著名人コラム
2022-08-25
【店舗運営のプロに聞く】ドラッグストアの売り逃しをなくす在庫管理の方法<プロに学ぶ登録販売者のマネジメント論>
・Before
・After
在庫とは、店頭やバックヤードに置かれている「店舗が保有する商品」のことです。店舗では品切れを防ぐために一定数の在庫を抱えておく必要がある一方、在庫が余って廃棄することになれば損失が発生します。在庫は「ありすぎてもダメ。なさすぎてもダメ」なのです。ドラッグストアの運営において、在庫管理は必須のスキルと言えるでしょう。本記事では、ドラッグストアにおける在庫管理のやり方やよくある課題、改善策などについて解説していきます。
ドラッグストアで在庫管理が必要な理由とは
まずは、ドラッグストアでの在庫管理の基本的な手順や必要性について見ていきましょう。
在庫管理とは
在庫管理とは、店舗ごとの販売の状況に合わせて商品(=在庫)を適切な数量で維持することです。
具体的な行動に置き換えると、「在庫管理」=「販売状況を見ながら何をいくつ在庫するかを決め、発注を行うこと」となります。
在庫管理の考え方と理想の在庫状況
どんなに人気の商品でも需要が下がれば売れる数は減少するため、在庫はいつ「売れ残り」になるかわかりません。
過剰在庫は基本的にはリスクと捉えられます。かといって欠品してもいけないので、論理的には「販売1日分」が理想的な在庫量です。
ただし、「販売1日分」の在庫で店舗を運営すると、毎日在庫を補充しなければならず、受け入れる側も届ける側も大変です。
そこで、店舗に何日分の在庫をもつのかを決め、それに合わせて補充を行います。
そののち、アイテムごとに「陳列面を何フェイスとるか」「そのスペースに何日分を置くか」を決め、欠品や過剰がないように発注を行っていきます。
補充頻度(補充曜日)が定められている店舗では、そちらを基に在庫日数が決まってくるでしょう。
【例】
- 1週間に1回納品する場合
→店舗での在庫量は「1週間分」
- 2日おきに納品する場合
→店舗での在庫量は「3日分」
すなわち、補充頻度と在庫日数は一致するわけです。
さらに、販売状況の上ブレによる欠品を防ぐため、上記の日数分に加えて最低限必要な「安全在庫」をもちます。
そして、商品の入れ替え時期や季節の変わり目などで需要が落ちる前に補充発注を中止し、在庫が余らせず売り切る施策を行うのです。
これを繰り返すのが、ドラッグストアの在庫管理ということになります。
在庫管理の目的とメリット
在庫管理のメリットとして、次の3つがあげられます。
- 陳列棚に適量の商品を適切に配置することで、見栄えが美しく整う
- 売れている商品の在庫を十分に確保できる
- 売れていない商品の陳列を減らし、スペースを最大限活用できる
値下げや廃棄を減らしつつ販売機会を逃さないことで、在庫管理の究極の目的である「利益の最大化」が実現できます。
たとえば、お金をかけてチラシやWeb広告を打っても、お客さまの来店時に目当ての商品が品切れていたら、十分な利益の確保は期待できないでしょう。
こういった「売り逃し」がないように、広告活動と在庫管理は連動させる必要があります。
ドラッグストアでの在庫管理の課題とは?
ドラッグストアチェーンの店舗の多くは、本部により導入された在庫管理システムがあり、基本的な補充発注作業はシステムに則って行われていると思います。
ところが、在庫管理システムを使っていても在庫管理がうまくできていないという声を聞くことがあり、整理すると以下のような課題が浮かび上がってきます。
- 補充された商品をきちんと陳列棚に格納できていない
- 在庫管理システムへの信頼度が低く、担当者が発注数量を調整している
- 季節品など販売時期が限定的なものへの十分な対応ができていない
- 販売予測と実態が異なる場合の対応ができていない
- 販売した商品の補充発注しかできていない
在庫管理を効率的に行う方法
では、どのようにすれば前述のような在庫管理の課題を解決できるのでしょうか。
次でその方法を詳しく見ていきましょう。
(1)格納に必要な時間や人員を確保する
前項の「1.補充された商品をきちんと陳列棚に格納できていない」という課題については、店舗の作業オペレーションに原因があります。
お客さまが何時に何を買いに来るかを予測するのは難しく、スタッフは空き時間に格納作業を行わねばなりません。
そのため、忙しい店舗ほど「発注した在庫は店舗まで届いているのに、陳列棚に補充できていない」という状態になりがちです。
陳列棚が整わないと、当然売上にも影響します。
日々の格納状況をスタッフ全員で情報共有して、問題があるようなら店長が主体的にその問題を解決しましょう。
たとえば、以下のような解決策が考えられます。
- 納品時間に合わせて格納担当を決める
- 格納のみのスタッフを用意する
このように、お客さまへの対応をおろそかにせずスムーズに在庫を格納できる人員計画が必要です。
(2)在庫管理システムのロジックを確認しておく
在庫管理システムのなかには、計算のロジックを明らかにしていないものもあります。
店舗の在庫管理がうまくいっていれば良いのですが、欠品や過剰などの問題が頻発している場合、発注担当者は在庫管理システムの推奨発注量を信頼できなくなるでしょう。
熱心な担当者は対策として独自に計算を行い、推奨発注量と異なる数量を発注したりします。
この努力自体は悪いことではないのですが、これで問題が起こってしまった場合が面倒です。
原因がわからず、改善が難しくなるなどの事態が生じ得ます。
可能な範囲で在庫管理システムのロジックを店舗で共有しておき、問題が生じたときの調整方法を明確にしておきましょう。
(3)季節品などの期間限定商品に対応する
通年販売される商品の在庫管理は、比較的容易です。
季節品など販売時期が限定された商品は、売れ残りや欠品が出やすく、在庫管理が難しいので注意が必要になります。
とくに売れ残りが出るのは避けるべきでしょう。
そのためには、商品の入荷時から販売総量を計画しておいたり、販売期間中の販売数の推移を予測して実態との乖離を追跡したりする対策が有効です。
ただし、ドラッグストアチェーンの店舗では、本部がこの役割を担うことが多いでしょう。
店舗側では、計画よりも販売ペースが落ちている場合に「補充発注をやめる」「売り切る作戦に移行する」といった判断を迅速に行うべきでしょう。
売れている商品についても、販売終了予定時期が近づいてきたら、現在の販売状況からみて何日分の在庫があるのかを毎日確認しましょう。
そのうえで、「売り切る作戦」へ移行するタイミングを図ることが必要です。
(4)販売予測と実態が異なる場合への対策を行う
在庫管理は「仮説」と「検証」の繰り返しです。
安定的に売れている商品の管理は在庫管理システムに任せ、過去データから予測できない変化が起きた(起こりそうな)ときは、人が直接対処する必要があります。
たとえば売れると見込んで3フェイスぶんのスペースで商品Aを販売開始したにもかかわらず、予測の3分の1ほどしか売れていない場合は以下のような対策を行います。
- フェイスを削り、在庫量も絞る
- まずは3フェイスのままでPOPなどにより認知を高め、様子を見る
予測よりも売れている場合は、反対の策を打ちましょう。
こののち、在庫量の増減を変更したら、在庫管理システムに正しく入力します。
(5)先の需要については人が情報収集のうえ予測する
在庫管理システムは、過去のデータを基に必要数量を計算のうえ推奨発注量として提示してくれます。
しかし、この推奨発注量だけでは、先の需要への対応はできません。
先の需要については、人が仮説を立て、過去データを基に予測していくことが必要になります。
たとえば、店舗周辺でイベントがあるという情報を得たら、過去に同様のイベントが開催されたときの需要の変化を参考にして必要な在庫を計算します。
その結果を在庫管理システムが提示する数量と照らし合わせ、調整すると良いでしょう。
ただ在庫を増減させるだけでなく、普段は置いていない商品を用意するケースなどもあるでしょう。
イベントが終了したら、販売状況をチェックしましょう。
先に立てた仮説を検証し、以下のような事実や気づいたことをスタッフ間で共有します。
- 気温が〇度を超えたから前回よりも〇割販売が伸びた
- 〇〇の運動会では保冷グッズと日焼け止めが平常時の5倍売れた(昼前に欠品したため、最大でどれほどの需要があったかはわからない)
そのうえで販売ロスや過剰在庫をなくすためにどうすべきかをまとめ、次の機会に備えます。
このようにして仮説を磨き、人が行う在庫管理の精度を上げていくのです。
在庫管理システムを活用するポイント
前述の通り、在庫管理システムは基本的に過去データに基づく推奨発注量を提示するものです。
これは裏を返すと、過去データに誤りがあれば在庫管理システムの計算結果も正しくない数値になってしまうということです。
そのため、データを正確に入力することは非常に重要になります。
また、急激な売れ行きの増減があった場合、在庫管理システムによっては迅速な対応が難しいでしょう。
欠品を発見したら在庫管理システムの発注量を変更するなど、人によるフォローも重要になります。
人とシステムの相乗効果で在庫管理のレベルを上げる
ドラッグストアの在庫管理を成功させるには、「安定的に売れている商品の在庫管理を在庫管理システムに任せて手間を減らす」「先の需要については人が頭を使って仮説を立てる」の2つがポイントになります。
予測される需要は店舗ごとに異なるので、店長の声がけのもと、スタッフを巻き込んで「店舗周辺でイベントなどがないか」「イベントがあるとしたら、どんな商品が伸びると思うか」など楽しく想像ながら「仮説を磨く」時間を作ってはいかがでしょうか。
人とシステムの相乗効果で、その店舗の在庫管理レベルは大いに向上するでしょう。
【執筆者プロフィール】
執筆者:芝田稔子(しばた・としこ)さん
株式会社湯浅コンサルティング コンサルタント
早稲田大学 人間科学部卒業後、株式会社日通総合研究所(現・株式会社NX総合研究所)にて官公庁などの調査研究および民間企業コンサルティングに従事。株式会社湯浅コンサルティングの立上げに参画し、入社。荷主企業・物流事業者双方をクライアントとして物流ABC導入、在庫削減などのコンサルティングに関わる。同テーマほか物流DX、SDGs・商慣行改善による物流改善などの講師も務める。『在庫管理の基本と仕組みがよ~くわかる本[第3版]』(秀和システム)、『ムダをなくして利益を生み出す在庫管理』(かんき出版)など著書多数。

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