現場で役立つ知識
2022-12-23
知っておきたい漢方薬・生薬の基礎知識<登録販売者向け>
・Before
・After
近年、西洋医学が中心の日本医学において、漢方医学(漢方)がクローズアップされています。しかしながら、漢方医学や漢方薬、それを構成する生薬について学べる場所は少なく、登録販売者を含む医療関係者のうち、これらを適正に活用できている人は多いとは言えないのが現状です。そこで今回は、漢方医学や漢方薬、生薬を学ぶにあたって必要な基礎知識を解説します。【執筆者:漢方薬剤師/漢方アドバイザー/杉山卓也さん】
登録販売者必見!記憶に残る漢方・生薬の覚え方
「漢方医学(漢方)」とは?
「漢方医学(漢方)」とは、日本固有の言葉・医学形態です。
中国の伝統医学である「中医学」をルーツとし、日本独自で体系が確立された東洋医学を指します。
なお国内には、「漢方医学」ではなく「中医学」を専攻している方も数多くいます。
漢方と中医学の違い
漢方医学の治療で用いられる漢方薬(中医学では「中成薬」と呼ぶ)のなかには、中国と日本でその構成が異なるものがあります。
その一方で、「気・血・水」という体を構成する要素や「五臓六腑」と呼ばれる内臓器官の働きなどを基に、体の内部の状態を診断して改善させることで病気を根本から治していくという概念は、共通しています。
また、植物や動物、そして鉱石などから成るさまざまな「生薬」で構成される薬剤を用いている点も一致しています。
漢方と中医学の歴史
中医学の歴史は古く、中国では約2000年前にはすでに理論体系が確立されていたと言われています。
また、中医学が日本に伝来した時期は、奈良時代や平安時代など諸説ありますが、日本の風土や日本人の体質に合わせて少しずつ手が加えられ、江戸時代の鎖国期に日本独自の医療体系として確立されたと言われています。
したがって、中国で「漢方」と言っても多くの場合は通じません。
西洋薬(西洋医学)との違い
西洋医学と漢方医学の最も大きな違いとして、「対症療法か根本治療か」という点があります。
西洋医学はどちらかというと、病巣を取り除いたり、菌やウイルスの増殖を抑えて駆逐したりすることで、ピンポイントに病気に働きかける「対症療法」を中心としています。
一方、漢方医学は体に不足しているものを補ったり、全体の流れを改善させたりして整えることを目的にしている「根本治療」です。
「どちらが優れている」ということはなく、それぞれの良い点を活かして「良いとこ取り」の医療を目指していくのが理想的でしょう。

「漢方医学(漢方)」の基本的な4つの考え方
次は、お客さまに適した漢方薬を検討する際に必要な「漢方医学の基本的な4つの考え方」について解説します。
(1)五行(ごぎょう)
五行とは、中国の思想「古代哲学の五行学説」を中医学の理論に落とし込んだものです。
この理論では、万物は以下の5つに分類でき、これらがバランスを取ることで自然界が保たれていると説いています。
- 木(もく)
- 火(か)
- 土(ど)
- 金(こん)
- 水(すい)
中医学では、人間も自然界の一部ととらえられ、この5つの要素を体内の5つの機能「五臓」に当てはめて考えます。
□五臓…エネルギーや栄養を作って蓄える臓器
- 肝(かん)=木
- 心(しん)=火
- 脾(ひ)=土
- 肺(はい)=金
- 腎(じん)=水
上記の5つの臓と下記の6つの腑は、まとめて「五臓六腑」と呼ばれます。
□六腑…食物の消化・吸収、栄養の運搬、排泄を担う臓器
- 胆(たん)
- 小腸(しょうちょう)
- 胃(い)
- 大腸(だいちょう)
- 膀胱(ぼうこう)
- 三焦(さんしょう)
五行と五臓六腑は、中医学理論を学ぶうえで欠かせない要素です。
まずは、こうした分類があることを覚えておきましょう。
(2)気・血・水
漢方医学や中医学の「気・血・水」は、西洋医学にはない独自の考え方です。
これらが人体をつくり動かす3要素だとされています。
- 気(き)…体や心を動かすための根源となるエネルギー
- 血(けつ)…体内の栄養そのものや、栄養と体温(熱)などを運ぶ血液
- 水(すい)…体を潤し余剰な熱を収める「体液」
とくに気の流れは重要で、血や水といった栄養物質を動かすための動力として使われたり、体内に血や水を留めておくための働きを担ったりします。
気が不足すると「気虚(ききょ)」、気の流れが滞留すると「気滞(きたい)」という病態などが起こります。
(3)証(しょう)
「証」とは、患者さまの先天的・後天的な体質、病気の性質、生活環境などさまざまな要因を聞き取って分析・分類したものです。
たとえば、以下のような状態に分類されます。
- 気・血・水がそれぞれ不足している状態
・気虚
・血虚(けっきょ)
・陰虚(いんきょ) - 気・血・水が停滞している状態
・気滞
・瘀血(おけつ)
・水滞(すいたい)
五臓六腑の考え方と組み合わせて証の分類を行えれば、「腎陰虚(じんいんきょ)※」や「心血虚(しんけっきょ)※」など、より専門的な診断が可能です。
※腎陰虚…腎の働きが低下した腎虚に体の潤い(陰)の不足が合わさった病態
※心血虚…心に流れ込む栄養としての血が不足した病態
(4)六経分類(りっけいぶんるい)
六型分類とは、病期(病理の進行度)による分類を指します。
漢方医学、中医学では、「万物は『陰』と『陽』の相反する表裏関係が成り立っている」という「陰陽(いんよう)」の考え方を取り入れています。
この「陰陽」を利用した病期の考え方が、六経分類です。
病中の患者さまの状態について、体力や正気(気血水のこと)が充実している状態を「陽」、体力や正気が失われ、最終的に死に至ると「陰」と捉えます。
さらにこの陽と陰の病期はそれぞれ3つずつに分類されます。
- 陽期
「太陽病」(たいようびょう)→「少陽病(しょうようびょう)」→「陽明病(ようめいびょう)」 - 陰期
「太陰病(たいいんびょう)」→「少陰病(しょういんびょう)」→「厥陰病(けついんびょう)」
太陽病が最も元気で、厥陰病が最も死に近い状態です。
それぞれの病期で、特徴的な症状と対策、漢方薬が明らかになっています。
そのため、漢方による治療の際には、患者さまの病期を見極めたうえで必要な対策を適切に講じていくことが求められるでしょう。
「漢方医学(漢方)」に対する「漢方薬」とは?
それではいよいよ、漢方医学の治療に用いられる漢方薬の基本を見ていきましょう。
漢方薬と生薬の関係
漢方薬とは、さまざまな「生薬」の集合体です。
生薬には、「寒熱(かんねつ/体を冷やす・温める)」などをはじめ、気を補う「補気(ほき)」や気を巡らせる「理気(りき)」などのさまざまな性質があります。
漢方薬は、これらの性質をいくつも複合させて形成されています。
生薬の役割には、「君臣佐使(くんしんさし)」という分類があり、下記のルールに基づいて漢方薬は構成されています。
- 君薬(くんやく)…主な効果を担うもの
- 臣薬(しんやく)…君薬の効果を補うもの
- 佐薬(さやく)…君薬と臣薬の働きを調整するもの
- 使薬(しやく)…漢方薬の効果が体内で発揮されやすくするもの
漢方薬の種類
現代の漢方薬には、煎じ薬、エキス薬、丸薬などさまざまな形があります。
それぞれにメリットやデメリットがあるので、服用される人の好みや飲みやすさ(継続しやすさ)で選びましょう。
・煎じ薬
生薬を煮出して作られたもので、「湯薬(とうやく)」とも呼ばれます。
独特の匂いや味が苦手な方も多いですが、個々人に応じた細やかな分量調整ができるうえ、生薬の効果をダイレクトに得られるメリットもあります。
・エキス薬
煎じ薬からエキスだけを抽出し、顆粒や粉末に加工したものです。
携帯性や利便性に優れているという特徴があります。
・丸薬
生薬を粉にしたものをはちみつや米粉などの賦形物で加工したもので、古来より使われている伝統的な剤形です。
漢方薬での対処が効果的と言われる症状
内臓の働きを改善させることを得意とする漢方薬は、以下のような多岐にわたる症状・病気に対して効果を期待できます。
- 胃腸虚弱(食欲不振、逆流性食道炎、肥満、痩身、嘔吐、胸焼け)
- 便通の改善(慢性下痢や慢性便秘)
- 呼吸器官の失調(喘息症状、呼吸困難性、気管虚脱)冷え性、成長不全(歯が生えない、背が伸びない、髪が生えない、夜尿症など)
- 尿トラブル(排尿困難、頻尿)
- 炎症性皮膚疾患(アトピー、乾燥肌、慢性湿疹など)
- 自律神経やメンタルの失調(不安神経症、不眠症、イライラ、更年期障害、PMS、健忘症など)
- 目のトラブル(眼精疲労、かすみ目などの調節障害)
- 広義の老化現象(脱毛症、白髪、足腰の弱り、むくみ、肌のシミやくすみ、認知障害など)
- 血行障害(高血圧、高血糖、高コレステロール症、生理痛、子宮筋腫、子宮内膜症、梗塞の予防や予後の改善など)
- 痛みの改善(神経痛や関節痛など幅広い痛み)
漢方薬を適切に用いることで、慢性疾患だけではなく、感冒(風邪)症状や嘔吐・下痢などの急性症状にも早期の回復が期待できます。
一方で、外科的な処置を必要とする腫瘍(とくに悪性疾患)や整形外科領域などに対しては、その効果は発揮しづらいと言えるでしょう。
漢方薬は決して万能ではありません。
しかし、体に足りないものを補い、滞った流れを整えることで、さまざまな病気の改善や回復を促し、予防効果を高められるのは事実です。
大切なのはその患者さまに適正な漢方薬を選び、少しずつ変化していく体質や病質に応じて薬を見直していくことでしょう。



漢方薬を適切に選ぶには基本を知ることから
登録販売者の方とお話しした際、「漢方薬や、生薬の知識が自分のキャリアにどう役立つのか?」というご質問を多くいただきます。
登録販売者の場合は、ドラッグストアや薬局での接客に活かすケースが多いでしょう。
その場合は「中医学や漢方医学の理論」の全体像を把握したうえで、「弁証論治(べんしょうろんち)」と呼ばれる証を導いたり、六経分類から適正な漢方薬を選定したりする技術を身につける必要があると考えます。
中医学から派生した漢方医学は、どちらかと言えば理論よりも個々の漢方薬の使い方を中心に学ぶスタイルが主流です。
一方で、さらに理解を深めたい方は、中医学の理論を学ぶとより的確に漢方薬を選べるようになります。
大切なのは、漢方薬を選ぶ「根拠」をしっかりと学ぶことでしょう。
まずは漢方薬の効果効能を知り、その漢方薬を構成する生薬についても学ぶ。
そのうえで理論を学んで身につけていけば、医療関係者や登録販売者のなかでも数少ない「漢方薬を正しく扱える人間」として、キャリアアップにつながるのではないでしょうか。
中医学、漢方医学への好奇心をもって、今後も楽しみながら学び続けていただければと思います。
【執筆者プロフィール】
執筆者:杉山卓也(すぎやま・たくや)さん
漢方薬剤師/漢方アドバイザー。「こころと漢方の専門家」として神奈川県座間市にある「漢方のスギヤマ薬局」でメンタルを中心とした漢方相談をするかたわら、東京都世田谷区に漢方専門店「成城漢方たまり」、1年間で中医学や薬膳、経済まで学べる「tamari中医学養生学院」の経営や漢方業界唯一のオンラインサロン「タクヤ中医学オンラインサロン」を運営し、600名を超える会員を集めている。
神奈川中医薬研究会会長、星薬科大学非常勤講師、合同会社Takuya kanpo consulting代表

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