現場で役立つ知識
2022-12-12
インフルエンザのときに使える市販の解熱鎮痛薬をお求めのお客さまへの対応【薬剤師に学ぶ医薬品知識】
・Before
・After
冬になると例年のように流行するインフルエンザ。登録販売者の方のなかには、インフルエンザが疑われるお客さまに対して、どの解熱鎮痛薬を販売したらいいのか悩んでしまう方も多いのではないでしょうか。通常の風邪とは異なり、インフルエンザが疑われる方に販売できる解熱鎮痛薬は非常に限られています。誤ったものを販売してしまうと、思わぬ健康被害を招くことにもなりかねません。お客さまの健康を守るためにも、本記事を読んでインフルエンザのときに使用できる解熱鎮痛薬についてしっかり把握しておきましょう。
風邪とインフルエンザの違いは?
風邪やインフルエンザはウイルスが原因で引き起こされますが、ウイルスにはさまざまな種類があります。
インフルエンザウイルスが原因となるインフルエンザに対し、風邪を引き起こすウイルスは200種類以上あると言われ、代表的な風邪のウイルスには次のようなものがあげられるでしょう。
- ライノウイルス
- コロナウイルス ※新型コロナウイルスを除く
- アデノウイルス
- RSウイルス
- エンテロウイルス
どちらも鼻水やのどの痛み、咳などの似たような症状を伴いますが、比較的インフルエンザの方が症状が重い傾向にあります。
また、インフルエンザは症状が急激にあらわれることが多く、38度以上の高熱や関節痛が出る方も少なくありません。
一方で風邪は、徐々に症状が進行し、インフルエンザほど高い熱が出ることは少ない傾向があります。
冬に流行するインフルエンザとは異なり、年間を通してかかるのも特徴の一つと言えるでしょう。
インフルエンザが疑われるからといって必ずしも受診が必要なわけではありませんが、65歳以上の高齢者や妊娠中の方、肥満、糖尿病、喘息があるなどの重症化リスクが高い方はできるだけ医療機関を受診してもらうようにしてください。
風邪 | インフルエンザ | |
---|---|---|
原因ウイルス | ライノウイルス、アデノウイルスなど | インフルエンザウイルス |
症状 | 鼻水やのどの痛み、38度以下の熱などが一般的 | 鼻水、比較的重いのどの痛みや腫れ、関節痛、38度以上の熱などが一般的 |
▼参考資料はコチラ
くすりと健康の情報局『風邪とインフルエンザの違いとは?症状の見分け方や市販の風邪薬を選ぶポイント』
くすりと健康の情報局『風邪の原因』
関連記事:インフルエンザの主な症状は?風邪との見分け方や登録販売者がとるべき対応を解説

インフルエンザで使える市販薬とは?
インフルエンザで使用できる市販の解熱鎮痛薬は、多くありません。
インフルエンザ脳症やライ症候群のリスクがあり、使用に適していないものが多いのです。
しかし、インフルエンザかどうかを自分で見極めることはできません。
そのため、38度以上の熱が出た場合は、できるだけ医療機関を受診するよう伝えましょう。
どうしても受診できないときは、インフルエンザの可能性があることを念頭に解熱鎮痛薬を選ぶ必要があります。
インフルエンザが疑われるときは「アセトアミノフェン」を選択
インフルエンザの可能性が考えられる場合、第一候補となるのがアセトアミノフェンです。
アセトアミノフェンは、子どもから大人まで使用できるだけでなく、意識障害や異常行動などを起こすインフルエンザ脳症や嘔吐・錯乱を生じるライ症候群のリスクを上げることもありません。
解熱鎮痛効果はほかの成分と比べると劣りますが、安全面を考慮してアセトアミノフェンを推奨すると良いでしょう。
アセトアミノフェン配合の市販解熱剤は?
アセトアミノフェンが配合された市販薬には、「タイレノールA」「アセトアミノフェン錠クニヒロ」「小児用バファリンCⅡ」などがあります。
いずれもアセトアミノフェンのみが配合された市販薬です。
インフルエンザの疑いがあるお客さまから相談された場合は、これらの市販薬を参考にお勧めしましょう。
飲んではいけない市販薬
インフルエンザが疑われる方には、ロキソプロフェンやイブプロフェンが配合された解熱鎮痛薬を販売してはいけません。
これらの成分を服用することで、インフルエンザ脳症のリスクが高まってしまうためです。
子どもはとくにリスクが高まるため、販売しないように注意してください。
また、大人もリスクがゼロというわけではありません。
あえて販売するメリットはないので、インフルエンザが疑われる場合はアセトアミノフェンのみ配合された薬を販売するようにしましょう。
このほか、アセチルサリチル酸もインフルエンザ脳症やライ症候群のリスクを高めるため注意が必要です。
▼参考資料はコチラ
タイレノールA『薬剤師さんに聞いたアセトアミノフェンの特徴』
<対応例>解熱鎮痛薬を求めて来店されたお客さまへの対応
では、解熱鎮痛薬を求めてお客さまが来店した場合、登録販売者がどのように対応したら良いのか、例を見てみましょう。
◆人物データ
20代女性
職業:学生
既往症:なし
服用中の薬:なし
症状:今朝から38度の熱が出たので解熱鎮痛薬を購入しに来た。
◆対応例
お客さま:
すみません、解熱鎮痛薬はありますか?できるだけよく効くものが欲しいんですけど…。
登録販売者:
よく効くものだと、ロキソプロフェンやイブプロフェンがあります。風邪を引かれたのですか?
お客さま:
はい、今朝から38度も熱が出てしまって。昨晩はなんともなかったんですけど。
登録販売者:
38度ですか、少し高めですね。念のためもう少しお話を聞かせてください。熱以外に症状はありますか?
お客さま:
関節が少し痛む感じがします。あとは咳もときどき出ます。
登録販売者:
関節痛と咳ですね。話を聞いた限りでは、インフルエンザの可能性もゼロではないと思います。インフルエンザのときは使える解熱鎮痛薬が限られているので、こちらのアセトアミノフェンのみ配合された薬なら安全に使用できます。
お客さま:
そうなんですね。では、そちらをお願いします。
登録販売者:
かしこまりました。インフルエンザの薬は医療機関でしか処方できないので、もしお時間があれば早めに受診してみてください。インフルエンザの薬は、発症から48時間以内に服用しないと効果が出づらくなっています。発症から6時間以上経っていればインフルエンザの判定も正確に出ると思いますよ。
接客のポイント
よく効く解熱鎮痛薬が欲しいとのことだったので、最初はロキソプロフェンとイブプロフェンを勧めました。
しかし、話を聞いていくと38度以上の熱と関節痛があり、インフルエンザの可能性があると考えました。
そこで、インフルエンザ脳症のリスクを考えてアセトアミノフェンを勧め、お客さまにはインフルエンザが疑われる場合は使用できる解熱鎮痛薬が限られることを伝えました。
また、インフルエンザが疑われる場合には、受診することでインフルエンザの薬を処方してもらえること、48時間以内に服用しないとあまり効果がないこと、発症から6時間以上経っていれば正確な判断ができることも伝え、受診を勧めました。
お客さまに伝えるべき注意点
解熱鎮痛薬を販売する際は、インフルエンザかどうかにかかわらず伝えるべきことがいくつかあります。
用法、用量を守る
用法用量を守るのは基本中の基本です。
しかし、「解熱鎮痛薬を飲んでも熱や痛みが引かないから」と、倍量を飲んだり間隔を空けずに2回目の分を服用したりしている方が意外と多くいます。
倍飲んだからといって効果も倍になるわけではないこと、正しく服用しないと胃腸障害が起こりやすくなることなどを伝え、用法用量を守ってもらいましょう。
服用前後の飲酒を避ける
解熱鎮痛薬のなかには、鎮静成分であるアリルイソプロピルアセチル尿素やブロモワレリル尿素が含まれているものもあります。
これらの成分は飲酒によって鎮静効果が過剰に出ることがあるため、解熱鎮痛薬の服用前後の飲酒は避けるよう伝えましょう。
副作用
解熱鎮痛薬で起こりやすい副作用として、胃腸障害が知られています。
服用後に胃がムカムカしたりキリキリしたりした場合は、副作用の影響かもしれません。
アセトアミノフェンは胃腸に負担をかけにくいことで知られている成分です。
そのため胃腸障害は出にくいものの、念のため食後に服用するか多めの水で飲むように伝えましょう。
インフルエンザ疑いにはアセトアミノフェン一択
インフルエンザ疑いのお客さまが解熱鎮痛薬をお探しの際は、まず「アセトアミノフェンを勧める」ということを覚えておきましょう。
そして的確な治療を受けていただくためにも、お客さまにはできるだけ受診を促すことが大切です。
近年は新型コロナウイルス感染症の影響もあって、受診を控えたり、予約が取れなかったり、受診しにくい状況が続いています。
登録販売者として適切にセルフメディケーションや受診勧奨を行えるよう、対応方法を身につけておきましょう。
【執筆者プロフィール】
執筆者:岡本妃香里
薬学部を卒業後、都内の大手ドラッグストアで4年間勤務。毎日2,000人近くが来局する店舗でOTC販売を経験。現在は薬の正しい使い方や選び方を広めるために、執筆業をメインに活動。

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