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2021-08-05
セルフメディケーション税制とは?登録販売者への影響と求められる役割
・Before
・After
超高齢化社会を目前に控え、注目される「セルフメディケーション」。ドラッグストアをはじめ、スーパーやコンビニ、家電量販店など様々な場所で一般用医薬品が手に入るようになり、登録販売者の果たすべき役割は大きくなってきています。 今回の記事では、セルフメディケーションの定義についてや、お客さまからも質問されることの多い「セルフメディケーション税制」の仕組みと手続き方法などについて解説します。お客さまに近い場所にいる登録販売者が、今後どのような役割を担っていくべきかどうかも確認しておきましょう。
公開日:2020年7月17日
更新日:2021年8月5日
セルフメディケーションとは?
セルフメディケーションとは、「自分自身の健康に責任を持ち、軽度な身体の不調は自分で手当てすること」と世界保健機構(WHO)により定義されています。
たとえば、軽い風邪をひいたときにすぐ病院に行くのではなく、できるだけ市販薬などを利用して治したり、サプリメントや健康食品等で予防に努めたりするのもセルフメディケーションの取り組みです。
日本の国民医療費は、高齢化や医療技術の高度化にともなう研究費増などによって年々増加傾向にあります。医療費が増大すれば、国の財政圧迫、国民の保険料負担の増大など、わたしたちにとっても無視できない問題が起こり得ます。
こうした背景から、平成29年にセルフメディケーションを推進するための制度として「セルフメディケーション税制(医療費控除の特例)」が新設されました。セルフメディケーションを推進することで、医療費の適正化だけでなく、国民の自発的な健康管理や疫病予防への取り組みにもつなげる狙いがあります。
▽参考
厚生労働省広報誌「厚生労働」ニュース&インフォメーション
セルフメディケーション税制を知っていますか!? ~平成29年1月から特定の医薬品購入に対する新しい税制が始まります~
「セルフメディケーション税制」とは?
セルフメディケーションの推進を目的に平成29年1月1日からはじまった「セルフメディケーション税制」は、スイッチOTC医薬品(医療用から転用された医療品)を購入した際に、一定の条件のもとで購入費用の所得控除を受けられる制度です。
令和3年(2021年)2月3日に行われた「第1回セルフメディケーション推進に関する有識者検討会」では、適用期間が延長され2026年12月31日までとなりました。
セルフメディケーション税制において覚えておくべきポイントは、すべてのOTC医薬品が該当するわけではなく、決められた品目を購入した金額が一定水準を超えた場合に適用されるということ。
この制度を活用するためにはいくつかの条件が必要となるため、登録販売者として対象品目かどうかの判断はもちろんのこと、お客さまに聞かれた際に説明できるようにしておきましょう。
Q1. 利用できる対象者とは?
セルフメディケーション税制で所得控除を受けるためには、一定の条件が揃ったうえで確定申告をしなくてはいけません。
まずは、確定申告をする方が以下の定期健康診断のいずれかを受けていることが必須となります。
(例) ※上記の領収書又は結果通知表を保存しておく必要がある |
上記を満たしたうえで、確定申告を行う本人またはその家族が購入した対象のOTC医薬品が年間(申告する1月から12月までの期間)で12,000円を超えた場合(上限88,000円)に所得控除を受けることが可能です。
また、以下の2点も対象となるかどうかの判断ポイントになるので覚えておきましょう。
※所得税・住民税を納めている ※受診、処方薬に係る医療費控除を申告していない |
Q2. 対象のOTC医薬品は?
セルフメディケーション税制において、もっともわかりにくいのが対象品目。一般のお客さまのなかには、「すべてのOTC医薬品が対象になる」と思っている方も少なからずいるでしょう。
令和3年7月7日時点では、87成分(2,460品目)のスイッチOTC医薬品が対象となっています。OTC医薬品を見てみると、「セルフメディケーション税控除対象」と書かれている商品を見かけることがあるはずです。
さらに、対象商品にはレシートにセルフメディケーション税控除対象である旨が印字されます。
▲共通識別マーク
スイッチOTCとは病院からの処方箋が必要な医療用医薬品と同じ成分を市販薬に用いたもので、厚生労働省より「スイッチOTC医薬品有効成分リスト」が発表されています。
これに収載された成分を配合した医薬品だけがセルフメディケーション税制対象商品として認められています。
風邪薬、胃腸薬、鼻炎用内服薬、水虫・たむし用薬、肩こり・腰痛・関節痛の貼付薬が主な対象品目になりますが、すべての製品が該当するわけではありません。
また、第1類医薬品に限らず第2類医薬品などにも該当商品は含まれます。マークがついていなくても対象商品に当てはまる場合もあるので、わからない場合は厚生労働省のホームページで確認しましょう。
なお、前述の「第1回セルフメディケーション推進に関する有識者検討会」において、対象医薬品について見直しが行われる旨が発表されました。
具体的には、現在対象となっているスイッチOTCから、医療費適正効果が低いと認められるものについては5年未満の経過措置を設けたうえで除外。
一方で、スイッチOTC以外の一般用医薬品などで、医療費削減効果が著しく高いと認められるものを対象に加えるとされています。
具体的な対象医薬品や見直しによる効果検証は今後行われる予定ですが、対象医薬品の入れ替わりが発生する可能性が高いため注視しておきましょう。
Q3. 計算方法は?
次に計算方法について確認しておきましょう。年収400万円で所得税率20%、住民税率10%のAさんが、年間30,000円分のOTC医薬品を購入した場合を想定します。
この場合、年間30,000円分の購入費から自己負担額12,000円を引いた差額(=18,000円)が控除の対象となります。
30,000円-12,000円=18,000円が課税金額から控除されます。 ■所得税率20% ■住民税率10% |
つまり、合計3,600円+1,800円=5,400円の減税が得られることになります。
Q4. 申告方法は?
申告にあたっては以下の書類が必要です。
(1) 対象となるOTC医薬品を購入した際の領収書 (2) 定期健康診断等を受けたことを証明する書類(結果通知表、領収書等) |
以上をもとに、セルフメディケーション税制の明細書を作成することになります。国税庁ホームページの「確定申告書等作成コーナー」を利用すると、簡単に自宅のパソコンで申告書を作成できます。
領収書について、提出義務はありませんが、万が一提示を求められた場合に備えて5年間は保管しておくべきとされています。
注)確定申告のときに、従来どおりの医療費控除またはセルフメディケーション税制を利用することができます。
セルフメディケーション税制を利用すると従来の医療費控除は受けられなくなるため、両方とも基準以上に達している場合はどちらの減税額が多くなるかを比較すると良いでしょう。
▼参考
厚生労働省『セルフメディケーション税制の見直しについて』
セルフメディケーションで登録販売者に求められる役割
セルフメディケーションが進めば、ますます登録販売者の役割は大きくなっていくでしょう。
セルフメディケーション税制の制度内容について知っておくことはもちろん、お客さまがセルフメディケーションを適切に行えるサポート体制を築いていくことが大切です。
ここでは登録販売者に求められる役割について具体的に解説していきます。
お客さまが相談しやすい環境をつくる
お客さま自身が健康管理を行なっていくためには、正しい知識を身につけることが必要です。
間違った知識から健康を損なうことがないよう、登録販売者が的確にアドバイスをして、セルフメディケーションの全般的なサポートをしていなければなりません。
お客さまが声をかけてきた場合に限らず、困った様子の方がいれば積極的に相談にのりましょう。
医薬品の使用に関しては専門的な知識が必要であり、お客さま自身で判断するのは簡単ではありません。気軽に相談しやすい環境を整えておくことが大切です。
OTC医薬品の適正使用のサポート
自分の判断で購入できるOTC医薬品ですが、市販薬だからといって安全なわけではありません。
正しく使用しなければ思わぬ副作用などで健康被害につながる可能性もあります。
薬剤師による販売が必須である第1類医薬品だけでなく、お客さまが自己判断で購入できる第2類医薬品以下の医薬品・医薬部外品についても情報提供を行っていく必要があります。
お客さまが間違って購入することのないよう、わかりやすい陳列や適正使用を促すためのPOPやポスターの活用なども方法のひとつです。
お客さまの健康維持のサポート
セルフメディケーションの実現には、薬を使うことだけではなく、食事面の改善や運動指導など適切な生活習慣改善も欠かせない要素です。
医薬品の使用ではなく、毎日の食事指導や生活指導の方を優先すべきケースもあります。
お客さまとの対話を通じて、今の状態を正しく見極めて適切なアドバイスができる知識とスキルを養いましょう。
適切な受診勧奨
OTC医薬品の販売にあたっては、適切な受診勧奨を行えるかどうかが非常に重要です。
たとえば胃の痛みであっても、何度も来店されるようであれば受診勧奨を行いましょう。
そうした行動が、胃癌や胃潰瘍などの早期発見につながる場合もあります。
漫然と薬を販売するのではなく、お客さまにとって不利益とならないかどうかを見極めることが大切です。
店舗勤務にとどまらない登録販売者の活躍
登録販売者はドラッグストアや薬局に勤務する販売員というイメージがありましたが、最近ではケアマネージャーや介護福祉士などの介護業界の人も登録販売者資格を取得する動きが増えています。
介護する高齢者はたくさんの医薬品を服用していることが多く、飲み合わせのチェックなど市販薬やサプリメントについての知識が現場で役立ちます。
今後、ますます高齢化が進んでいくため、登録販売者の活躍の場は介護業界などをはじめ、様々な業界へ広がっていくことが予想されます。



お客さまにとって登録販売者は身近な薬の専門家
今回は、セルフメディケーション税制の解説や、制度にともなう登録販売者の役割について説明しました。
今後はますます規制が緩和され、多種多様なOTC医薬品が登場することが見込まれます。
セルフメディケーションは、病院にかからなくてもセルフケアで対処できるため、非常にスピーディーで便利な方法です。
最近では感染症対策の一環としてもセルフメディケーションが良しとされ、需要も確実に高まっているなかで、薬はお客さまにとって安心・安全なものでなくてはなりません。
登録販売者は「まちの相談窓口」という責務を担う存在であり、毎日の業務で経験を積み重ねていくことが大切です。
セルフメディケーションの発展には登録販売者の協力が不可欠。知識と経験を身につけ、お客さまの「健康維持」をサポートする登録販売者を目指しましょう。

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