現場で役立つ知識
2020-08-28
他職種に学ぶ接客の極意。“売れる販売員”になる方法とは?<接客アドバイザー 平山枝美に聞く>
・Before
・After
登録販売者の仕事には、様々な業務があります。品出しや陳列、在庫発注・管理、そしてお客さま対応。なかでも売上のカギを握っているとも言える接客業務は、得意不得意が明確にわかれるところでもあります。 そこで今回は、アパレル業界を中心に数々のセミナー講師やコラム執筆などを手がける接客アドバイザー・平山枝美(ひらやま・えみ)さんにインタビュー。「販売員の地位向上」を接客の側面から目指す平山さんに、売れる販売員になる方法についてお話を伺いました。
「売れる販売員」と「売れない販売員」
――平山さんは「売れる販売員」と「売れない販売員」の違いはどこにあると考えていますか?
これはもう明らかで、「人に興味があるかないか」です。
相手が思っていることを会話や仕草などで感じ取れるかがとても重要で、たとえばアパレルでは「パンツとスカートどちらを履きますか?」という質問をすることがあります。
ここから想像が膨らむ人は、「パンツは履かないんです」と答えが返ってきたときに、まず「なぜパンツを履かないんだろう?」と考えるんです。そのため、さらにお客さまが考えていることを深掘りし、潜在ニーズを引き出せます。
つまり、お客さまに興味がわく人は情報収拾力も高く、売れる提案がしやすいんです。
――今売れないと思っている人たちは、どのようなことをしていけば売れる販売員に近づけるでしょうか?
まずお客さまに興味をもつことがひとつ。
それに加え、売れる販売員の皆さんに聞くと必ずおっしゃるのは、「商品提案につながる知識について勉強した」というもの。そうした勉強を接客に生かすことが接客力をあげるふたつめの方法です。
たとえば、色彩の勉強には「色の概念を知る」というものがあります。それをそのまま使ってもお客さまにとってはピンとこない情報ですが、「このピンクのバッグは今着ていらっしゃる服に合います。
本来、くすんでいる色に鮮やかな色を合わせると、くすんだ色が汚く見えてしまいます。でも、お客さまが着ていらっしゃる服の色は、くすんだ色味同士なのでそれぞれを綺麗に見せてくれます。」と言われたらどうでしょう。接客シーンをイメージしながら知識を習得することで、説得力が増します。
そしてみっつめは、「接客は技術なので、毎日練習をすれば絶対に上達する」と理解すること。「接客ができない」「売れない」と思っている人は、自分ではどうしようもないセンスの問題だと思っている場合が多いんです。でも、実際はそうではありません。
*接客は以下の5つの技術で成り立っています。
1.「待機」
→お客さまが入店しやすい動的待機※
2.「ファーストアプローチ」
→お客さまへの声かけ
3.「ニーズの把握」
→お客さまの悩み、問題のヒアリング
4.「商品提案」
→3から導き出した答えとして商品提案を行う
5.「クロージング」
→おすすめする理由の提示、購入の背中を押す
※動的待機とは……店のなかを動きながらお客さまのご来店を待つこと
自分がこれらのどこでつまずいているのかを把握するのが、上達への近道です。そうすれば、どこから意識して直せばいいかがわかりますよね。
たとえば、商品提案をしても、お客さまの反応が薄かったなら提案したものが違うのか、説明の仕方を変えたほうがよいのかを考えてみるといいでしょう。
そうした振り返りを行って、今の自分に必要なスキルを補ったり、足りない知識を身につけながら修正していく。トライアンドエラーを自分で対処できているかどうかで、接客力は大きく変わっていくものです。



接客力を高めるトレーニング
――日頃からできる接客力を高める効果的なトレーニングを教えてください。
1.生活のなかの不便をみつける
人は何か不便があったり、「こういう風になりたい」という意識からものを買います。
たとえば、薬なら「外出しているときは薬を飲み忘れてしまう」などの不便を見つけておくと、「外出しているときってお昼に薬を飲み忘れちゃいますよね。
こちらの薬なら1日朝夜2回なので忙しいときでも安心ですよ」と実体験を生かした提案ができるようになり、説得力が増して最後の一押しになります。
2.ラジオのDJの喋り方を真似てみる
いいことを言っていても、そもそも聞き取りづらければ台なしですよね。そのため売れる販売員は話し方もトレーニングをしています。
どのようなトレーニングかというと、「話のプロのマネをする」というもの。なかでもおすすめなのは、ラジオのDJ。彼らは映像の力を頼らず言葉だけでわかりやすく話を伝えるプロなので、とても参考になるのです。
DJが「こんにちは、〇〇です」と言ったら、それをオウム返しします。速さ・大きさ・滑舌をチェックしているうちに、聞き取りやすい話し方が身につきます。
3.料理をつくりながら手順を解説をする
販売員は、コーディネート提案やギフトラッピングなどで手を動かしながら喋るスキルも必要です。
料理番組のように、料理をつくりながら手順を解説するトレーニングもいいでしょう。手順の説明に慣れてきたら、次は薬の説明をしながら料理をしてもいいかもしれません。
薬剤師さんを見ていると、購入した薬を袋に入れながら、薬の説明をしてくれたりします。そういうのも手際がいいととても頼りになると感じるので、接客力をあげるトレーニングとして有効です。
4.商品提案のロープレを動画・音声録音してみる
自分の提案がわかりやすくできているか、客観的なチェックも欠かさず行いたいですね。
私が行っている研修では、商品提案をしているところを動画に撮ってチェックします。参加者の皆さんは驚きつつも、「直すべき箇所がはっきりした」とおっしゃいます。
5.本を読んで自分だけの参考書をつくる
最後は勉強にまつわる話になりますが、本やセミナーなどで学んで重要だと思った箇所は、別途ノートまたはスマホに書くのをおすすめします。
自分が持ち歩ける大きさの手帳などに書き溜めていくと自分だけの参考書ができあがります。
売り場に出る前に確認して、「今日はこの項目をやってみよう」と意識をして臨めるので、より実践的に身につきやすくなる利点があります。
苦手な接客を克服する方法
――販売員のなかにはお客さまと話すのが苦手な方もいらっしゃいます。そうした方は、どのようにして克服できますか?
おっしゃる通り、引っ込み思案や人見知りの方も大勢います。私自身もそうでした。かといって、無理やり性格を変えようと思っても、その人の個性をつぶしかねません。
人見知りで話しかけるのが苦手なのは、性格だけではなく慣れに関係しています。ですから、スタッフの皆さんには「日常的に自分から声をかけること」を実践してもらっています。
たとえば、自分から挨拶をする練習をしたり、エレベーターの階数ボタンを押してもらうときに自分から「3階を押してもらえますか?」と声をかけてみたり……。日常のなかで、自分から話しかけるコツを身につけるトレーニングを行います。
それからもっとも大切なのは、自信をつけてもらうことです。そういった引っ込み思案な方ほど、話している途中に見せる笑顔がとても素敵なんですよね。そのような点を周りが言葉にして伝えると、「自分は笑っていいんだ」と気づき自然と笑顔が増えます。お互いに褒め合ったり、よかった部分をフィードバックし合って、自分に自信をつけていけるといいですね。
むしろ、人見知りな方が販売員に向いているかもしれません。お客さまの立場で考えられますし、グイグイと積極的な姿勢を好まない方もいらっしゃるからです。「ちょっと緊張しています」と素直に言われた方が、話しやすくなるお客さまは多いと思いますよ。

販売ノルマとの上手なつきあい方
――ノルマとの上手な付き合い方を教えてください。
アパレルの販売員の場合ノルマはありませんが、予算目標がそれぞれに設定されています。こうした予算に苦手意識をもつ方も多いですよね。私も予算達成のためにお客さまを利用しているように感じ、苦しんだことがあります。
しかし、予算との向き合い方を変えるだけで「お客さまが喜んでいるバロメーター」だと捉えられるようになります。
たとえば、スカートは似合わないと思っていたお客さまにぴったりなスカートを提案できたら、喜んでもらえます。「嬉しい!私にも履けるんだ」と思うから購入につながり、予算達成にもつながるわけです。
ここで予算のことが頭にチラついて「少しでも高いものをすすめよう」「押しきれば買ってくれる」と自分本位に考えてしまうと、お客さまに伝わってしまうでしょう。ご購入どころか、2度と来てもらえないかもしれません。
ですから、接客中は予算のことは頭のなかから追い出して、「お客さまが何をしたら喜ぶのか」を考えることに集中すべきだとアドバイスします。
そうすれば、そのときは買ってくれなくてもまた来店してくれます。そのお客さまが常連となれば自ずと売上はあがり、予算も達成できますよね。個人予算は、自分が勉強した知識が接客に生かせている「成長の証」と捉えて、前向きに取り組んで欲しいと思います。
接客は「技術職」。努力次第で“売れる販売員”になれる
――平山さんが接客について発信を続けられているのは、「販売員の地位向上」という目標があると聞いています。平山さんから悩めるすべての販売員の方たちへメッセージをお願いします。
販売員はやりがいがありますが、突き詰めると難しい仕事です。私はそんな販売員の仕事をおしゃべりをしてものを買ってもらうのではなく、お客さまの潜在ニーズを引き出し、それに合わせて提案をする「技術職」だと思っています。
職種も勉強する内容も違いますが、接客とは本来、症状に合わせて薬を提案する“薬剤師”や“カウンセラー”に近い役割があります。お客さまがそうした接客を受け「さすが、プロは違う」と感じていただくことは、結果、販売員の地位向上へもつながるでしょう。
コロナ禍により販売員の活躍はECなどにも広がりつつありますが、ベースとなる接客を軸に、私自身も活動していきます。
そして、接客に悩みをもつ販売員の方へ伝えたいのは、接客に向き不向きはないということ。なぜなら、「8割技術2割センス」だからです。小さい頃から大人と話し慣れていたり、生まれ育った環境から会話がとても上手だったり……。そういった違いはあれど、8割は技術でカバーすることができます。
だから、もし販売という仕事が向いていないかもと思っても、諦めないで欲しいです。取り組んだ分だけ必ず結果は出るし、自分のことを好きになってくれるお客さまもいます。
ですから、かつて逆上がりを毎日練習したときのように、コツコツ取り組んでいきましょう。そしていつか、養った技術をお客さまのために生かす“売れる販売員”になってくれたら嬉しいです。
【執筆者プロフィール】
接客アドバイザー 平山枝美(ひらやま えみ)
大学卒業後、アパレル企業に入社。接客のひと言に磨きをかけ、社内全販売員200人の売上トップに。入社最速でエリア・マネジャーに抜擢される。全国の店長育成を担当。大手アパレル会社に移籍し、店長の育成に携わった後、独立。
これまで取り組みをしてきた企業は、無印良品(良品計画)、大型商業施設、インテリア小売店など、アパレルに留まらず小売業全般にわたる。処女作『売れる販売員が絶対言わない接客の言葉』(日本実業出版社)はベストセラーに。

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