現場で役立つ知識
2020-10-09
<登録販売者向け>咳止め薬を探して来店されたお客さまへの対応【薬剤師に学ぶ医薬品知識】
・Before
・After
咳が止まらず仕事に集中できない、眠れないほど咳き込む……咳はとくに辛い呼吸器系の症状で、生活にも影響します。それだけにお客さまは「一刻も早く咳を止めたい」という強いニーズを持って来店されます。 種類が豊富な咳止め薬の中から症状にあったタイプの薬を選べること、ときには最適なタイミングで受診勧奨を行うことも登録販売者に求められるスキルです。 そこで今回は咳の種類の見わけ方、登録販売者が注意すべきこと、店頭での接客方法についてご紹介します。
「咳」の症状について
とても身近な症状である咳は、風邪やインフルエンザで誰もが経験しているといっても過言ではありません。咳は外から入ってきた異物を外へ出そうとする防御反応の一つです。
ほこりやウイルス、細菌などの異物が体内に入ってくると、咽頭や気管、気管支など気道粘膜の表面にある咳受容体が感じ取ります。その刺激が脳の咳中枢と呼ばれる部分に伝わり、呼吸を行う筋肉に伝わって咳が生じるのです。
この一連の反応を「咳反射」といいます。 咳には気道に絡んだ痰の排出を促す意味も。ウイルスなどが入ってくると、痰の粘性が増すため、粘膜にある繊毛(せんもう/細胞表面に密生する、きわめて細く短い毛)の運動とともに咳反射によって排出を促します。
咳は良くない症状と思われがちですが、本来は体を異物から守るための現象です。しかし放置していると体を消耗させてしまうので、早期に適切な治療を開始するようお客さまに促しましょう。
咳の種類の見わけ方
ひとくちに咳といっても、大変多くの種類があります。とくに店頭で咳を見わける指標としては痰が絡んでいるかどうかがポイントになります。
咳には「湿性咳」と「乾性咳」があり、適応する薬の種類も変わります。まずは、それぞれの咳の特徴と原因について確認しておきましょう。
湿性咳
痰をともなって湿り気のある咳を「湿性咳」といいます。「ゴホッゴホッ」といった咳で、痰が出るかどうかが見きわめのポイントです。
私たちの気道粘膜は絶えず粘液が出て湿っている状態です。しかし、感染など何らかの理由により粘液が増えると呼吸のさまたげとなるため、咳反射により排出されます。
それが痰であり、分泌量や粘度によって咳の症状にも影響します。
原因
痰が出るということは、何らかの感染や炎症が起きている可能性が高い状態です。考えられる原因としてもっとも多いのは風邪ですが、ほかにも次のような原因が考えられます。
・インフルエンザウイルス
・蓄膿症
・肺炎
・気管支喘息
・慢性疾患ではCOPD(慢性閉塞性肺疾患)
・気管支拡張症
・肺結核 など
乾性咳
痰をともわない乾いた咳を「乾性咳」といいます。「コホン」「ケホッケホッ」のような咳で、痰は絡んでいないことが湿性咳との違いです。
原因
乾性咳の場合、身近な症状としては風邪の初期である場合が多いものです。ほかにも次のような可能性があります。
・気管支炎が治ったあとに長引いている
・間質性肺炎、肺がん
・百日咳、マイコプラズマ肺炎などの感染症
・アトピー性咳嗽
・咳喘息 など
意外なところでは逆流性食道炎による咳や、降圧利尿剤などの薬剤性による乾性咳もあります。
また、新型コロナウイルス感染症の初期症状としても注意しなければなりません。
なお、感染後に長引く咳嗽や肺炎など、乾性や湿性だけでは判別しにくい場合もあります。急性の症状か慢性的な症状かどうかも含めて、咳の鑑別は総合的に判断することが大切です。
登録販売者が確認すべきこと
では、実際に咳の症状があるお客さまが来店された場合、登録販売者が確認すべきことは何でしょうか?ここでははずせないポイントに絞ってご紹介します。
①湿性咳か乾性咳か?咳の種類を確認
まずチェックしたいのが「痰」の有無です。湿性咳である場合には、咳をむやみに抑えてしまうと痰の排出を妨げる恐れがあります。
痰が絡んでいるならば、その排出を促す去痰成分や気管支拡張成分が入った医薬品が適切でしょう。 ただし痰が多い場合、コデインリン酸塩は粘液分泌を抑えてしまうため、余計に痰の粘性が高くなるので適しません。
乾性咳の場合は中枢性の鎮咳成分が入った医薬品が適応します。湿性か乾性か、それぞれの症状に合わせて成分を選びましょう。
②ほかの症状や病歴はないかを確認
「とにかく咳が辛いからすぐに止めたい!」という理由から咳止め薬を指名買いされる場合にも、念のためほかの症状をともなっている可能性を疑いましょう。
発熱や鼻汁、悪寒がするなどの場合には、咳止め成分の入った総合感冒薬や漢方薬が適していることもあります。 また、喘息や肺疾患がある場合など、市販薬では対応しきれない可能性も疑いましょう。
市販薬の咳止め薬は医療用で使用経験がある成分のごく一部です。とくに抗生物質や吸入薬などは市販薬にはありません。病歴や症状を聞き取って、市販薬で対応できるのかどうか慎重な判断が求められます。
③使用上の注意に該当しないかを確認
咳止め薬の使用上の注意には、様々な注意事項が記載されています。
服用できない場合や医師に相談が必要な場合、販売に注意しなければならない場合などが定められているので、事前に確認したうえで店頭でも十分に確認してから販売しましょう。
・ほかの総合感冒薬や鼻炎薬、咳止め薬を服用中である(併用はできない)
・コデイン類や抗ヒスタミン成分を含むものは眠気の副作用があるため、服用後に車の運転や機械の運転操作はできない。
・妊娠中、妊娠している可能性がある、妊娠中の人
・高齢者
・排尿困難の症状がある、心臓病、糖尿病、高血圧、緑内障、甲状腺機能障害、呼吸機能障害、閉塞性睡眠時無呼吸症候群、肥満症など持病がある
・これまでに咳止め薬でアレルギーを起こしたことがある
④長期服用で改善しない咳への対処
咳止め薬の使用上の注意には、5〜6回服用しても改善が見られない場合は服用を中止し、病院を受診する旨の記載があります。
販売時にもひとこと添えることが、重大な疾患の発見を早めるためにも大切です。
麻薬性のコデイン類を配合している鎮咳剤や総合感冒薬を服用する場合は、長期連用しないよう注意を促す必要もあります。コデイン類は麻薬のモルヒネと似た構造を持つため薬物依存性があり、濫用する事例も報告されています。
何度も来店される場合は状況を確認した上で販売するべきかどうか慎重に判断しましょう。
<対応例>咳の症状で来店されたお客様の対応
咳の症状で来店されたお客さまを想定して、実際のやりとりを会話形式で見ていきましょう。
◆人物データ
・40代女性 主婦
・症状 : 湿性咳、夜も眠れない
・既往症:喘息の既往あり(ただし10年以上喘息発作は起こしていない)
お客さま:
すみません、咳止め薬が欲しいのですが…
登録販売者:
咳が続くのですね。それはお辛いですね。いま熱はありますか?
お客さま:
熱もなく、咳が出るだけなんです。少し前に風邪を引いたのですが、咳だけ残ってしまっているみたいで。
登録販売者:
ほかの症状がなければ咳止め薬が良さそうですね。ちなみに痰は絡みますか?ゴホゴホとした咳と、コホコホとした咳ではどちらでしょうか?
お客さま:
ゴホゴホっと咳き込む感じです。痰が出そうで出なくて辛いんです。とくに寝ているときに咳が止まらなくなるので眠れなくて困っています。
登録販売者:
そうなんですね。その咳は痰を出そうとしている反応なので、咳を止めてしまうと痰の排出がさまたげられて余計に出しにくくなってしまいます。その症状であれば中枢性の咳止め薬よりも、痰切り成分が入っている商品がおすすめです。
お客さま:
それで寝ている間の咳も落ち着きますか?かなり苦しいので痰切りだけでは心配なのですが……。もともと喘息で今はずっと発作もないのですが、その時のように夜中も咳で眠れないので辛いのです。
登録販売者:
以前に喘息をおもちだったのですね。では気管支拡張成分が入っているこちらはどうでしょうか?寝ている間に狭くなりがちな気管支を広げて呼吸を楽にしてくれますよ。喘息の治療に使われている歴史ある成分でもあります。
お客さま:
それは良さそうですね。試してみます!
登録販売者:
ちなみに、心臓病や甲状腺疾患など持病はございませんか?
お客さま:
とくにないですね。
登録販売者:
まれに動悸や吐き気などが起きることがありますので、注意してくださいね。また、5,6回服用しても改善しない場合は病院を受診してください。喘息の既往があるということからも、風邪をきっかけに喘息が再発する場合もあります。長引くようならば早めにご相談くださいね。お大事にしてください。
接客のポイント
今回のお客さまは湿性咳で夜も眠れないほどの症状にお困りでした。咳の種類と痰が出にくいという状況から、去痰剤が適応になると判断できます。
咳止め成分が入っていないと不安になるお客さまも多いため、咳を抑えない方が効果的であること説明して理解を促すことも意識しました。
また、喘息の既往があり現在は発作なしとおっしゃっていますが、夜眠れないという症状から気管支が狭くなっている可能性が考えられます。
そこで、去痰剤だけではなく気管支拡張剤(テオフィリン等)を含むタイプで様子を見ていただくのが良いでしょう。お客さまとしても効果を実感しやすいはずです。
近年では風邪をきっかけに喘息が再発する場合や、咳喘息へと移行するケースも増えています。とくに40代以降の女性では喘息の発症が増える傾向にあるため、改善が見られない場合には速やかに受診するようにとフォローしたこともポイントです。
咳止めの薬を販売する際の注意点
咳止め薬は身近なお薬ですが、使い方次第では思わぬ副作用やトラブルが起きることもあります。咳が続くと体力を余計に消耗して回復が遅れることも。
適切な使用を促すためにも、とくに次の注意点を押さえておきましょう。
①咳が3週間以上にわたり続く
最も多い咳の原因は風邪ですが、風邪の咳であれば3週間も続きません。もし熱や倦怠感などもなく元気な状態でも、3週間以上咳が続くならば何らかの病気があると考えて良いでしょう。
たとえば、痰に粘り気があり、黄緑色など色を帯びている場合は抗生物質の投与など治療を早期に受ける必要があります。
②乾いた咳が長引いている
風邪であれば通常は免疫反応によって自然治癒できます。市販薬の咳止め薬は、あくまでも辛い症状を一時的に抑えて日常生活を過ごしやすくし、体力の消耗を防ぐために意味があるもので、根本的な治療にはなりません。
しかし、乾いた咳が長引いていても、そこまで辛くないと市販薬を飲んで放置してしまう方が多くいます。
長引く乾いた咳は咳喘息や百日咳など、大人でも問題となる病気の可能性があり、放置するほど治療が厄介になるのです。
咳がどのくらいの期間続いているのか確認して、適切に受診勧奨を行いましょう。
③小児に対する販売は注意が必要
咳止めシロップを求めに来られる場合、お子様の咳に悩んでいると容易に想像できます。
しかし、2歳未満の小児の場合は原則受診をすすめることとして、夜間で受診できない場合などやむを得ない場合のみの販売と考えておきましょう。
12歳未満ではコデイン類が使用禁止となっているため、販売時には十分注意しましょう。
咳の症状をあなどらず、慎重に適切な判断を
咳止め薬はとても身近な存在のお薬で、困ったときに頼りになる存在です。しかし、最近ではお薬の種類も豊富にあり、お客さまがご自身で適切な商品を選ぶことは困難でしょう。
症状に合った薬を選択しなければ、効果が得られないどころか悪化させてしまう可能性もあります。お客さまの満足度を上げるためには、いかに登録販売者が適切にアドバイスできるかが鍵を握っているといっても過言ではありません。
お客さまのお悩みが深刻であるほど、登録販売者など薬局のスタッフに求める期待は高くなるものです。お客さまの気持ちに寄り添って適切な提案とアドバイスができるよう、日々スキルアップを続けてくださいね。
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