現場で役立つ知識
2020-08-21
登録販売者のスキルアップ-求められる登録販売者になるためには?-<村松早織さんインタビュー>
・Before
・After
登録販売者資格を取得し、今後さらにスキルアップしたい。
そう考えていても、なかなかお客さまとうまくコミュニケーションがとれずに資格が生かしきれなかったり、どうやって新しい情報を取り入れればいいのかわからなかったり……。
登録販売者として働くうえで、悩みを抱えている方は多いのではないでしょうか。
今回お話を伺ったのは、セミナーや動画配信を中心に、登録販売者や資格受験者向けの学習支援を精力的に行われている、株式会社東京マキア代表の村松早織さん。
日々、登録販売者の悩み相談を受けている村松さんに、登録販売者としてどのようにスキルアップはすればよいのか、またお客さまや社会から求められ続ける登録販売者になるために心がけておくべきポイントを解説してもらいました。
これまでの登録販売者とのかかわりが、現在の仕事へつながった
――2016年に株式会社東京マキアを創立され、セミナーや動画配信を中心に登録販売者の学習支援を行われていますが、その経緯を教えてください。
もともとは薬剤師として空港のドラッグストアで働いていました。勤続年数が長くなるにつれ、通常業務に加え登録販売者を含むスタッフへの教育を任されるようになったり、登録販売者資格の受験生に勉強を教えたりと、関わる機会が多くあったんですね。
個人で登録販売者の方向けに講義を行うこともあり、彼らからもさまざまな相談を受けるなかで、登録販売者の方が持っている知識や試験に関心を持つようになりました。
その後、東京マキアを立ち上げることになったのですが、創業当初は収入面に不安がありました。そこで、これまでの教育や講師経験を生かせないかと転職エージェントを介して講師の仕事を探していたところ、東京マキアへ登録販売者試験対策講義の依頼をいただいたんです。大変ありがたいお話だったので、二つ返事でお受けしました。
試験対策の講義は、ドラッグストアでの経験も生きますし、やりがいのある仕事だと思いましたね。登録販売者を目指す方々へのコンテンツを発信するようになったのは、それが大きなきっかけです。
登録販売者は“町の気軽な健康相談屋さん”としての振る舞いが求められる
――ドラッグストアは、人々の生活に欠かせない場であり、登録販売者を目指して試験を受ける方は年々増え続けています。登録販売者の需要も今後ますます高まっていくなかで、これからの登録販売者にはどのような役割が求められるのでしょうか?
“町の気軽な健康相談屋さん”というポジションが求められるのかなと思います。ドラッグストアは薬局や病院より敷居が低く、気軽に入れるところが特徴です。
さらに薬局や病院にはない介護用品やベビー用品など医薬品以外の商品もたくさん扱っているため、登録販売者は薬以外の選択肢をお客さまに提示することもあります。
――薬以外の知識も持っていなければならないということですね。
はい。たとえば、ドラッグストアで働いていると「高齢者のおむつってどれがいいですか?」とよく聞かれるのですが、使ったことがない人はわからない。
これからますます高齢化社会が進んでいくと考えると、おむつなども含めた介護用品について知っておくことで、よりお客さまに寄り添った対応ができるはずです。
だからメーカーに勉強会を開催してもらって情報を得たりしている企業もあります。すごく良い取り組みですね。
また、ご高齢の方が来店されて、体がかゆいと相談を受けた場合に「では、どの薬を選ぶか」となりがちですが、実は乾燥が原因で薬よりも保湿剤のほうが必要だったりします。
ドラッグストアは多くの商品を扱っているぶん、お薬以外も含めた最適な答えを導き出してあげられますよね。
これからの登録販売者には、ただ薬の相談にのるだけでなく、多面的にアドバイスできる、そんな役割をこなしてほしいと思っています。
適切な情報をお客さまに渡すためには、真実を見抜く力を鍛えること
――そのような役割を果たすために必要な知識やスキルとは、どのようなものがあるのでしょうか?
レッドフラッグサインといって「見逃してはいけない疾患を想起させる徴候・症状」を知る必要があると思います。お客さまに相談されたときに、どういう症状であれば病院に行かないといけないのか、そのラインは学んでおいたほうがいいですね。
たとえば頭痛で悩んでいるお客さまが来店したとき、頭痛の頻度を聞き出したりして、通院を勧めるべきなのか、市販薬で対処可能かを判断できるかどうか。
薬の知識もとても大事ですが、登録販売者としてステップアップを目指すのであれば、受診勧奨ラインも知っておくことが重要だと思っています。
また、通院を勧めると判断したら、何科に行くべきかなどもアドバイスできるとさらにいいですね。そこまで提案できるとお客さまも安心できますし、信頼を得るきっかけにもなるでしょう。
――最近では感染予防意識の高まりから、受診を控える動きも出てきています。登録販売者としてどのように対応すべきなのでしょうか?
たしかに新型コロナウイルス感染症が広まった当初、病院や薬局に行きたくないという方もいましたし、ドラッグストアに来店されるお客さまも情報が錯綜して混乱している状態でした。
登録販売者は、そのような不安を感じている方に対して、正確かつ適切な情報を伝えることがすごく大事だと思いますね。
――適切な情報は、どのように身につけたらよいのでしょうか?
まずは書籍ですね。書籍にもいろいろありますので、著者や出版社が信頼できそうかどうかをひとつの指標にして、できれば買う前に試し読みをしてください。
また、「この病気ってどういうものなんだろう」とか、「この症状は市販薬で対応できるのかな」と思った時は、学会が出しているガイドライン(診療指針)が参考になります。ただ、ガイドラインの内容を読み解くのはなかなか難しいので、そのようなときは家庭の医学がおすすめです。
家庭の医学は書籍やウェブサイト、アプリなどさまざまな形でみることができ、一般向けのわかりやすい言葉で治療薬についても書かれています。たとえば「時事メディカル 家庭の医学※」は見やすく情報がまとまっているので、ぜひ活用してみてください。
そして、行政の情報も重要です。たとえば「今話題になっている商品」などは、厚生労働省や経済産業省から注意喚起が出ていることがあり、一般公開されていますし信憑性も高いので一読したほうがよいと思います。
もうひとつは、今の時代SNSを活用するのもよい方法です。ただ、情報が早いというメリットの反面、信憑性の低い情報も出回っているので、真実を見極める力が必要になってくると思います。
――真実を見抜く力はどのように鍛えていますか?
まず情報を疑うことが重要です。どんなに信頼している人からの情報であっても、何を根拠に話しているか自分で調べるくせをつけてほしいですね。
情報発信者がリンクを貼りつけて根拠を書いているなら、遷移して自分の目で確認することが大切です。
SNSの情報は、発信者のフィルターを通っているので、常に自分で情報ソースを探すようにすると、自然と鍛えられると思います。
――医薬品の情報は日々変わり続けるため、継続的な学びが必要になりますが、楽しく、またモチベーションを保って学習を続けられる方法はありますか?
コミュニティに属して共通の悩みや関心を持つ仲間を見つけるのが一番だと思います。SNSや、最近だとオンラインサロンなどもありますよね。また、個人で勉強会に参加するのもよいと思います。
私もYouTubeで登録販売者試験を受ける方向けのライブ配信を行っているのですが、コメントで悩み相談やアドバイスのやり取りがあったりします。
信頼できるコミュニティかどうかを見抜く力は必要になりますが、仲間たちのがんばっている姿が見えると、モチベーションアップにつながりますよね。
お客さまが薬を飲む行為は、接客しているときから始まっている
――実際にお客さまへ接客を行う際に意識すべきことはなんでしょうか?
一番は、自分やドラッグストアのファンになってもらうことだと思います。ドラッグストアは、病院や薬局に比べて「この薬を飲んだら良くなりました」などお客さまからのフィードバックがもらいにくい場所ですよね。
いろいろなお客さまがいらっしゃいますし、自分も毎日勤務しているわけではないので、一回一回の出会いの質を上げることが重要です。
――このことは、村松さんご自身も、空港のドラッグストアで働かれていた際に意識されていましたか?
そうですね。お客さまが薬を飲む行為は、私たちが接客しているときから始まっています。たとえば、勧められた薬を服用する際、不安なまま飲むより、安心して飲んでもらったほうがいいですよね。
いかにお客さまの不安を解消し、安心して薬を飲んでもらうか。そのためにはどういう風に伝えたらいいのかをいつも考えていました。
特に空港のドラックストアは、結構とんでもないものを抱えてくる方が多いんです。外国でサソリに刺されてトランジットのタイミングで来店した方や、海外の格安ホテルでトコジラミに全身刺された方など、普通のドラッグストアでは聞かない症状を相談されることがたくさんあります。
そうしたお客さまがいきなり来ると最初はどうしようと思うのですが、戸惑いが表情に出てしまうとお客さまが不安に感じるんですね。そのため「あ、そうなんだ」みたいな顔で、でんと構えて落ち着いて話を聞くことを意識していました。
大切なのは、薬の効能を誇張するなど、事実に反することは伝えないこと。そして正しい適切な情報をお客さまに伝えて信頼してもらい、安心して薬を飲んでいただく。この積み重ねがすごく大事だと思っています。
ドラッグストアの未来は登録販売者にかかっている
――お客さまや社会に求められる登録販売者になるために必要な考え方や心がけておくべきことはありますか?
新薬の開発はどんどん進み、新しい成分はどんどん登録販売者が扱えるようになっています。登録販売者として働いていく限り、一生勉強し続けないといけない。これは強調したいですね。
登録販売者試験の受験生から、勉強が辛いという悩み相談も多くきます。そのたびに「気持ちは痛いほどわかるけれど、登録販売者になってからもずっと勉強するんだよ」と、伝えています。勉強し続けることが、お客さま、ひいては社会のためになるからです。
――最後に、登録販売者としてスキルアップを目指す方へメッセージをお願いします。
私は、ドラッグストアの未来は登録販売者にかかっていると考えています。登録販売者がいなかったら店舗がまわりません。自分は非常に重要な役割を担っていると自覚していただいて、勉強し続けて、進んでいってほしいと思います。
また、薬剤師と登録販売者は、知識として重なる部分も、それぞれの得意分野もありますので、資格の枠を越えてお互いに協力していきたいですね。
【執筆者プロフィール】
村松早織(むらまつ さおり)
名城大学薬学部卒業後、医療用医薬品総合卸で企業内薬剤師として勤務。
主に医薬品管理や医療機関への情報提供、セールス達への研修を行う。その後、空港内ドラッグストアにて勤務。接客の傍ら、新入社員・登録販売者教育や、インバウンド対策の一環として英語の教育も行う。
2016年に㈱東京マキアを立ち上げ、登録販売者や受験生向けの講義を中心に事業を展開している。
YouTubeのやっけんちゃんねるでは、現在4000人を超えるチャンネル登録者に向けて、市販薬についての情報発信を行っている。
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