現場で役立つ知識
2023-07-21
<登録販売者向け>貧血対策の市販薬・鉄剤をお求めのお客さまへの対応【薬剤師に学ぶ医薬品知識】
・Before
・After
「貧血」は女性に多く見られる症状です。日本人女性の約40%、月経のある20~40代の女性の約65%が貧血もしくは、貧血予備軍である「かくれ貧血(潜在性鉄欠乏)」だと言われています。貧血にはいくつか種類があり、なかでもよく見られるのが「鉄欠乏性貧血」です。鉄欠乏性貧血は、鉄分が不足することで血液中のヘモグロビンの量が減り、体内に酸素を運搬しづらくなった状態を指します。
貧血の種類とは?
貧血と言えば「鉄分不足」が原因となる貧血を想像される方が多いかと思いますが、ほかにも多くの種類があります。
代表的な貧血の種類は、以下の通りです。
貧血の種類 | 機序・特徴 |
---|---|
鉄欠乏性貧血 | 鉄分の不足によって起こるもの。 |
再生不良性貧血 | 骨髄の機能が低下することで、赤血球が十分に作られなくなったもの。 |
悪性貧血 | 葉酸やビタミンB12が欠乏することで、赤血球が十分に作られなくなったもの。 |
溶血性貧血 | 赤血球が通常の寿命である120日より早く壊れて起こるもの。 |
腎性貧血 | 腎臓から分泌されるエリスロポエチンという造血因子が低下することで起こるもの。 |
二次性貧血 | 腎不全や慢性感染症、膠原病や悪性腫瘍などほかの疾患や症状を要因として二次的に貧血が起こるもの。 |
このほか、女性では、ホルモンバランスの乱れによって貧血が起こっている可能性もあります。
この場合、鉄剤ではなく漢方薬が有効なケースもあるため、来店したお客さまの貧血の原因をしっかりヒアリングして対応することが大切です。
▼参考サイトはコチラ
一般社団法人愛知県薬剤師会「7.貧血(鉄欠乏性貧血)』
貧血に使える市販薬・サプリメント
貧血を改善する市販薬には、大きく分けて「鉄剤」と「漢方薬」の2種類があります。
薬を使うことに抵抗がある方には、「サプリメント」を紹介するのもよいでしょう。
市販の鉄剤
鉄剤とは、効率よく鉄分を摂取できるように作られた鉄欠乏性貧血の治療薬のことです。
さまざまな種類の貧血のうち、鉄剤は鉄分の不足によって貧血が起きている方に向いています。
鉄剤の種類によっては吸収率が高くないものもあるので、選ぶ際には注意しましょう。
鉄分をしっかりと補充したい方は、吸収率が高い溶性ピロリン酸第二鉄やフマル酸第一鉄などが配合されているものがおすすめです。
また、吐き気を出にくくするために成分が腸で溶けるよう錠剤をコーティングしているものや、吸収率を高めるビタミンCが一緒に配合されているものを選ぶのもよいでしょう。
漢方薬
ホルモンバランスの乱れが原因で貧血になっている方や、食欲がなく体力が低下している方には、漢方薬が向いています。
貧血に使われる漢方薬としては、次のものが代表的です。
・加味帰脾湯(かみきひとう)
加味帰脾湯は、血を補ったり気の巡りを良くしたりする漢方薬です。
血色が悪く、貧血気味の方によく用いられます。
胃腸の働きを整える効果もあるため、食事が摂れず貧血症状が出ている方にもおすすめです。
体力が中等度以下の方に適しています。
・人参養栄湯(にんじんようえいとう)
人参養栄湯は、消化器の働きを良くして栄養を吸収しやすい状態にする漢方薬です。
気と血の両方を補うことで、食欲不振や疲労感を改善します。
体力が落ちており、食事がなかなか摂れない方向けです。
・当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)
女性の不調に使われることが多い漢方薬として知られています。
血を巡らせて水分代謝を整えることで、全身に栄養素を行き渡らせ、血流を改善します。
貧血があり冷えやすく、疲れやすい方にぴったりです。
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知っておきたい漢方薬・生薬の基礎知識<登録販売者向け>
サプリメント
鉄分をサプリメントで補う方法もあります。
食事から鉄分を補うことも必要ですが、貧血を治すほどの量を摂取するのは簡単ではないため、サプリメントを活用しましょう。
サプリメントには「ヘム鉄」と「非ヘム鉄」の2種類があります。
非ヘム鉄は吸収率が悪いので、ヘム鉄がおすすめです。
サプリメントを摂取するタイミングに関しては、とくに決まっていません。
ただし、鉄分は一度に多く摂ると体外に排出されてしまうので、1日数回に分けて飲むように伝えましょう。
また、一度にまとめて摂るより複数回に分けたほうが胃腸障害も起こりにくくなります。
一方、サプリメントに含まれている鉄分の量は、市販薬と比べると多くありません。
また、吸収率も劣るため、効果を実感できない可能性もあります。
そのため、貧血でお悩みのお客さまが来店されたら、サプリメントではなく市販薬をおすすめするのが無難です。
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<対応例>貧血に効く市販薬を求めて来店されたお客さまへの対応
◆人物データ
10代女性
・職業:学生
・既往症:なし
・使用中の薬:なし
・アレルギー:なし
・症状:めまい、ふらつき
◆対応例
お客さま:
貧血の薬はありますか?
登録販売者:
はい、ございますよ。鉄分の吸収性を良くした溶性ピロリン酸第二鉄が含まれているこちらの商品はいかがでしょうか。
お客さま:
ありがとうございます。今飲んでいる鉄のサプリメントがなかなか効かなくて…。
登録販売者:
サプリメントを飲まれているんですね。サプリメントは医薬品と比べると吸収効率が悪かったり鉄分の量が少なかったりするので、人によってはあまり変化を感じられないかもしれません。
お客さま:
そうだったんですね。
登録販売者:
ちなみに、鉄欠乏性貧血と診断を受けたことはありますか?
お客さま:
いいえ、ありません。
登録販売者:
貧血の多くは鉄欠乏性貧血と呼ばれるものですが、まれに鉄分不足以外が原因となって貧血になっていることもあります。めまいやふらつきは、貧血以外のときにも見られる症状です。こちらの市販薬を使っても症状が長引く場合は、医療機関を受診したほうがよいかと思います。
お客さま:
わかりました。ありがとうございます。
接客のポイント
貧血の薬を探しているとのことで、吸収性の良い溶性ピロリン酸第二鉄が含まれている市販薬を紹介しました。
サプリメントを飲んでも効果がないとの訴えもあったため、サプリメントは医薬品とは違って吸収効率が悪く、鉄分の配合量も少ないために効果が出づらいと説明しています。
また、貧血は鉄分の不足以外の原因によっても起こることを説明しました。
同時に、めまいやふらつきは、貧血以外でも出る可能性があると伝えています。
医療機関を受診せず、貧血だと思いこんで鉄剤を買いに来られるお客さまも多いので、この2点は確実に伝えておくとよいでしょう。
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市販の鉄剤や漢方薬を販売する際の注意点
鉄剤は人によって胃に負担がかかるため、吐き気など消化器系の症状が出ることもあります。
こうした副作用が心配という方には、漢方薬を勧めてみてください。
また緑茶などに含まれるタンニンは鉄分の吸収効率を悪くするため、市販の鉄剤は緑茶と一緒に飲まないように指導します。
鉄欠乏性貧血の改善には、鉄剤を補いつつ、普段の食生活を改めることが重要です。
大豆やレバー、まぐろの赤身など鉄分の多い食事を普段から摂るように勧めましょう。
また、鉄剤をお求めのお客さまのなかには、自己判断で鉄欠乏性貧血だと思い込んでしまっている方もいます。
めまいやふらつきは貧血だけでなく、低血圧や低血糖などでも起こる症状です。
鉄剤を継続的に服用しても症状が改善しない場合は、鉄欠乏性貧血ではない可能性もあるため、医療機関への受診を勧めましょう。
▼参考サイトはコチラ
公益社団法人鳥取県医師会『【9)血液の病気】 1)鉄剤を飲むと胃が不調に』
お客さまのニーズに適したアドバイスをしよう
貧血にはいくつか種類があり、なかでもとくに患者数が多いのが鉄欠乏性貧血です。
鉄欠乏性貧血は、市販の鉄剤を使うことで症状を改善できる場合があります。
ただし、鉄剤をお求めの方のなかには、本当は鉄欠乏性貧血ではないのに症状だけを見て貧血だと思われている方が少なくありません。
貧血ではない方が鉄剤を買いに来られるケースも多いため、服用してしばらくしても症状が改善しない場合には、受診勧奨をすることが大切です。
【執筆者プロフィール】
執筆者:岡本妃香里
薬学部を卒業後、都内の大手ドラッグストアで4年間勤務。毎日2,000人近くが来局する店舗でOTC販売を経験。現在は薬の正しい使い方や選び方を広めるために、執筆業をメインに活動。

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