著名人コラム
2022-05-06
【店舗運営のプロに聞く】女性部下のマネジメントはどうする?店長が知っておきたい5つのポイントを解説<プロに学ぶ登録販売者のマネジメント論>
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私(執筆者:前川孝雄さん)が営む株式会社FeelWorksでは、十数年にわたり日本におけるダイバーシティ・マネジメント(性別、年齢、雇用形態など多様な人材を大切に育て活かすマネジメント)の普及を目指し、独自に開発した「上司力®研修」シリーズや育成風土作り通して、大企業を中心に400社以上の支援をしてきました。 2015年、「女性活躍推進法」が成立したのをきっかけに、出産や育児と並行して働く女性は大きく増えています。一方、多くの業種や職種で、女性の管理職登用はまだ道半ばです。マネジメント層の大半を男性が占める状況のなか、ドラッグストアでも女性部下のマネジメントに困難を感じている店長は多いのではないでしょうか。 そこで本記事では、女性スタッフが多く働くドラッグストアでぜひ活用してほしい、女性部下のマネジメントにおける「5つのポイント」を紹介します。店長の皆さんは、ぜひ自身の日々の行動と照らし合わせながら読んでみてください。
《ポイント1》開口一番の否定語禁止!
管理職の皆さんからは、「女性部下は不満を口にするものの、なかなか建設的な意見を言ってくれない」「ミーティングや朝礼・夕礼などでは発言が少なく、消極的」との悩みをよく聞きます。
しかし、部下の発言が少ないのは、上司が無意識のうちに「意見が言えない」雰囲気を作り上げている場合が多いものです。
えてして上司は、自分と異なる意見を述べた部下に対し、否定語から入ってしまいがち。
職責意識が高い真面目な上司ほど、否定語で自分の意見を明確にしようとするのです。
上司がA案でいこうと考えているところに部下が「B案の方が良いですよ」と述べると、「B案は違うだろう」と即答してしまいます。
日々忙しい現場で、効率性を考えて成果を出そうと思えばこそかもしれません。しかし、これでは部下も「どうせ否定される」と委縮して発言を控えるようになります。
とくに女性のなかには繊細な人もいます。結果、会議などの公の場で誰も意見を語らない職場になってしまうのです。
部下に臆せず意見を出してもらうには、反対意見にもまずは耳を傾けることです。そのうえで、「主語」を用いて問いかけましょう。
「あなたはB案がいいと思うんだね。僕はA案がいいと思うけれど、B案がいい理由を教えてくれるかな」と尋ねます。
そして、相手の意見を聴いたうえで、両案のメリットとデメリットを出し合って、折衷案を相談しましょう。
上司と部下の関係をぎくしゃくさせず、納得して話し合うことです。開口一番の否定語はぐっとこらえ、相手の気持ちを尊重した対話の姿勢を意識しましょう。
《ポイント2》アドバイスより、まず共感
問題解決型コミュニケーションに慣れている男性管理職は、問題や壁に直面している部下がいると、解決策を懸命に見つけようとします。
しかし女性部下は、問題の解決より今の自分の状況や気持ちを誰かと共有したい場合が多いようです。
象徴的なエピソードをご紹介しましょう。
部下思いの上司が、キャリアアップや働き方に悩む女性部下に相談され、勇んで対応しました。
上司はステップアップのためには何が大切か、それが将来いかに役立つか、自分の経験を交え熱心に語りました。
しかし、女性部下は上司が一生懸命になればなるほど引いてしまったそうです。
その理由を本人に聞くと、彼女は「ただ、今のこのモヤモヤした気持ちを聴いてほしかっただけで、アドバイスは要らないんです。解決策は言われなくてもわかっていますから」と言うのです。
熱心な上司ほど、部下に良かれと思って知恵を与えようとします。その結果、相手の話をよく聴かず、自分の意見を押し付けてしまいがちなのです。
悩む女性部下には、アドバイスよりまず親身に話を聴き、共感的にとらえることです。
共感とは「それは正しい」と同意することではなく、気持ちで寄り添うこと。
部下が思いや気持ちをすべて吐き出すまでじっと傾聴し、「そうか、〇〇さんは△△に不安を感じているんだね」と、しっかり聴いていることを伝えます。
女性部下が避けていた自分のなかの課題に気づき、向き合い、自律的に解決していくことが第一なのです。

《ポイント3》他人ごとより自分ごとコミュニケーション
部下が仕事で成果をあげたときの、「良かったね」の声かけ。また部下が落ち込んでいるときの、「大変なようだね」との励まし。
なんの変哲もない言葉ですが、これは「他人ごとコミュニケーション」です。
一方、「よかった。私も嬉しいよ」と一緒になって喜び、「本当に大変だった、私も悔しいよ」と一緒になって落ち込むのが、「自分ごとコミュニケーション」。
共感を求める部下にとって大切なのは、後者です。
部下は自分の感情と上司の感情がシンクロすることで、上司が自分と同じ目線に立ってくれたと感じます。
上司は部下を評価する立場にあるため、上から目線で接する癖がつきがちです。
無意識のうちに他人事コミュニケーションが身についているかもしれないので、自分の話し方を振り返ってみましょう。
「とはいえ、性別も年齢も経験も違う人を、どう自分ごとにとらえるのか」とよく聞かれます。
たとえば、「部下があなたの娘、妹、姉だったなら、果たして今と同じ評価や声かけをするだろうか?」と自分に問うてみてはどうでしょうか。
ハッと気づく人もいるはずです。つまり、女性部下を大切な人ではなく、組織のパーツと見ていないかです。
自分ごとコミュニケーションは部下のためですが、上司自身の成長にも役立ちます。
自分と価値観が異なる相手と自分ごとで対話しようとすれば、相手の気持ちや立場に配慮する姿勢が身につきます。
それは、ビジネスでも人生においても、人間関係を円滑に豊かにするものです。
《ポイント4》なんとなく日常を褒めるより、ここ一番のひと言
昨今は、部下を褒めて育てる風潮が浸透してきました。
一方で、「日々のルーティン業務を任せている女性部下にはあまり褒めるポイントがなく、困っています」と嘆く声も聴きます。
褒めることは部下のマネジメントにとってプラスが多いものの、無理な褒め言葉を繰り返すのはNGです。
女性は感性が鋭い人も多く、「心がこもっていない」「口先だけで取り繕っている」と感づかれてしまいます。
女性部下を褒めるなら、「ここ一番」での心のこもった一言が響きます。
接客で喜ばれたときや、高い目標を達成したとき、同僚メンバーを助け感謝されたときなど。「自分でもよくやった!」と思えるタイミングを逃さず褒めるのです。
そのためには、日頃から部下一人ひとりの仕事ぶりをよく見守ることが必要です。
「ここ一番」を見抜く自信がないなら、日頃の些細なエピソードを記録しておきましょう。「1日一つ、部下の良いところを見つけよう」と決め、しばらく続けます。
「さりげない気配りに感心した」「誰も気づかない仕事を率先してやってくれて助かった」など、ちょっとした出来事を集めておき、朝礼や昼礼などで発表するのです。
本人は上司が「見てくれている」と感じ、ほかのスタッフにも良い影響を与えます。業績や目標の話で叱咤激励するより職場の雰囲気も良くなり、一石二鳥です。
《ポイント5》「あなただから」で頑張りを応援
年配の男性管理職のなかには、「仕事は成すべき義務」ととらえ、「目標達成を続ければ、さらに昇進して給料も上がる」と考えることが、働く動機になっている人もいるかもしれません。
しかし、女性は社内での昇進に魅力を感じていない場合も多いのではないでしょうか。扶養控除の範囲内でそこそこ働ければいいと公言する人もいることでしょう。
では、何が動機付けになるかというと、「あなただからこそ、この仕事を任せている」という「あなただから感」です。
人は誰しも「自分らしさで誰かに必要とされていたい」という承認欲求が根底にあります。反対に「誰にでもできる仕事を任せている」と上司が考えている限り、モチベーションは高まりません。
「この仕事で、あなたの〇〇の強みをぜひ発揮してほしい」と話して、仕事を任せることが大切です。
「あなたならでは」による動機づけは、仕事の分担のときだけでなく、仕事につまづいたときや、さらに頑張ってほしいときなどにも有効です。
自信がなさそうなら「あなたの〇〇の力なら、きっと乗り越えられるよ」と励まし、成果が出たときには「やっぱり、あなたの〇〇が素晴らしかった」とさらに背中を押しましょう。
本人の承認欲求を満たすことで、「この職場で働けてよかった。また頑張ろう」と思えるようにするのです。
誰もが働きがいをもてる職場づくりを
すでにお気づきの方もいると思いますが、述べてきたマネジメントのポイントは、実は女性だけに有効なものではありません。
女性の特徴に配慮したマネジメントは大切ですが、多様な部下一人ひとりをしっかり見つめて持ち味を活かすマネジメントは、これから必須の「上司力」です。
そもそも、企業に求められるD&I (ダイバーシティ・アンド・インクルージョン―多様なメンバー一人ひとりの尊重と包含)とは、性別、年齢、経験や雇用形態などにかかわらず、全員が働きがいをもてる職場作りです。
皆さんも、「女性だから」「パート社員だから」といった枠を超えて、部下の誰もが能力を発揮し、活き活きと働けるマネジメントに取り組んでください。
【執筆者プロフィール】
執筆者:前川孝雄(まえかわ・たかお)さん
株式会社FeelWorks代表取締役/青山学院大学兼任講師/情報経営イノベーション専門職大学客員教授
『日本の上司を元気にする』をビジョンに掲げる管理職・リーダー育成・研修企業(株)FeelWorks創業者であり、人を育て活かす「上司力®」提唱の第一人者。兵庫県明石市生まれ。大阪府立大学、早稲田大学ビジネススクール卒業。リクルートで「リクナビ」「ケイコとマナブ」「就職ジャーナル」などの編集長を経て2008年に「人を大切に育て活かす社会づくりへの貢献」を志に起業。独自開発した「上司力®研修」「50代からの働き方研修」、eラーニング「新入社員のはたらく心得」「パワハラ予防講座」などで400社以上を支援している。2011年から青山学院大学兼任講師。2017年に(株)働きがい創造研究所設立。情報経営イノベーション専門職大学客員教授、一般社団法人企業研究会 研究協力委員、一般社団法人ウーマンエンパワー協会 理事なども兼職。連載やコメンテーター、講演活動も多数。
『もう、転職はさせない!一生働きたい職場のつくり方』(実業之日本社)
『この1冊でポイントがわかる ダイバーシティの教科書』(総合法令出版)
など著書は30冊以上。
※「上司力」は株式会社FeelWorksの登録商標です

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