現場で役立つ知識
2022-04-01
【薬剤師監修】問われるAMR(薬剤耐性)対策。登録販売者にできることは?
・Before
・After
抜歯やケガ、細菌性の感染症などの治療時に処方される抗菌薬。細菌から体を守るのに有効な薬ですが、安易な使用は推奨されません。なぜなら、AMR(薬剤耐性)の拡大に関わっているためです。 AMRが拡大すると有効な抗菌薬がなくなり、感染症の蔓延にもつながる可能性があります。今回はAMRについて、その拡大の理由や登録販売者にできる対策などを詳しく見ていきましょう。
AMR(薬剤耐性)とは
AMRとは、「Antimicrobial Resistance」を略したものです。
日本語にすると「薬剤耐性」という意味で、抗微生物薬が効かない微生物(細菌、ウイルス、原虫など)を指しています。
抗菌薬とは、細菌の増殖を抑えるために用いる抗微生物薬のことで、抗生物質や抗生剤とも呼ばれます。
細菌のみにしか効果がないため、ウイルスや原虫などによる感染症に使用しても意味はありません。
ウイルスや原虫にも薬剤耐性は見られますが、今回は細菌のAMRを中心に解説します。
世界で拡大するAMRとその影響
AMRが拡大すると、本来有効だったはずの抗菌薬が細菌に対して効かなくなってしまいます。
これまで対処できていた感染症の治療が困難になるため、重症化を防げず、命に関わる事態も出てきてしまうでしょう。
治療が十分にできないと、思わぬ感染症が世界中に広まってしまう可能性も考えられます。
「薬剤耐性菌ができたのなら、また効く抗菌薬を開発すればいいのではないか」と思う方もいるでしょう。
しかし、新しい抗菌薬の開発は決して簡単ではなく、長期的に見れば抗菌薬の開発は滞っているのが現実です。
ここ数年ではAMR対策を目的とした様々な努力により新規抗菌薬の承認数が増えてきていますが、それでも新しい抗菌薬の開発のみでAMRを完全に克服することは難しいでしょう。
AMRによる年間死亡者数は2013年では70万人を超えたと見積もられており、今後何もAMR対策を施さない場合、2050年にはその数が世界で1,000万人にも上るとされています。
WHOの統計では、世界で2018年にがんで死亡した患者数は960万人です。それと比較すれば、この数がいかに大きいものか実感できるでしょう。
AMRの拡大については、70年以上も前から懸念されていました。現在、日本だけでなく全世界で対策が行われています。
AMRの歴史と変遷について
最も代表的な抗菌薬の一つであるペニシリンを発見したアレクサンダー・フレミングは、1945年のノーベル賞受賞講演において、すでにAMRの可能性について言及していました。
世界保健機関(WHO)も「No action today, No cure tomorrow(今日行動しなければ明日は治せなくなる)」と警鐘を鳴らしています。
AMRの脅威は、すぐそこまで迫ってきているのです。1980年以降、実際にAMRをもつ細菌の拡大が確認されています。
これまで使われてきていた抗菌薬が効かない感染症も増えてきており、対策をしなければ拡大の一途をたどるでしょう。
AMRが拡大する理由
では、なぜAMRが拡大してしまったのでしょうか。
主な原因は、抗菌薬の不適切な処方や服用によるものです。よくある不適切な例として、風邪に対して抗菌薬を処方するケースがあげられます。
風邪の症状の原因は、80~90%がウイルスによるものです。
抗菌薬は細菌にのみ効果を発揮する薬剤であるため、細菌とは全く別物であるウイルスが原因となる風邪に対して抗菌薬を使っても効果はありません。
しかし、風邪で受診した際、抗菌薬が安易に処方されてしまうケースや、患者さま自らが抗菌薬を希望するケースもあるのが現状です。
また、処方された抗菌薬を誤った方法で服用するのも問題です。
途中で症状が良くなったからといって服用を自己判断で止めたり、服用回数を勝手に減らしたりするのはAMRを拡大させる原因になり得ます。
なぜなら、服用日数や回数を減らすことで抗菌薬の血中濃度が不十分になり、細菌が抗菌薬に対して耐性をもってしまうためです。
AMR対策としての国の取り組み
AMR対策を進めるために、日本では2016年4月に『薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン(2016-2020)』が作成されました。
2016年から2020年までの5年間で、AMRの発生や拡大を防ぐ取り組みを行うというものです。
具体的には、次の6つのアクションプランが策定されました。
1.普及啓発・教育
AMRの理解や知識を深め、医師や看護師、薬剤師などの専門職の方への教育や研修を推進する。
2.動向調査・監視
抗菌薬の使用量を継続的に確認し、AMRの変化や拡大の予兆を的確に把握する。
3.感染予防・管理
適切な感染予防や管理を実践することで、AMRの拡大を阻止する。
4.抗菌薬の適正使用
医療や畜水産などの分野で抗菌剤が適正に使用されるよう推進する。
5.研究開発・創薬
AMRの研究や、薬剤耐性微生物に対する予防、診断や治療手段を確保するために研究開発を推進する。
6.国際協力
国際的視野で他分野と協働し、AMR対策を推進する。
これらのプランを通して抗菌薬の使用量を減らし、AMRの拡大を防ぐのが最終的な目標とされていました。
そして2021年12月にはAMR臨床リファレンスセンターより、その結果が発表され、「数値目標はほぼ未達だが成果は見られている」「AMR 対策の強化は長く取り組むべき重要課題である」と総括されています。
登録販売者にできるAMR対策とは
飲むタイプの抗菌薬は一般用医薬品としての取り扱いがなく、医師の処方が必要になります。
そのため、調剤の取り扱いがない場所で働いている登録販売者は、抗菌薬に触れることはないかもしれません。
そうした環境でも登録販売者にできるAMR対策について、以下で詳しく解説します。
抗菌薬の適正な使用方法を知っておく
最も大切なのは、抗菌薬の正しい使用方法を知っておくことです。
抗菌薬の種類や細かい特徴について覚える必要はありません。
最低限、次の2つについて把握しておきましょう。
・抗菌薬は細菌に対してのみ効果を発揮する
抗菌薬は細菌の増殖を抑える薬であり、ウイルスや原虫などには効果がありません。
そのため、症状が出る原因の80~90%がウイルスである風邪の治療には使えないことに注意しましょう。
・抗菌薬に熱を下げる効果はない
抗菌薬に解熱効果はありません。
風邪のときに抗菌薬が処方されることもあるため、熱を下げる効果があると認識されがちですが、これは誤りです。
「熱が出たので抗菌薬が欲しい」と相談を受けた場合は、医師の処方が必要であることをご理解いただくとともに、抗菌薬の服用は風邪には効果がないことを説明しましょう。
感染症対策を徹底する
AMR対策には、抗菌薬を使う機会を減らすため、感染症予防の基本的な知識を身につけるのも大切です。
まず、簡単に実践できる感染対策は手洗いです。
たとえば、流水で15秒洗うだけでも手に付着していたウイルスが約1%にまで減少します。
ハンドソープで60秒もみ洗いしたあとに流水で15秒すすいだ場合には、約0.001%にまで減ったというデータもあります。
細菌に関しても同様のデータがあり、石鹸と流水による手洗い(30秒)で手に付着していた細菌の99%以上を除去できるとされているのです。
なお、手洗いの際は、親指の付け根や指先、指と指の間は汚れが残りやすいので、意識して洗うようにしてください。
また、新型コロナウイルスの感染拡大の影響もあって、手指消毒用アルコールによる手洗いは日常の一部となりつつあります。
石鹸やハンドソープを使った手洗いを上回る効果が期待でき、かつ水道を必要とせずどこでも実施可能であることから、有用な手洗い方法と言えるでしょう。
実際、新型コロナウイルス対策で多くの方がアルコールによる手洗いをするようになった結果、毎冬流行しているインフルエンザが抑えられていることからも、その有用性が実感できると思います。
手指消毒用アルコールの多くは医薬部外品であるため、登録販売者が直接販売に関わることも多いでしょう。
手指消毒用アルコールを使った正しい手洗いの方法や使用上の注意点についてしっかりとお客さまに説明するのも、登録販売者がAMR対策に貢献できる大切な仕事です。
そのほか、ワクチン接種もAMR対策に有効です。
肺炎球菌や破傷風、百日咳などの細菌による感染症はワクチンの接種によって予防できます。
ワクチンを接種すると体内で免疫が作られるため、発症や重症化を防げる可能性が高くなるのです。
その結果として、抗菌薬を使用する患者さまが減り、AMR対策につながることが期待できるでしょう。
AMR対策は登録販売者にもできる
抗菌薬の不適切な処方や服用によって、薬剤耐性をもった細菌の増加が問題になっています。
治療不可能な感染症があらわれたり、軽症で済むはずの疾患が重症化したりする可能性があるため、対策に取り組むことが大切です。
登録販売者が抗菌薬に直接関わる機会はほとんどありませんが、その適切な使用方法や感染症予防の知識は身につけておきましょう。
さらにコロナ禍で需要が高まっている手指消毒用アルコールについては、ほとんどの登録販売者が販売に携わっているのではないでしょうか。
販売時のお客さまへの指導によって感染症の拡大を防ぐのも、登録販売者にできるAMR対策の一つと言えるでしょう。
【監修者プロフィール】
監修者:山本武人(やまもと・たけひと)さん
東京大学薬学部卒業後、同大学院薬学系研究科に進学。修士課程修了後に東京大学医学部附属病院薬剤部に入職、主に薬物血中濃度モニタリングや感染制御業務を担当。博士号取得後、2015年より東京大学薬学部・医療薬学教育センター講師に着任、現在に至る。薬学部学生に対する臨床実務教育の傍ら、医学部附属病院にて感染制御チーム(ICT)および抗菌薬適正使用推進チーム(AST)業務も担当。また、医師、薬剤師との共同研究も積極的に展開している。

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