著名人コラム
2022-05-27
【店舗運営のプロに聞く】ドラッグストアにおける売上アップのための目標設定のコツとは?<プロに学ぶ登録販売者のマネジメント論>
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売上予算に対して責任をもつ店長であれば、予算達成のためにスタッフに協力を呼びかけている人は多いでしょう。しかしスタッフに対して、「売上予算達成のためにがんばってほしい、協力してほしい」「売上目標○○○○万円!前年比110%を達成するぞ!」など声をかけるだけでは、何をどのようにがんばれば良いのかイメージできず、普段どおりの働きぶりにならざるを得ません。その様子を見て店長がイライラしても、お店の雰囲気が悪くなるだけでしょう。そうならないために、予算達成に向けた具体的な目標設定が必要です。 今回は売上アップ、予算達成のための目標設定について解説したいと思います。
目標設定の5つのSTEP
売上アップ、予算達成のためにはより具体的な(アクションにつながる)目標が必要です。
目標設定の際は、下記の5つのSTEPで取り組むと良いでしょう。
1.現状把握
2.具体的な目標設定
3.進捗管理
4.結果の検証
5.記録
各STEPの詳細は、次で見ていきましょう。
1.現状把握
現状を把握したいときは、下記を基に考えます。
目標値に対する現状のギャップが取り組むべき課題です。
まずは現状を整理し、課題を正しく認識しましょう。
このギャップが大きいほど、課題解決のために取り組むアクションの量や質を上げなければなりません。
アクションの内容については、得られる成果を試算し、「継続した結果、目標に到達するか」をシビアに分析して決める必要があります。
2.具体的な目標設定
冒頭でお話したように、ざっくりとした目標を掲げてスタッフに声をかけるだけでは、その達成は難しいでしょう。
具体的な目標設定のためには、以下の3つを意識しましょう。
・売上予算達成や達成率
…KGI(Key Goal Indicator/重要目標達成指標)
・KGIを達成するために必要な要素
…KPI(Key Performance Indicator/重要業績評価指標)
・KPIに到達するための具体的な行動
…KAI(Key Action Indicator/重要活動評価指標)
どういった内容を設定すれば良いのか、もう少し具体的に見ていきましょう。
・KGI
…売上予算達成、個人売上目標達成、売上ランキング1位、予算達成率120%など
・KPI
…カテゴリー別売上、客数、客単価、買い上げ点数、人時売上高、新規カード加入数、新商品予約件数など
・KAI
…新商品ご案内件数、チラシ配布枚数、サンプル配布件数、ポイントカード配布枚数、お声がけ件数など
たとえば、KGIを予算達成率120%に設定した場合、KPIを「1)新商品予約件数」「2)新規アプリ会員登録件数」とします。
各KPIに到達するためのKAIは、たとえば以下のように設定します。
■KPI1
新商品予約件数
■KAI
・新商品の案内件数(既存顧客への声掛け)と予約率
・新商品のリーフレット配布枚数(店内設置)
・SNSの発信件数と「いいね」件数
■KPI2
新規アプリ会員登録件数
■KAI
・会員アプリのフライヤー配布枚数
・会員アプリの口頭での案内件数
・会員アプリをその場でダウンロードした件数
このKPIとKAIをチームや個人の目標とし、日々進捗を管理します。
とくにKAIの現場でのオペレーション(進め方)については、より具体的かつ現実的に決めておく必要があるでしょう。
たとえば新規アプリ会員の案内については、トークスクリプト(案内する際の台本や固定話法、言い回し)を作成する際、シーン(お客さまの状況)別での対応方法や声かけのタイミングなどもあわせてマニュアル化する必要があります。
そうすればチェックリストの作成が可能になり、スタッフが案内時にお客さまに必要なことを伝えられているかを上長としてチェックできます。
とくにKPI・KAIの達成率が低いスタッフに対しては、何ができていないか細かく指導する必要があるでしょう。
このチェックリストを用いることで、短期間で課題を見つけて解決する方法を見つけられるというわけです。
3.進捗管理
進捗管理は、デイリー(毎日)、ウィークリー(毎週)、マンスリー(毎月)で行います。
朝礼や終礼、会議、報告会などで進捗を報告する仕組みを作り、管理がルーズにならないように工夫すると良いでしょう。
報告用に定形フォーマットを準備し、そのフォーマットを埋めるだけで必要な情報がまとめられるようにしておくと、報告する側とされる側の負担が軽減できます。
また複数店舗を展開している企業の場合には、各店舗の取り組みをほかの店舗でも見れるようにすれば、成功事例を水平展開できるでしょう。
4.結果の検証
良い結果、悪い結果のいずれの場合にも検証が必要です。
なぜうまく行ったのか、失敗したのか、それぞれ原因を考察し、今後の取り組みに活かしましょう。
5.記録
4で検証した結果を記録に残すのも重要です。
その際、数字だけの記録だと何を行って得られた成果なのかが当人にしかわからなくなります。
異動などで後任に引継ぐことも想定しながら、見やすくわかりやすい記録を書面やデータに残しておきましょう。
目標設定の5原則とは
目標を立てる際には、下記の5つを意識して行いましょう。
1.合意が得られている
目標をスタッフに押し付けるのでは、本人に前向きに取り組んでもらえません。
必ず意見を聞き、協議したうえで目標を設定しましょう。
2.具体的である
方向性を示しただけでは、何に取り組めば良いかわかりません。
前述のKPIやKAIに落とし込み、具体的な行動が取れるような目標を立てましょう。
3.現実的である
現実からかけ離れた目標では意欲が湧きません。
現実的に達成可能な目標を立てましょう。
4.測定可能である
KPIやKAIは定量評価できるようにしておきましょう。
「がんばる」「積極的に取り組む」「自主的に動く」などといった抽象的な内容では、目標達成に近づいているかどうかわかりません。
5.報酬(精神的・経済的)がある
見返りがあれば、人はがんばれるものです。
金銭的な見返りでなくとも、きちんと評価されることが重要です。
目標を達成したときの報酬(精神的・金銭的)は明確にしておきましょう。
目標に対する参画意識を高めるためのポイント
人は具体的に指示されればされるほど、「やらされ感」が出やすいものです。
一方で、自分で考えて決めたことについては、率先して行動し、周囲に対しても模範的な行動を取りやすいとされています。
そのため、KAIのオペレーションについては、担当を決めてスタッフやチームに任せるのも有効です。店長は方向性を示し、具体的なアクションはスタッフやチームに任せます。
易し過ぎるアクションプランについては指示や指導を行いつつ、自発的な行動を喚起するために任せることも必要なのです。
とはいえ、自分(自分たち)で取り組みを決められない人もいます。
そういった場合は質問を通して気づきを与え、自己決定させる「コーチング」を用いるのも効果的です。
コーチングとは、質問によって考えや能力を引き出すコミュニケーション術の一つです。具体的には、以下のような質問です。
「どうすればKAIの成果が出ると思う?」
「過去にうまくいったときには何をやっていたかな?」
「成果が出ている店舗はどんなことをやっているのかな?」
「具体的にはどんな準備が必要かな?」
「期日までに成果を出すためにはどんなスケジュールで進めたら良いと思う?」
「計画通り進んでいないときは何時までに計画変更の判断をしたら良いと思う?」
スタッフに考えさせて自己決定を促せば、取り組む姿勢は大きく変わるでしょう。
この際の注意点は、スタッフの考えを頭ごなしに否定しないことです。
多少時間がかかっても、しっかり話を聴いて、具体的なアクションにつながるように質問を続けましょう。
具体的な目標設定とモチベーションアップにつながる巻き込み方が重要に
目標に掲げただけで、売上予算を達成するのは困難です。
達成のためには、KGIとKPI、KAIのつながりを意識して三段階で具体的な目標を立てましょう。
また、目標は店長だけが把握するのではなく、店舗のスタッフを巻き込み、一丸となって取り組むのが重要です。
個人やチームに目標を与えて具体的な行動に落とし込ませ、店長はそのフォローを行います。
目標を達成させる力があることを前提に、スタッフを信じて頼りましょう。
全員で目標を達成したときの喜びは仕事のやりがいとなり、チームの絆が生まれ、さらに良いお店になるという好循環を生み出すのです。
【執筆者プロフィール】
執筆者:鳥越恒一(とりごえ・こういち)さん
金融業、飲食業を経て2003年、(株)ディー・アイ・コンサルタンツ入社。人財開発研究部の担当役員として部門を統括。2012年にDIC幹部育成コンサルティング(株)を設立し、社長に就任。上場企業からスタートアップ企業まで、飲食・小売・サービス業の店舗マネジメントの仕組みづくり、人財育成に特化したコンサルティングに従事。年間4,000人もの現役店長から相談を受け、これまでに延べ5万人以上の店長の悩み、現場の課題に対して徹底的に取り組んでいる。
プライベートでは武道を通して「いじめに負けない、いじめない」をテーマに青少年の健全育成に尽力(空手道護心会 代表師範、AJTA埼玉県テコンドー協会副会長、テコンドー護心会 代表師範)公私ともに人材育成をテーマに日々精力的に活動している。
著書に『できる店長は、「これ」しかやらない』(PHP研究所)、『店長が必ずぶつかる「50の問題」を解決する本』(PHP研究所)、プロ店長 『最強の仕事術』(日本経済新聞出版社)、『ほめられたいときほど、誰かをほめよう(店長の心を励ます50の言葉)』(プレジデント社)、『実力店長に3ヶ月でなれる100STEPプログラム』 (同友館刊)など執筆。その他専門誌への連載多数。
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