著名人コラム
2023-01-06
ドラッグストアで使える接客心理学!お客さまの信頼を得るコツは?<登録販売者向け>
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登録販売者の皆さんのなかには、書籍などで「接客で使える心理学」などを学んだことがある方もいるのではないでしょうか。心理学を使った接客方法については、多くが「購買心理」や「消費者行動」という切り口から研究されてきています。しかし、こうした心理テクニックを用いると、「商品を売るため」の表面的な接客になりがちです。そこで今回は、登録販売者の視点から「信頼を得ること」を軸にした接客心理学について考えてみましょう。お客さまへの質問や対話のなかで何を考えてどのように行動すれば良いか、具体的な事例も交えつつ詳しく解説しています。ぜひ日々の接客の参考にしてみてください。【執筆者:日本ビジネス心理学会 副会長 /(有)認知科学研究所 所長 匠 英一さん】
心理学はお客さまとの関係構築に役立つ
接客で大切なのはお客さまとの「信頼」ある関係性の構築です。
そのことを前提に、まずは心理学における「信頼」について考えてみましょう。
心理学者アドラーの提唱する心理学では、「信用」と「信頼」を区別しています。
「信用(confidence)」とは、誤解がないように相互の取り決めを条件として、相手を信じるものです。
ビジネスでの契約などがこれにあたります。
「信頼(trust)」は、その人の人間性やこれまでの関係から相手を無条件に信じることです。
お客さまとの信頼が築けていれば、最低限の説明でも、おすすめした商品を納得のうえでお客様に選んで購入いただけるケースもあるわけです。
そのため、心理学を一時的な売るためのテクニックとしてではなく、お客さまに信頼される関係性を目指すために役立てください。
まず知りたい「バンドワゴン効果」と「スノッブ効果」とは?
有名な心理効果の一つに「バンドワゴン効果」と呼ばれるものがあります。
たとえばドラッグストアの店頭には、「売れ筋商品」や「よく売れてます」という文言のPOPなどが掲示されているでしょう。
これは「多くの人が買っている」という事実が安心感につながる「同調心理」を利用したものです。
この心理を用いた方法は、低価格な日用品や雑貨の販売に有効です。
一方で、製品そのものの個性が求められたりこだわりが出やすかったりする高価格帯の美容商品などでは、こうしたPOPの掲示が逆効果になるケースもあります。
これは「スノッブ効果」と言われ、特別感や希少性を重要視する心理です。
これらと同時に、「流行に後れたくない」といった心理も働きます。
「個性的でありたい」と「周りと同じでいたい」という矛盾した感情が同時に存在するわけです。
そのため、登録販売者は日常的に使う低価格商品とこだわりの出やすい高級商品とを区別して販売する意識をもっておくことが大切になります。
商品説明では「両面呈示」で良い点と悪い点を伝える
お客さまの信頼を得るには、心理学でいう「両面呈示」も重要です。
「両面呈示」とは、商品の良い面だけでなく、悪い面もお客さまにきちんと伝えることを意味します。
たとえばあなたは、商品の良いところだけをアピールする店員を信用できるでしょうか。
心理学には「両面呈示(二面呈示)」と「一面呈示」という言葉があり、「一面呈示」は商品の良い点だけを強調します。
お客さまが最初から特定の商品を買うために来店していれば、「一面呈示」でも「共感」と受け止められて購買行動につながるケースもあります。
しかし、商品知識がすでにあって不安を感じているお客さまの場合には、その行動が不信感につながることも考えられます。
購入後に悪い点を知ってしまうと、「買う前に(悪い面も)きちんと言ってくれれば良かったのに」という思いからクレームになる可能性もあるでしょう。
事前に「両面呈示」をしていれば、想定内の問題が起こっても大きな不満にはなりません。
こういったことの積み重ねが、長期的な「信頼」の構築になってくるわけです。
相談では相手の状況に沿った質問を
接客で失敗してしまう理由の一つに、「商品は説明すべきもの」という固定観念があります。
こうした固定概念を捨てて客観的に捉える「認知的方略(cognitive strategy)」の見方が必要なのです。
百貨店での覆面調査をしたときの例をご紹介しましょう。
化粧品カウンターで自分の悩みごとをビューティーアドバイザーに相談し、接客の良し悪しを見るというものです。
売上の低い店と高い店の「対話の仕方」を分析してみると、低い店ほど商品知識が十分でなく、お客さまに対して「知ったかぶりをしてしまう」傾向が見られました。
自分の未熟さを相手に悟られまいとして、見栄をはってしまうのです。
さらに、お客さまへの質問の仕方にも違いが見られました。
売上の低い店では「顔にシミがあることが悩み」だと伝えると、「シミならこちらの〇〇剤の入ったものが長持ちしてケアに最適です」といった商品の「説明」をされました。
一方の売上の高い店では、まず「それはどんなとき、どんな場所で気になりますか」と相手の気にしている状況を確認し、そのうえで解決できる商品を「提案」してくれたのです。
この違いには、まず「相手の気持ちを知ろうとしているか」という点があります。
さらに、人の悩みはTPO(時間/場所/事柄)により変わるため、質問が必要という「認知的方略」の考え方により、お客さまの悩みに最もふさわしい商品の提案ができたのです。
お客さまへの「共感質問」で気持ちよく購入を促す
では次に、「認知的方略」を用いた効果的な質問を見ていきましょう。
まず前提として、質問には相手を強制する力があります。
その典型的なものが「Aか、それともBか?」という二者択一式の「限定質問」です。
このように聞かれると、お客さまはAとBのどちらかを選ぶしかないと考え、その他のCという選択肢に気づきにくくなります。
これは人の思考のクセによるもので、一般的な営業テクニックとしても使われるものです。
しかし、本当に必要なものを選択するための質問とは言えず、お客さまに信頼される接客としてはふさわしくありません。
では、どんな質問をするのが良いのでしょうか。
それは、相手の気持ちを肯定する「共感質問」です。
たとえば、次のような例で考えてみましょう。
お客さまが特定の口紅を手に取って見ているとき、横から店員さんが「その商品のその色味は人気ですぐなくなるんですよね」と声を掛けます。
それに対し、お客さまは「そうなんですよね。この色はほかにはあまりないんです」と答えました。
ここでのポイントは、「その色がお好きですか」といった直接的な質問をしないことです。
質問をすると、お客さまはそれに応える「義務」を感じるためです。
この例では、店員の「良い色ですよね」という言葉のニュアンスが共感としてお客さまに伝わっています。
さらに、「もう在庫が少ない」という情報が「スノッブ効果」を生み、購入を促す結果につながったと言えるでしょう。
「買わせる」のではなく「信頼を得る」ための接客を
接客のテクニックとして心理学を学ぶことは大事ですが、お客さまのためになる活用方法をするのが重要だと私は考えています。
登録販売者の皆さんが取り扱う商品には、医療や衛生の分野など慎重に扱うべきものも多くあるため、なおさらです。
お客さまを「説得」するのではなく、信頼を根拠に「納得」して気持ちよく購入してもらいましょう。
今回の記事では、人の心の二面性を「バンドワゴン効果」と「スノッブ効果」の対比で説明しました。
そして、商品の良い面と悪い面を正直に伝える「両面呈示」、「認知的方略」による悩みを感じる状況を意識すること、相手の感情を肯定する「共感質問」の3つを、接客する際に理解しておくべきポイントとして紹介しました。
接客においては長期的な信頼が重要であり、それがあなた自身のブランドを高めていくことにつながるでしょう。
【執筆者プロフィール】
執筆者:匠英一(たくみ・えいいち)さん
日本ビジネス心理学会 副会長
(有)認知科学研究所 所長
1990年に東京大学大学院を経て、医学系の研究者らと(株)認知科学研究所を設立し、代表に就任。日本初の脳と心の総合科学「認知科学」を応用した顧客中心の経営(CRM)、マーケティングや人材開発でコンサル業に従事している。
また、初代事務局長を務めるCRM協議会ほか15件の業界団体を創設するなど、異業種の“越境”によるビジネスモデル創りに貢献。さらに公職としてはデジタルハリウッド大学教授、早稲田大学商学部客員研究員、医学系大学などで心理学の講座担当を歴任。現在は資格の「ビジネス心理検定」の普及と「学び&遊びを育てる会」の生涯学習の支援に力を入れている。
ほか「しぐさ分析」では、テレビ番組出演(ナカイの窓など)や国内最多の著作実績あり。著書には、『ど素人でもわかる心理学の本』(翔泳社)など50冊がある。
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