現場で役立つ知識
2022-04-14
市販の抗不安薬をお求めのお客様への対応【薬剤師に学ぶ医薬品知識】
・Before
・After
コロナ禍が続くなかで、精神的に不安定になったり十分に眠れなくなったりしている患者さまが増えてきました。こうした症状は「コロナうつ」とも呼ばれ、精神科を受診する患者さまも増加傾向にあると言われています。 同じように、ドラッグストアや薬局にも抗不安薬を求めて来る方が見られるようになりました。しかし、抗不安薬に分類される薬は、市販薬にはありません。 今回は、抗不安薬を希望されるお客さまへの登録販売者の適切な対応や、市販薬の選び方について解説します。
抗不安薬(精神安定剤)とは?
抗不安薬とは、名前の通り、不安を和らげる薬です。
精神安定剤とも呼ばれ、不安にかられてどうしようもないとき、胸がそわそわする感じがして落ち着かないときなどに服用します。
抗不安薬のなかでも代表的なのが、ベンゾジアゼピン系抗不安薬と呼ばれるものです。
中枢神経を抑制するGABAの働きを強めて、不安や緊張を和らげます。
抗不安薬の効能や効果
抗不安薬の一つである、医療用医薬品のデパス(エチゾラム)を例に効能効果を見ていきましょう。
添付文書には、次のように記載されています。
- 神経症における不安・緊張・抑うつ・神経衰弱症状・睡眠障害
- うつ病における不安・緊張・睡眠障害
- 心身症(高血圧症、胃・十二指腸潰瘍)における身体症候ならびに不安・緊張・抑うつ・睡眠障害
- 統合失調症における睡眠障害
- 下記疾患における不安・緊張・抑うつおよび筋緊張、頸椎症、腰痛症、筋収縮性頭痛
「不安」という症状に、つかみどころがないと感じる方もいるかもしれません。
具体的には、神経症やうつ病、睡眠障害や統合失調症などの症状緩和のために使うケースが多いでしょう。
抗不安薬の副作用
一方で、抗不安薬には次のような副作用もあります。
- 眠気、ふらつき、めまい、歩行失調
- 酩酊感、興奮、振戦
- 健忘(記憶障害)
- 動悸、立ちくらみ
- 倦怠感、疲労感
なかでもよく見られるのは、眠気やふらつきの副作用です。
抗不安薬には眠気を催すものが多いため、睡眠薬として処方されることも多くあります。
そのほか、ベンゾジアゼピン系の抗不安薬においては依存性が問題になる場合が少なくありません。
正しく服用しなければ、薬をやめたときにかえって不安が強く出てしまうケースもあるので注意が必要です。
市販の抗不安薬もある?
前述の通り、病院で処方される抗不安薬の多くはベンゾジアゼピン系のものです。
GABAの働きを強めて、神経を落ち着かせる働きがあります。
適切に管理をする必要があり、処方できる量に制限があるため、残念ながら同様の市販薬はありません。
しかし、緊張や興奮を緩和する漢方薬やサプリメント、寝つきを良くする薬などは販売されており、700円~2,500円程度で購入できます。
抗不安薬に代わる市販薬の選び方
厳密には抗不安薬とは異なるものですが、近しい症状に対して代替できる市販薬がいくつかあります。
お客さまに「病院とまったく同じ薬ではない」と伝えたうえで、次のような薬を提案してみると良いでしょう。
しっかり睡眠を取りたいとき
「なかなか寝つけない」「眠りが浅い」というお悩みを抱えている方には、睡眠改善薬が向いています。
こちらも病院で処方される睡眠薬とは成分が異なりますが、一時的な睡眠に関する悩みを緩和するのに効果的です。
市販の睡眠改善薬の多くに、主成分としてジフェンヒドラミン塩酸塩が配合されています。
ジフェンヒドラミン塩酸塩は鼻炎薬や風邪薬などにも配合されていて、もともとアレルギー症状を抑えるために使われている成分です。
しかし、副作用で眠気を催すため、この副作用を利用して、睡眠改善薬として利用しているのです。
このほか、ブロモバレリル尿素やアリルイソプロピルアセチル尿素にも眠気をもたらす働きがあります。
医薬品以外では、GABAが配合されたサプリメントもおすすめです。
気持ちを落ち着かせたいとき
不安感やイライラを抑えて穏やかな気持ちになりたい方には、漢方や生薬が配合された市販薬が良いでしょう。
代表的な漢方・生薬は、神経の高ぶりを抑える抑肝散、鎮静作用のあるホップエキスやチョウトウコウエキスなどです。
薬剤師おすすめの市販薬やサプリ
次に、具体的にはどのような商品があるのか見ていきましょう。
ドリエル
主成分としてジフェンヒドラミン塩酸塩が配合された睡眠改善薬です。
ストレスや緊張で一時的に眠れなくなった方、寝つきが悪かったり眠りが浅かったりして質の良い睡眠を取れない方に使います。
ラベンダーアロマが配合された「ドリエルEX」という商品もあるので、お客さまの好みに合わせて選ぶと良いでしょう。
ウット
ジフェンヒドラミン塩酸塩に加えて、ブロモバレリル尿素やアリルイソプロピルアセチル尿素が配合された鎮静剤です。
神経衰弱や精神の興奮、頭痛などの抑制に効果があるとされています。
ブロモバレリル尿素とアリルイソプロピルアセチル尿素は依存性が高いので、用法用量をきちんと守り、長期にわたる連用をしないように説明したうえで販売しましょう。
イララック
チョウトウコウエキスやホップエキスなどの生薬成分が、高ぶった神経を落ち着かせます。
イライラの鎮静にも使える薬です。カプセル剤になっているので、味が気にならない点も特長と言えるでしょう。
アロパノール
アロパノールは、抑肝散という漢方薬の成分が使われている薬です。
イライラや緊張、不安など神経の高ぶりを抑えてくれます。
抑肝散は医療用としても処方されており、軽い精神症状に有用と言われているものです。
ノイ・ホスロール
精神を落ち着かせる4種類の生薬(ブクリョウ・タイソウ・ケイヒ・カンゾウ)が配合されており、緊張や不安、ストレスなどを抑えて正常な状態にしてくれます。
2才未満の子どもでも服用可能です。
ネルノダ
GABAが配合されたサプリメントです。
医薬品ほどの効果は期待できないかもしれませんが、深い眠りを促し、すっきりとした目覚めをサポートしてくれます。
ストレス社会で生活する人の強い味方となるでしょう。
<対応例>精神症状で来店されたお客さまの対応
では、実際に不安や緊張などの精神症状でお悩みのお客さまが来店された際にどのような対応をすべきなのか、具体的な例で見ていきましょう。
◆人物データ
30代女性職業:飲食業 既往症:片頭痛
服用中の薬:頭痛薬(鎮痛剤)
症状:クレーム対応を担当することが多く、仕事へのストレスが強い。
将来への不安感も強く、悩んでいる。
◆対応例
お客さま:
すみません、抗不安薬(精神安定剤)はありますか?
登録販売者:
抗不安薬ですね。申し訳ありませんが、市販では取り扱いがありません。代わりのお薬でしたらいくつかございます。
お客さま:
どのような薬でしょうか?
登録販売者:
不安や緊張を和らげる成分が配合された薬です。抗不安薬とは異なりますが、病院でも処方される抑肝散という漢方薬ですよ。
お客さま:
そうなんですか。
登録販売者:
もし服用後に眠くなっても大丈夫であれば、鎮静作用のあるブロモバレリル尿素やアリルイソプロピルアセチル尿素が配合されたお薬もあります。
お客さま:
では、そちらをお願いできますか。
登録販売者:
かしこまりました。ちなみに、普段なにか鎮痛剤などは飲まれていませんか?
お客さま:
頭痛のときにたまに飲むことがあります。
登録販売者:
鎮痛剤によっては、ブロモバレリル尿素やアリルイソプロピルアセチル尿素が配合されているものがあります。同時に服用すると副作用として眠気が強く出ることがあるので、併用は避けてくださいね。
お客さま:
わかりました。
登録販売者:
こちらは病院で処方される抗不安薬とは成分が異なりますので、効果が不十分だと感じた場合は医療機関を受診なさってください。
接客のポイント
今回の例で、お客さまは抗不安薬を求めて相談に来られました。
しかし、市販薬に抗不安薬はありません。
代替する薬として、睡眠改善薬や、不安や緊張を落ち着かせる生薬が配合された市販薬が選択肢としてあげられます。
念のため、お客さまにも病院で処方されるのと同じものは取り扱いがないことを伝えましょう。
また、鎮静作用があるブロモバレリル尿素やアリルイソプロピルアセチル尿素は、鎮痛剤などに配合されていることもあります。
眠気が強く出過ぎたり高い依存性があったりするので、併用しないように注意を促しましょう。
市販薬で症状が改善される方もいますが、やはり病院の薬とは異なるためなかには効果が見られないケースも少なくありません。
効果がなければ、医療機関の受診を促す必要があります。
受診勧奨が必要な場合とは
以下の項目にあてはまる方には、医療機関の受診を勧めましょう。
- 今まで病院の抗不安薬を使っていたけど切らしてしまった方
- 市販薬を使っても十分な効果が得られない方
- 長期間にわたって市販薬を使い続けている方
病院の抗不安薬と市販薬とでは機序が異なるため、十分な効果を実感できない場合があります。
市販薬と違って病院では症状に合わせて細かく薬を調整してくれるので、精神症状が強い場合は医師に相談するのがベターです。
また、依存を避けるためにも、長期にわたって市販薬を使っている方にも受診を勧めましょう。
抗不安薬の代わりになる市販薬を提案しよう
新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、精神の不調を訴える方が増えてきています。
抗不安薬を求めて薬局やドラッグストアに来られるお客さまも少なくありません。
病院で処方される抗不安薬の多くは、ベンゾジアゼピン系と呼ばれるお薬ですが、市販薬では扱いがありません。
症状に対処する機能のある、代わりの薬やサプリメントを提案することになります。
効果が不十分だと感じたら医療機関を受診するようにお客さまに伝えましょう。
【執筆者プロフィール】
執筆者:岡本妃香里
薬学部を卒業後、都内の大手ドラッグストアで4年間勤務。毎日2,000人近くが来局する店舗でOTC販売を経験。現在は薬の正しい使い方や選び方を広めるために、執筆業をメインに活動。
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