業界情報
2020-04-08
花粉症薬などの軽症薬が保険適用外(自費)になる?!私たちの生活への影響は?
・Before
・After
2019年夏に発表された「花粉症治療薬などが保険適用外になる」というニュースを見聞きして、衝撃を受けた方も多いと思います。このニュースの内容はまだ決定事項ではなく、今後の見通しも明らかではありませんが、実現すれば医療業界だけではなく一般用医薬品の小売業界にも大きな変化が生じると考えられます。 そこで今回は、花粉症治療薬などが保険適用外になった場合、生活にどのような変化が生じうるのか、そして、小売業界や登録販売者にはどのような影響があるのかを考察します。
軽症薬が保険適用外になるって本当?そもそも軽症薬とは
まず、「花粉症治療薬などが公的医療保険の対象外となる」というニュースの詳細と、保険適用の除外対象になるといわれている「軽症薬」について解説します。
「軽症薬を保険適用外とすべき」という提案は健保連から
2019年8月23日、全国にある健康保険組合の連合組織である健康保険組合連合会(健保連)がある提言を行いました。
それは「医療機関で処方される花粉症薬のうち、同様の効果の市販薬(スイッチOTC)で代替できる薬は、公的医療保険の適用外とすべきである」というものです。
ここで「スイッチOTC」とは、医療用医薬品の有効成分が、一般用に転用(スイッチ)されたもののことです。「OTC」は「Over The Counter」の略で、日本では薬局やドラッグストアなどで処方せんなしで購入できる要指導医薬品や一般用医薬品のことを指します。
この健保連からの提案に対し、政府内でもさまざまな議論がされているようです。しかし、今のところ何も決まっていないのが現状です。
軽症薬の保険適用外が提言された背景とメリット
日本では、国民皆保険制度により国民が負担する医療費は一部に限られ、残りは税金と保険料でまかなわれています。しかし、医療費の総額は2018年度に過去最高となる約43兆円、国民一人当たり33万7,000円とされ、今後さらに医療費が増大すると予測されています。
このような状況において、国民皆保険制度を今後も維持するためには「保険料を引き上げる」こと、そして「医療費を抑制する」ことが必要と考えられています。
そして、「医療費を抑制する」ために健保連が提案したのが、花粉症治療薬の保険適用除外なのです。実際、花粉症に処方される治療薬を制限して市販薬とした場合、年間に約600億円の財政効果があるとされています。
公的医療保険の適用対象除外になる可能性がある「軽症薬」とは
今後、花粉症治療薬が公的医療保険から除外されるのか、そもそも健保連の提案が受け入れられるのかどうかは不透明な状態です。
しかし、健保連の提案が受け入れられた場合、公的医療保険の適用対象外になる医療用医薬品の範囲は花粉症治療薬だけにとどまらず、一般用医薬品で代替可能なその他の医薬品にも及ぶ可能性があります。
花粉症治療薬以外で公的医療保険の適用対象外になる可能性がある医薬品としては、風邪薬・湿布薬・皮膚保湿剤・漢方薬などがあり、これらはまとめて「軽症薬」とよばれることがあります。特にスイッチOTCのある医療用医薬品は、真っ先に公的医療保険の対象除外品目として挙げられることが予測されます。



軽症薬が保険適用外になることによって、私たちの生活はどう変わるのか
軽症薬が公的医療保険の対象外となった場合、私たちの生活や医療機関への受診傾向などにも大きな影響が出ると考えられます。
そもそも「保険適用外になる」とは
医療費には、公的医療保険が適用されるものとそうでないものの2種類があります。
病気やけがをして、医療機関で受ける診療・検査・投薬・手術・入院などの多くは、公的医療保険が適用されます。
しかし、国が保証する医療行為として認定されていないもの、例えば先進医療や美容医療、差額ベッド代(定員1~4名の設備の充実した病室に入院する際に生じる料金)などは、公的医療保険の適用外とされます。
また、一般用医薬品の購入にかかる費用も、公的医療保険の適用範囲外です。しかし、一部の品目についてはセルフメディケーション税制(後述)によって所得控除の対象となるため、税制上の優遇を受けることができます。
保険適用外医薬品に対するセルフメディケーション税制と医療費控除の関係
セルフメディケーション税制とは、2017年1月1日から導入された制度で、スイッチOTC医薬品の年間購入額が世帯で1万2,000円を超える場合に、所得控除を受けることができるものです。
ただし、セルフメディケーション税制の控除額の上限は、8万8,000円です。つまり、スイッチOTC医薬品を世帯で年間10万円以上購入した場合、8万8000円を超えた部分については税制上の優遇を受けることはできません。
一方、医療費控除は、原則として10万円以上でなければ利用することができません。しかも、医療費控除とセルフメディケーション税制は併用することができません。
軽症薬が公的医療保険の適用から除外されると、現在医師から該当薬剤を処方されている人は控除額が少なくなり、場合によっては控除の申請ができなくなります。
▼参考記事
セルフメディケーション税制とは?登録販売者への影響と求められる役割
軽症薬が保険適用外になることの問題点
軽症薬が公的医療保険の適用から除外された場合の医療費削減効果は、非常に大きなものと考えられます。
しかし一方で、軽症薬を本当に必要としている方たちの経済的負担が増えることは避けられません。
また、日本医師会からは「軽微な症状での受診を控えることにより、重症化する恐れがある」「重篤な疾患だけを保険給付の対象とすれば社会保険の恩恵が薄れる」との懸念が示されています。
このように、軽症薬を公的医療保険の適用から除外することは、メリットだけではなくデメリットもあるため、非常にデリケートな問題であるといえます。

軽症薬の保険適用外化が店舗に及ぼすと予想される影響
次は、軽症薬が公的医療保険の適用から除外された場合に、小売業界や登録販売者のニーズがどのように変化するかを考えます。
ドラッグストア視点ではメリットも
軽症薬が公的医療保険の適用から除外されると、花粉症や風邪などで医療機関を受診する人が減ると予測されます。
その結果、ドラッグストアなどで一般用医薬品などを購入する人が増え、売り上げの増加が見込まれます。
これは、一般用医薬品を販売する企業にとって大きな追い風で、一般用医薬品を取り扱う小売店の増加にもつながります。
高まる登録販売者のニーズ
軽症薬に処方される医療用医薬品のスイッチOTCは、登録販売者が販売できる第2類・第3類医薬品にも数多くあります。
そのため、軽症薬の保険適用除外が決定すれば、セルフメディケーションの促進とあいまって、登録販売者のニーズは今まで以上に高まるでしょう。
また、スーパーマーケットや家電量販店などでも軽症薬を取り扱う店舗が増えることが予測されるため、登録販売者の活躍するフィールドは、ますます広がると考えられます。
まとめ
花粉症治療薬などの軽症薬が公的医療保険の適用から除外されると、国民の医療に対する考え方が大きく変わる可能性があります。今まで以上に一般用医薬品への関心が高まり、それにともない登録販売者の活躍の場も広がることでしょう。
その一方で、登録販売者に求められる知識や接客スキルも、よりレベルの高いものになることが予測されます。
登録販売者は、お客様の健康を支えるやりがいのある職業です。信頼され、「ありがとう」といわれる登録販売者を目指してがんばりましょう。

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