プロフィール

クラシエ製薬株式会社
ヘルスケア事業部 マーケティング部 商品開発チーム
吉田桃子さま
奈良先端科学技術大学院大学を卒業後、クラシエ製薬株式会社※へ入社。入社4年目でマーケティング部の商品開発チームに配属され、店頭に置かれる商品開発に従事。アンケート調査なども行い消費者のニーズをとらえ、どんな商品が展開できるかを検討し企画開発、販売につなげるのが主な役割。
※クラシエ製薬株式会社…漢方薬を中心とした医薬品の企画・製造・販売
クラシエ薬品株式会社…医薬品、医薬部外品等の病医院、診療所および薬局・薬店への販売
ブランドリニューアルで漢方薬をより身近な存在に

―まずはクラシエ薬品の事業概要を教えてください。
クラシエの薬品事業は、医療機関向けの漢方薬を扱う「医薬事業部」とドラッグストア向けのOTCの漢方薬を扱う「ヘルスケア事業部」の2軸で構成されています。
そのうち、私がいるのはヘルスケア事業部です。
弊社では、多くの漢方のエキス抽出・製剤・包装までを自社工場で行います。
医療用とOTCの漢方薬は同じレベルの管理体制で製造しており、いずれも高い品質を保持するため、工場では各プロセスを厳密に管理しています。
クラシエ薬品が医療用とOTCの漢方薬をともに扱っている漢方のプロフェッショナルであることは多くの方に知ってもらいたいですね。
―2022年には、漢方事業ブランドである「クラシエの漢方」をリニューアルされているかと思います。その背景や目的を教えてください。
医薬事業部とヘルスケア事業部の連携を強め、「クラシエの漢方」として事業一体で漢方薬を通じた健康価値の提供を進めていくために行いました。
新しいブランドスローガン「日本を生きるあなたへ」には、日本の文化や生活習慣のなかで生きる一人ひとりの体質や暮らしに寄り添うという意味を込めています。
―現在は、全体で何種類くらいの漢方薬を扱っているのでしょうか。
日本では、中医学や日本漢方※の成書にある処方の中から抜き出された294処方が漢方薬として認められています。
クラシエ薬品ではそのうち100処方以上を取り扱っており、一般の方が選びやすい効能・処方を中心に、OTCとして販売しています(2022年9月時点)。
※中医学…中国の伝統医学
※日本漢方…中医学をもとにして日本の人や気候に合わせ、独自に発展させた伝統医学
―100処方以上もあるとは驚きです。
漢方の魅力は「病」ではなく「人」をみる医学であること

―吉田さんが考える漢方の魅力とはどういったところでしょうか。
「病」だけでなく「人」をみるところです。
西洋薬が明確な症状にダイレクトにアプローチするのに対して、漢方薬は原因がわからない症状についても体質に合わせた処方を行い、改善できる点が異なります。
そのため、原因がわかりにくい不定愁訴※に対処できるのも特長の一つでしょう。
※不定愁訴…「体力がなくなった」「頭が重い」「イライラする」「疲労感が取れない」「よく眠れない」など自覚症状はあるものの、検査しても原因の病気が見つからないもの
―季節の変わり目や気圧の変化などにより感じやすい症状ですね。
このほか、不調を感じていても医療機関にかかるほど症状が重くなかったり、症状が不安定で診察を受けたときには治まっていたりして、適切な対処ができないまま我慢してしまう人も多いのではないでしょうか。
漢方を用いることで、西洋薬で対処しきれない症状に対し、それとは異なるアプローチでの改善が期待できるのも魅力だと思います。

症状で選べる「漢方セラピー」は漢方薬の入門編?

―医師でも薬剤師でもない立場から、お客さまの体質やお悩みに合った商品をおすすめする難しさを感じて悩んでいる登録販売者は多いようです。吉田さんの視点からアドバイスをいただけますか。
OTCの場合は、症状を入り口として漢方薬を選んでいただくのが良いと思います。
市販の主要ブランド「漢方セラピー」は、まさに症状を見て薬を選べるよう、パッケージに症状を大きく打ち出した商品です。
症状についてはなるべくわかりやすい言葉を使うなど、よりその人に合った処方が選べるように工夫しているので、接客時にうまく役立てていただければと思います。
―たしかに、症状名が大きく書かれていて見やすいですね。
漢方セラピーは、漢方薬になじみのない方にも気軽に手に取っていただけるよう、わかりやすさと選びやすさをコンセプトに展開しています。
立ち上げ当初はお手軽感やライトな印象が強過ぎるといった社内の意見もありましたが、漢方の「難しいイメージ」を払拭するため、10年ほど試行錯誤を繰り返してきました。
コツコツと商品展開をすすめるなかで、身近な商品を扱うクラシエの企業イメージとの相乗効果もあり、近年では一般の方にも手に取りやすいものとして認知されるようになってきたと感じています。
―パッケージの箱の側面についているQRコードは何ですか。
そのQRコードをお客さまのスマートフォンで読み取っていただけば、その場で解説動画が見られるようになっているんです。
お客さまがQRコードに気がつかない場合もあるので、登録販売者の方が一声掛けてくださるだけでも、その方の薬選びにご協力いただけると思います。
―相談しにくいデリケートなお悩みで薬を探している方にご案内しても良さそうです。クラシエ薬品の商品は、薬の剤形も豊富ですね。
商品の選びやすさに加えて、服用性や携帯性へも配慮し剤形も取り揃えています。
錠剤はパウチタイプが多く、顆粒はスティック包装で持ち運びやすいのが特長です。
また、漢方セラピーは漢方の初心者向けのブランドなので、なるべく飲みやすい錠剤として販売できるように努めています。
―熱中症対策として発売されたゼリー剤などもありますよね。
別ブランドの「サマレスゼリー」ですね。
体内にこもった熱を取り除く「竹葉石膏湯(ちくようせっこうとう)」を、軽い熱中症に効果のある医薬品として発売しています。
―そもそもなぜゼリー剤を作ろうと考えたんですか。
必要となった時に水なしでもすぐに服用でき、嚥下しやすいのがゼリー剤の特長です。
熱中症は外出時などに急にかかってしまうことが多いため、この剤形を採用しました。
そのうえで、風味にこだわったゼリー剤の開発に力を入れていたという背景があります。
―味や口当たりへの強いこだわりは、食品も取り扱うクラシエグループならではと言えますね。漢方セラピーシリーズのなかでとくに力を入れている商品はありますか。
今はストレスによる精神・身体症状に対処できるような商品に注力しています。
近年、女性の社会進出やコロナ禍での急激な社会環境の変化によって、ストレスを抱える方が大きく増えている印象です。
―漢方薬のニーズが高まってきているわけですね。
お客さまにOTCの漢方薬をおすすめする際のポイントとは?

―登録販売者の方々は、漢方になじみのないお客さまに対応することも多くあります。そんなときの接客のポイントを教えてください。
漢方薬を「医薬品」と認識していないお客さまも意外と多いので、まずはそれをお伝えいただくのが重要だと考えています。
体質に合った処方を選んでいただければ医薬品として効果を実感いただける旨をお伝えください。
また、複数の症状に対して同時にアプローチできることを伝えても良いでしょう。
尿トラブルに使われることの多い「八味地黄丸(はちみじおうがん)」は夜間尿や頻尿だけでなく、腰痛や高齢者のかすみ目など、機能低下によって生じるさまざまな症状を改善する、などです。
―漢方薬を販売する際に伝えるべき注意事項はありますか。
漢方薬は西洋薬に比べて体に優しいイメージがあると思いますが、ご存じの通り「副作用がない」というのは真実ではありません。
1回の服用でも発疹や胃腸障害などの症状が出てしまうこともありますし、複数の漢方薬を同時に飲みたいというご相談を受けることもありますが、生薬が重複していると過剰摂取になり、副作用がでてしまうケースがあることはお伝えいただきたいですね。
とくに甘草(かんぞう)、大黄(だいおう)、麻黄(まおう)、附子(ぶし)などは、一日量が多くならないよう注意が必要な生薬です。
過去に報告のあった副作用は、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)のサイトなどで調べられますよ。
―また、登録販売者の方がご自身で飲んだことがない漢方をすすめる場面も多いので、実際どうなのか判断が難しいこともあると思うのですが。
クラシエ薬品からご提供しているカウンセリングブックやホームページの体質診断コンテンツ「からだかがみ」を活用して、できるだけ体質に合った処方をおすすめいただければと思います。
漢方セラピーは1週間前後のサイズから販売しているので、まずは試しに1週間飲んでみて、体調の変化を見てもらうと良いのではないでしょうか。
大きいサイズはお得な価格設定なので、リピーターの方にはこちらをおすすめください。
―少量からなら始めやすいですね。また、返答が難しいような質問を受けた場合には、どう対処すれば良いでしょうか。
まずは、弊社のお客様相談窓口に問い合わせるか、ホームページのQ&Aを参考になさってください。
また、クラシエ薬品の営業担当も情報提供に努めていますので、お問い合わせいただけると良いと思います。
漢方の知識を接客に活かすには、まず「基本」を押さえる

―登録販売者の方が、漢方薬についてまず知っておくべきことや覚え方のコツを教えてください。
まずは、漢方での人体の捉え方などの基本的な概念を理解すると良いと思います。
基本がわかっていれば、効能の意味合いがわかるようになります。
西洋医学的にはつながりが見えにくい組み合わせの効能でも、漢方理論がわかれば全身がどのような状態なのかを把握でき、「体ってこういう風にバランスを取っているから、ここが治るんだな」とイメージできるようになるわけです。
また、漢方薬の覚え方にもコツがあります。
たとえば「半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)」は「半夏(はんげ)」と「厚朴(こうぼく)」が入った「湯剤」という意味で、一見難しそうに見えますが、実は生薬名が並んでいるだけなんですね。
このように処方名に構成生薬の一部が使われているものも多いので、知っておくと覚えやすくなると思います。
―見慣れない漢字の並びが難しく覚えにくいと感じていましたが、そのように考えたら良いんですね、参考になります!
登録販売者や薬剤師の方向けに、カウンセリングブックもご用意しています。
これを見れば、接客をしながらお客さまがお悩みの症状に対応する漢方薬を確認できますよ。
ドラッグストアの店舗向けに開催しているWEB講座なども、ぜひ活用してみてください。
また、店舗にお伺いしている弊社の営業担当も情報提供に努めておりますので、頼っていただければと思います。
こうして製品だけでなく、漢方についての知識も提供できるのがクラシエ薬品の強みだと思います。
商品を届ける登録販売者は心強いパートナー

―クラシエ薬品の今後の展開についても教えていただけますか。
社会や環境の変化に伴い多様化する個人の悩みに対し、きめ細やかに対応できる商品展開を意識して開発に取り組んでいく予定です。
とくに選択肢の多い漢方セラピーのようなブランドで注力していきたいですね。
―では、漢方の未来において、登録販売者にはどんな関わり方ができるでしょうか。
情報提供や指導の部分でご協力いただくことが、重要だと思っています。
メーカーがどんなにこだわって漢方薬を作っても、販売時に正しい情報がお客さまに伝わらなければ商品として十分ではありません。
とくに相談して漢方薬を買いたい人も多いと思うので、頼れる登録販売者の方が店頭にいるのは心強いことですね。
―では最後に、登録販売者の方々へ一言いただけますか。
私は、調達、製造、販売までの過程や商品の情報提供も含めて「商品」だと考えています。
そのため、お客さまと直接つながる登録販売者の方々は、私たちメーカーにとっても必要な存在です。
ぜひ登録販売者の皆さまにも漢方や漢方薬を好きになっていただいて、お客さま自身が気づいていなかった悩みを引き出し、一緒に解決していけるパートナーとしてお仕事できればと考えています。
これからもどうぞよろしくお願いします!

