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2021-09-10
【登録販売者向け】適切な受診勧奨の方法とは?
・Before
・After
「市販薬で対応できるか、受診してもらうべきかの線引きがわからない」「受診勧奨をするとき、どのように伝えたらいいのかわからない」 受診勧奨について、このような悩みをもつ登録販売者は少なくありません。接客をしながら「市販薬を販売して大丈夫かな?」と思う場面は度々あるでしょう。そこで今回は、受診勧奨をすべきか見極めるポイントや注意点、どう対応するべきか具体的にご紹介します。
受診勧奨は登録販売者の重要な役割
厚生労働省の調査によると、2018年の国民医療費は43兆3,949億円で、前年度比0.9%の増加となっています。
これを1人あたりに換算すると34万3,200円で、こちらも前年度比1%増加しています。
少子高齢化の影響などで国民医療費は年々増加しているなか、総人口は減少を続けており、1人あたりの医療費負担は今後さらに増加していく見込みです。
このような状況を改善するため、国をあげてセルフメディケーションが推奨されています。
軽度な体調不良を自分でケアすると、数兆円もの医療費を削減できると言われているためです。
市販薬の販売に関わる登録販売者は、セルフメディケーションを推進していくうえで、重要な役割を果たしています。
ただし、どのような症状でも市販薬で対応して良いわけではありません。
必要に応じて受診勧奨をしなければお客さまの健康を損ねてしまう可能性があります。
適切な市販薬の販売だけでなく、重大な疾患の初期症状を見逃さず医療機関で治療を始めてもらうように促すのも登録販売者の重要な役割です。
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受診勧奨すべき?見極めるための確認ポイント
登録販売者は市販薬を販売するプロではありますが、医師のような診断はできません。
そのため「これは市販薬で対応できる?それとも病院へ行ってもらうべき?」と悩んでしまう場合があるでしょう。
そのようなときは、次に紹介する4つのポイントを参考に受診勧奨すべきか判断してみてください。
①お客さまの様子
まずはお客さまの様子をじっくりと見てみましょう。
受診勧奨すべきかを判断するためにいきなり質問攻めしてしまうとお客さまの不安を煽る可能性があるので、最初は見た目から分かる情報を集めます。
たとえば以下のような症状が見られたら要注意です。
・ぐったりしていないか
・足に力が入らずふらついていないか
・会話ができないほど症状が酷そうではないか
上記に該当する症状が見られた場合は、早めに医療機関を受診するよう伝えましょう。
まれに自力で医療機関に行けないほど症状が出ているお客さまも来られるので、そのような場合は一言断りを入れて救急車を呼んでください。
もしも救急車を呼ぶべきか迷うお客さまが来られた場合は、医師、看護師などの専門家からアドバイスを受けられる救急安心センター事業(♯7119)に電話をして、判断を仰ぐのもよいでしょう。
②症状が続く期間
症状が1週間以上続いている場合や、頻繁によくなったり悪化したりを繰り返している場合は医療機関を受診してもらうよう伝えます。
市販薬で対応できるのは長くても1週間程度で症状が治る軽微なもの、もしくは花粉症や軽い頭痛のようにしばしば症状は出ますが日常生活に支障がないものです。
それ以外に該当すると判断できる場合は受診勧奨をしてください。
「受診すると市販薬よりも症状をコントロールしやすい治療薬を貰える可能性がある」「1週間以上続く症状は市販薬では対応が難しい」などと伝えてみるとよいでしょう。
ここで注意したいのは生理痛が重いと相談に来られるお客さまです。
生理痛は生理が来るたびに繰り返し症状が出るものですが、「いつもの症状だから」と鎮痛剤を飲むだけで済ましている場合が多くあります。
気づかないうちに子宮内膜症や子宮筋腫を患っている場合もあるので、鎮痛剤を飲んでも寝込んでしまうような方には婦人科を受診するよう伝えてください。
③症状の強さ
たとえば以下のような症状が出ている場合は、重大な疾患が隠れている可能性があります。
・市販薬を飲んでも効果を感じられない
・日常生活に支障が出るほど強い症状が出ている
「バットで打たれたような痛み」ならくも膜下出血、意識を失うほどの頭痛に嘔吐や高熱があれば細菌性髄膜炎など、様々な可能性が考えられるでしょう。
くも膜下出血の死亡率は30%、細菌性髄膜炎の死亡率は10~30%です。
このような症状がある方はそもそも症状が出た時点で救急車を呼ばれていることがほとんどなので、ドラッグストアでの対応はほとんどありませんが、もし来店された場合はすぐに受診勧奨を行いましょう。
④随伴症状の有無
随伴症状とは、ある疾患に伴って起こるほかの症状です。
随伴症状の有無によって市販薬で対応できるかの判断が分かれる場合があるため「ほかに症状はありますか?」とお客さまに確認するようにしましょう。
頭痛や嘔吐、めまいがある場合は髄膜炎、関節痛や患部の腫れがある場合はリウマチ、悪心や下痢がある場合は炎症性の腸疾患などが考えられます。
どのような随伴症状が出ているのかしっかりとチェックし、市販薬で対応できない疾患が隠れていないか確認することが大切です。

受診勧奨の注意点
受診勧奨は登録販売者の大切な仕事ですが、注意しなければならないポイントもいくつかあります。
伝え方によっては医師法に違反してしまう可能性もあるので、しっかりとおさえておきましょう。
①診断行為を行わない
症状から疾患名を特定する診断行為は、医師にのみ許された行為です。
お客さまの症状をヒアリングしていると、具体的な病名が思い浮かぶ場合もあるでしょう。
しかし病名を伝えると診断行為とみなされるため、お客さまに伝えてはいけません。
「もしかしたら治療が必要な病気が隠れている可能性がある」「○○科を受診したほうがいいかもしれません」のようなアドバイスをするだけにとどめておきましょう。
ただし、お客さまを無闇に不安にさせない伝え方をする意識が大切です。
②受診勧奨すべき理由は具体的に伝える
「病院に行ったほうがいいかもしれません」だけ言われるとお客さまは「なんで?」「せっかく来たのに相談に乗ってくれないの?」と思ってしまいます。
そのため受診が必要だと感じた場合は、なぜ医療機関に行くべきなのかまできちんと説明しましょう。
「市販薬を1週間ほど使っても改善しないときは、市販薬だけでは対応できない可能性があります。念のため病院を受診してみてください。」
「市販薬では症状を軽くすることしかできません。病院を受診したほうが、もっと多くの選択肢があります。」
といったように、受診すべき理由を添えてお伝えするとよいでしょう。
【対応例】頭痛で来店されたお客さまの場合
頭痛にお悩みのお客さまは珍しくありません。しかし、頭痛がある方には深刻な疾患が潜んでいる可能性があります。珍しくない症状こそ、対応には注意が必要です。
一次性頭痛
一次性頭痛とは片頭痛や緊張型頭痛、群発頭痛など頭痛そのものが病気であるものです。「頭痛もちの頭痛」といわれています。
一次性頭痛は症状に応じて受診勧奨をしましょう。
片頭痛は神経の周りにある血管の拡張で起こると考えられています。市販の頭痛薬で治る方もいれば、飲んでもあまり変わらないという方もいるでしょう。
片頭痛の治療にはトリプタン系という市販にはないタイプの医薬品がよく使われています。頭痛薬が効かない方でも効果を発揮しやすい点が特徴です。
市販薬で効果がないと言われる方には受診勧奨をしてみてください。
緊張型頭痛は首や背中などの筋肉の緊張で起こる頭痛を指します。治療薬としてはイブプロフェンやロキソプロフェンなどの非ステロイド性消炎鎮痛薬が有効です。
群発頭痛は別名、自殺頭痛とも呼ばれており、目の奥がえぐられたような激しい痛みを伴います。眼の充血や鼻づまりの症状も同時に出ることが特徴です。
治療方法としてはトリプタン系の薬の服用や酸素の吸入が有効だと言われています。群発頭痛が疑われる方には受診勧奨をしてください。
二次性頭痛
二次性頭痛はくも膜下出血や脳出血、脳腫瘍など原因が特定できる頭痛です。
疾患があるために発症する頭痛を指します。二次性頭痛は基本的に市販薬では対応できません。
・発熱や嘔吐を伴っている
・言語障害や意識障害がある
このような場合は二次性頭痛が疑われるので、早急に医療機関を受診するように伝えてください。対応が遅れると命に関わるかもしれません。

お客さまの様子を見極め、適切な受診勧奨を
お客さまの様子や症状の強さ、随伴症状などを見て受診勧奨をすべきか判断しましょう。
1週間以上も症状が続いている方や市販薬で効果がなかった方、症状が非常に強く出ている方には受診をすすめます。
ただし医師法に抵触するため、受診勧奨をするときに疾患名を伝えないよう注意が必要です。
お客さまを不安にさせないよう、医療機関を受診したほうがいい理由は必ず伝えてください。
もしも救急車を呼ぶべきか迷うお客さまが来られた場合は、専門家からアドバイスを受けられる救急安心センター事業(♯7119)に電話をして判断を仰ぐのもよいでしょう。
登録販売者はセルフメディケーションの推進はもちろん、重大な疾患を見逃さず治療を促すことも任務の1つです。
お客さまの健康を守るためにもしっかりと相談に乗りながら受診してもらうべきか判断できるようになりましょう。

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