のクレーム研修でした。クレームがきっかけで信頼関係ができたお客さまが、いまでは僕の最強のサポーターです。
こうしてクレームをきっかけに仲良くなったお客さまはたくさんいて、当時会社を辞めるときには100人ほどのお客さまに手紙を送りました。
普通に仕事をしていただけでは、こんなにも多くの人と仲良くなることはありませんでした。でも、トラブルやクレームを乗り越えると、関係性はより深くなり、絆が生まれます。そうした経験からもっと多くの人にこのことを伝えたいと思って、僕の今の活動があるのです。
――確かに難しいことを一緒に乗り越えたり、親身になって考えてくれる姿勢が見えるだけでとても救われることがあります。お客さまも同じなのですね。
そうですね。ですから、クレーム対応をする際のマインドとして必ずもっていてほしいのは、「お客さまのことをわかろうとする気持ち」です。
クレーム対応がうまくできない人の多くは、謝り倒してその場をやり過ごそうとする場合が多いのですが、謝って許そうとしてもらうのではなく、どれだけお客さまに寄り添いよき理解者になれるかどうかがとても重要なのです。
100回謝るよりも、1回の共感が大切で「そんなことがあってはお困りですよね。ご期待に添えられず私たちも悲しいです」と一緒に困ったり、一緒にガッカリする。そうしたコミュニケーションができるかどうかで、クレーム対応へのストレスやかかる時間は大きく変わります。
――最後に、クレーム対応に悩む登録販売者の方へメッセージをお願いします。
クレーム対応で、100%の解決策は出せません。でも、不満をぶつけられても逃げずに「何かお困りごとを解決できることはないだろうか」と向き合ってあげると、お客さまはファンになってくれます。
「マスクは提供してもらえなかったけど、親身になって提案してくれたあのドラッグストアの店員さんは素晴らしかった」と思ってもらえたら、それは従業員の対応として正解だと思います。
クレームを怖がったり、ストレスを感じる方は、クレーム対応のやり方がわからない方がほとんどです。知識がないことをやるのは、クレーム対応に限らず怖いもの。
とくに接客業では普段の接客やレジ打ちなどは教えてもらえるのに、クレーム対応は教えてもらえる場面がほとんどありません。だからこれを機会に、クレームを学ぶ機会をもち、学ぶことによって恐怖心を取り除いてほしいです。
【プロフィール】
谷 厚志(たに あつし)
(一社)日本クレーム対応協会 代表理事。学生時代は関西を拠点にタレントとして活動。その後は企業のお客様相談室のクレーム対応責任者を歴任し、2,000件以上のクレーム対応を行う。その後独立し、クレームに頭を悩ます企業の支援のために、クレーム対応研修、講演会、クレーム対応マニュアルの監修、コンサルティング業務などを行う。フジテレビ系列『ホンマでっか!?TV』などのメディアにも出演。著書に『失敗しない!クレーム対応100の法則(日本能率協会マネジメントセンター)』、『ピンチをチャンスに変えるクレーム対応術(近代セールス)』などがある。

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