業界情報
2021-01-08
「ポリファーマシー」とは?定義や問題点、登録販売者にできること
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医療業界で話題となっている「ポリファーマシー」という言葉を聞いたことはありますか?多くの薬を服用して何らかの弊害が生じる状態をいい、とくに高齢者に起こりやすい問題です。登録販売者とも無縁の話ではなく、ポリファーマシーの観点からお客さまの生活に寄り添ったセルフメディケーションを推進する重要な責務を担っています。この記事では、ポリファーマシーとは何か、なぜ起きるのかという背景、問題点から店頭で登録販売者ができることについて解説していきます。
ポリファーマシーの定義
ポリファーマシーとは「poly(複数)」と「Pharmacy(調剤)」からつくられた用語です。
多くの薬剤を併用することで正しく服用できなくなったり、副作用などの有害事象が起きたりする状態を意味します。単に複数の薬剤を服用しているだけではポリファーマシーとは定義されません。
とくに高齢者は疾患を多く抱え、薬剤の処方も多くなる傾向にあります。複数の診療科をまたいで処方されているケースや、同じ疾患について複数の病院で薬をもらっているケースも少なくありません。
日本ジェネリック製薬協会の調査によると、75歳以上の高齢者では1件あたりの処方薬剤数が院内処方4.48、院外処方4.76と、若い世代と比べて1.5倍ほど多い傾向にあります。
つまり、それだけポリファーマシーも起こりやすい状況になっているといえるのです。
多剤併用の定義は明確ではないものの、日本では6種類以上の併用を指す場合が多いようです。個人差はありますが、10種類を超える薬剤を必要以上に処方されていることもあります。
ポリファーマシーが起きる背景
ポリファーマシーは病気が複雑化して、複数の処方が繰り返された結果ともいえます。
では、ポリファーマシーが起きる背景には、どのような事象が関係しているのでしょうか。薬に携わる登録販売者として、理解を深めておきましょう。
複数医療機関・診療科の受診による多剤併用
抱える疾患が多くなるほど処方される薬剤も増え、結果的にポリファーマシーに陥るケースはよく見受けられます。
たとえば高齢者の場合、糖尿病、高血圧など慢性疾患に加えて、加齢による視力の低下で眼科、関節の痛みで整形外科を受診するなど、同時期に複数の医療機関や診療科を訪れていることも少なくありません。
そのためポリファーマシーの入り口である多剤併用になりやすい状況にあるのです。
また、同一の医療機関内であればどのような薬剤を使用しているかをカルテで確認できますが、医療機関をまたぐと情報共有が難しくなります。
もし患者さまが病院ごとに調剤薬局を変えていたら、処方の状況は患者さまの自己申告や「おくすり手帳」に頼るしかなく、多剤併用や重複投与の発見が難しくなるでしょう。
最近では複数の医療機関からの処方を把握することを目的に、調剤薬局ではおくすり手帳の使用をすすめています。
しかし医療機関からの説明や患者さまの理解が不足していると、おくすり手帳を十分に活用してもらうことができません。
また、認知症を有している方も多いため、ほかの医療機関にかかっていることを医師や薬剤師に伝えられず重複投与が起きてしまう場合もあります。
患者さまの訴えに応じての処方
不調の原因を見極めずに、患者さまの訴えに応じて処方が増えることもあります。なかには、使用している薬剤の副作用に対する薬剤として処方がさらに増える場合も。
本来は、副作用に対する処方を増やすよりも、その原因薬剤を変更できないかの検討が必要です。
そのため、「症状が良くならない」と患者さまの訴えがあったときは、処方された薬を正しく服用していないために症状が改善していない可能性も考えてみましょう。
お客さまの訴え通りに薬を増やすのではなく、本当の不調の原因を見つけ出し、正しく患者さまを指導する必要があります。

ポリファーマシーの問題点
ポリファーマシーが近年になり問題視されているのはなぜでしょうか?その理由について解説します。
多剤併用により服薬管理が煩雑になる
多剤併用は「どの薬をいつ飲むのか」「どのような効果があるのか」などの服薬管理が煩雑になります。
薬の種類によっては食前、食間、食直前など飲み方が定められており、正しい飲み方を守らなければ効果が得られにくくなる可能性も。種類が多くなるほど飲み方やタイミングも複雑になり、間違って服用するリスクも高くなります。
介護者がいる場合は服用させる手間が増えることも問題です。飲み忘れが増えると残薬が増えるという別の問題も発生し、古い薬剤を飲んでしまうなどトラブルの可能性もあります。
過剰服用による有害事象の恐れがある
多剤併用で同じような薬効の医薬品が重複して処方されることもあります。
たとえば、胃痛の症状で消化器科を受診した際に胃薬が処方され、関節痛の症状で整形外科を受診した際に痛み止めによる胃腸障害の副作用を防ぐために同じ胃薬が処方されるケースなど。
薬効が重複すると、過剰に作用して思わぬ副作用が出ることもあり、注意が必要です。
また、飲み忘れたと思って過剰に服用してしまい、有害事象が起きることもあります。反対に飲んだと思い込んで飲み忘れてしまうと、正しく効果が得られなくなり症状が悪化する可能性も考えられます。
アドヒアランスの低下
アドヒアランスとは、患者さまが治療や服薬の方針決定に自らかかわり、その決定に従って治療を受けることを意味します。
患者さま自身が納得感をもって治療にあたることができるいい状態ですが、多剤併用になると、一つひとつの薬に対してアドヒアランスが低下しやすくなってしまいます。
数が多すぎるため、患者さまが「何の薬を飲んでいるのかすら分からない」「服用する目的が曖昧になっている」といった状態に陥っているケースも決して珍しくありません。



ポリファーマシーの対策は?登録販売者にできること
処方箋に直接かかわることはなくとも、登録販売者もポリファーマシー解決の一端を担う存在として欠かせません。
では、登録販売者にはどのような行動が求められるのでしょうか。
併用薬を確認する
高齢者は、湿布や皮膚の痒み止め、胃腸薬や風邪薬などを常備薬としてもっている場合が多くあります。
病院からもらった薬の不足を補うため、自己判断で処方薬と市販薬をあわせて飲んでいることも。
とくに痛み止めや胃薬などは処方薬とも重複しやすく、過剰服用に陥りやすいため注意が必要です。
お客さまには、ひと言「ほかに病院からお薬をもらっていませんか?」と必ず確認しましょう。
薬の名前を覚えていない方も多いため、おくすり手帳の意味を説明したうえで持参を促すといいでしょう。
頻繁に来店される場合はお話を聞く
市販薬の多剤併用によりポリファーマシーと同じ状況になってしまう場合もあります。
何度も来店される、何度も同じ薬を購入する、違うタイプの痛み止めを何度も買い換えるお客さまがいた場合はしっかりとお話を聞きましょう。
過剰服用につながることがないよう、購入目的や保管状況など詳細な確認が必要です。
登録販売者は気軽に相談に来てもらえるような雰囲気づくりを行い、不安を取り除いてあげられるような接客を心がけましょう。
医療機関による積極的な情報共有
ポリファーマシーを防ぐには単に使用薬剤を減らせばいいという話ではなく、医療機関が連携して情報共有を行うことが欠かせません。
それぞれの立場から患者さまにとって本当に必要な薬剤を選定し、患者さまが本来享受すべき医療を受けられるようにする努力が必要です。
ドラッグストアは、医療機関と比べて気軽に訪れることができます。薬歴を確認するほかにも、医療機関の受診状況や薬局の利用状況なども把握するようにしましょう。
おくすり手帳の活用、かかりつけ薬局を利用する
ポリファーマシーの弊害から身を守るため、患者さま自身にも理解を促す必要があります。
複数の医療機関を受診する場合はかかりつけの調剤薬局でまとめて受け取るようにしたり、おくすり手帳を活用したりすることで、ポリファーマシーを防げる可能性もあります。
もし担当したお客さまが管理に不安を示していたり、自己管理が困難な方が来店されたら、お薬手帳の活用やかかりつけ薬局の利用を促すことも大切です。
地域の健康を守る意識をもち、ポリファーマシー減少に取り組みましょう
ポリファーマシーは医療機関で起きるもので、登録販売者には関係が薄いと思われがちですが、実はとても重要な責務を担っています。店頭での声かけで、ポリファーマシーからお客さまの健康を守ることができるのです。
とくに高齢者が陥りがちなポリファーマシーは、高齢化が進む日本では国民全体の問題でもあると厚生労働省も啓発を推進しています。
登録販売者も地域の健康を守る意識をもち、ポリファーマシーの減少に取り組んでいきましょう。

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