著名人コラム
2022-11-18
「新人が育つ」OJT研修のポイントは?コミュニケーションの注意点も詳しく解説<ドラッグストアの新人研修>
・Before
・After
新人登録販売者の方に早く仕事を覚えてもらうための重要な施策の一つに、「OJT研修」があります。ベテラン登録販売者のなかにはOJT研修のトレーナーを任されたものの、どのように新人と接すれば良いかわからない…と悩んでいる方もいるのではないでしょうか。そこで今回は、OJT研修で教育者によくある苦労と、意識したいポイントや注意点を解説します。【執筆者:ラーンフォレスト合同会社/代表社員/行政書士 林博之さん】
登録販売者の新人研修に多い「OJT研修」とは?
OJT(On the Job Training)とは、「職場で仕事をしながら学んでもらう」というアメリカ発祥の教育手法です。ドラッグストアでの新人教育においても、トレーナーによる1対1のOJTを用いた研修が一般的でしょう。
OJT研修の役割
また、OJT研修の重要な役割の一つは、店舗への「適応」を促すことです。
やりがいをもちながら新人に楽しく仕事を覚えてもらうためには、何よりも環境に馴染んでもらうことが重要だと考えています。
OJT研修のメリット・デメリット
OJT研修のメリットは、「職場=学びの場」であるため、学んだことをすぐに実践に移せる点です。
一方のデメリットは、現場の負担や指導の質にばらつきが出やすい点だと言えるでしょう。
OFF-JT研修との違い
一方、OJTには対義語にあたる「OFF-JT」という教育方法もあります。
これは、座学やワークを行いながら学ぶ集合研修などです。
OFF-JTのメリットは、業務内容に左右されず、しっかりと基礎的な知識を学べることです。
一方のデメリットは、実際の業務に即した研修内容を設定しないと学んだことが活かせず、無駄になってしまうことなどがあげられます。
OJT研修でトレーナーが感じやすい3つの苦労
OJT研修でトレーナーが苦労しやすい点は、主に「業務との両立」「教え方・任せ方」「理解度の把握」の3つに集約されます。
(1)業務との両立
多くのOJTトレーナーは、通常業務をこなしつつ、教育のための時間を捻出することに苦労します。
新人の業務がルーティンワークや簡単な雑用であればまだ良いですが、仕事の難易度が上がるほど、丁寧な指示出しやアドバイスが必要です。
雑用ばかりだと新人のモチベーションが下がってしまうため、なんとか時間を捻出して教育にあてなくてはなりません。
(2)教え方・任せ方
新人が仕事に慣れてくると、徐々に難易度の高い仕事を教えていくことになります。
このときのOJTトレーナーの悩みどころは、「どの程度、丁寧に教えれば良いのか」「どのレベルの仕事を任せても良いのか」という点ではないでしょうか。
もちろん、新人によって仕事を覚える早さも得手不得手も違います。
個人の能力や特性を理解して作業を教え、適切なタイミングで指示を出すのは、なかなか難しい部分でしょう。
(3)理解度の把握
<新人がどれだけ仕事を覚えて取り組めているのか、理解度や習熟度の把握に頭を悩ませている方は多いかと思います。
「今教えたこと、わかった?」と聞いて新人が「はい、わかりました!」と答えたとしても、実際の取り組みを見るとできていなかったり、その後に何度も同じ質問をされたりするのはよくあることでしょう。
一方で、できていないことを責めてしまうと、新人は自信をなくしてしまうかもしれません。
OJTトレーナーの心構えと教え上手になるコツとは?
皆さんは、どんな人を「教え上手」だと思いますか?
一言で表すとしたら、私は「相手本位」な人だと考えます。
逆に言えば、教えるのが下手な人はいつも「自分本位」です。
教え上手な「相手本位」な人の多くは、次にご説明する「相互理解」「関係構築」「学習支援」ができています。
相互理解
相手本位な教え上手は、まず自分のことを知ってもらい、新人のこともよく知ろうとします。
これが、相互理解です。
そのためには、まず自己開示をしたうえで、新人の話を「傾聴」して「観察」し、理解に努める必要があります。
関係構築
関係構築には2つの側面からのアプローチがあります。
それは「1対1(マンツーマン)」と「1対多(ネットワーク)」です。
マンツーマンでのコミュニケーションは大切ですが、通常業務と両立するためには、周囲の協力を得ることもポイントになります。
また、新人が店舗に馴染むために、のスタッフや社外の関係者と関わりをもつのも重要です。
OJTトレーナーが仲介に入り、最初の関係作りをサポートしましょう。
この際、「周囲の協力を得ること」について店長の合意を事前に得ておきます。
そうしないと、教えることを拒否したり、遠慮したりする人も出てきます。
新人を引き受ける際には、「全員で教える」というのを共通認識としてもてると良いでしょう。
学習支援
OJT研修では、新人が学びを進めるためのサポートも重要です。
初期段階は、「教え方の4ステップ」に従って進めましょう。
「教え方の4ステップ」とは、「実演する」「説明する」「実行させる」「評価する」のサイクルのことです。
今回はこの「説明」と「評価」のポイントをご紹介します。
●説明するときのポイント
説明のポイントは、3つあります。
1つ目は、教える相手がもつ知識量を事前に確認することです。
そのうえで、それに合わせて必要な内容を判断しつつ、説明しましょう。
2つ目は、小分けにして伝えることです。
教え下手な人は伝えたいことをまとめて話しがちですが、人は多くのことを一度には覚えられません。
大事なことは少しずつ伝えていくように心がけましょう。
3つ目は、理解度の確認です。
「わかりましたか?」と聞くだけではなく、「口で言わせる」「手で書かせる」「体を動かしてやらせてみる」ことを意識します。
復唱やメモ、レポート作成など、説明したことを再現できるようにすると効果的です。
●評価するときのポイント
評価のポイントは、「ほめること」と「叱ること」です。
適切なポイントをほめるために、普段から「アンテナを立てること」を意識しましょう。
人間は、人の悪い部分は目につきがちですが、良い部分は意識していないとなかなか気がつきません。
叱るときは、多くの人がいる環境でなく、誰もいないバックヤードや休憩室に呼んで伝えましょう。
また、叱る内容は一つに絞り、「あれもこれもまとめて言う」というのは絶対にやめましょう。
新人は受け止められず、耳を塞いでしまいます。
また、叱る前には1つ以上、相手をほめてください。
ほめることで、「あなたとしっかり向き合っているよ」という意思表示ができます。
叱ったあとにほめても、新人は「ただの気遣い」ととらえ、素直に受け入れられなくなるので注意しましょう。
●「はく→すう→はく」でバランスの良い指導を意識する
説明、および叱るときのキーワードは、「はく→すう→はく」です。
「伝えたいこと」を「空気」にたとえると、教え下手な人はずっと「空気」を吸わせ続け、新人をパンクさせてしまいます。
「空気」を吸わせたいなら、次のような流れでまず最初に吐かせることです。
<説明するとき>
①まずは知識量の確認のために「今知っていること」「わかっていること」を自身の口から言わせ(吐かせ)ます。
②そのうえで、その知識量に合わせて説明すべきことを伝え(吸わせ)ます。
③最後に「理解度の把握」のため、復唱やメモ、レポート作成などで再現してもらい(吐かせ)ましょう。
<叱るとき>
①最初に「なぜ叱られるようなことしてしまったのか」を事実を基に話してもらい(吐かせ)ます。
②その後に必要なことを伝え(吸わせ)ます。
③最後に「合意形成」のために、今後の行動を言葉にしてもらい(吐かせ)ます。
新人が「吸う」だけでなく「吐く」タイミングを確保することで、一方的なコミュニケーションとならないように意識しましょう。
ドラッグストアのOJT研修では店舗メンバーの協力も重要に
OJT研修で大切なことは、新人の適応を促すことです。
OJTトレーナーを任された場合は、一人で抱え込むのではなく、周囲の協力も得ながら進めましょう。
自分の仕事をこなしつつ新人教育に向き合うのは、間違いなく大変です。
一方で、その取り組みは自身の成長ややりがい、店舗の活性化にもつながります。
皆さんがOJTトレーナーの役割を前向きにとらえ、誰もが楽しく働ける職場作りを担ってくださることを期待しています。
【執筆者プロフィール】
執筆者:林博之(はやし・ひろゆき)さん
ラーンフォレスト合同会社 代表社員
行政書士
俳優として10数年活動後、ビルメンテナンス会社で10数年勤務。その後、行政書士登録を行い、「知的資産経営」を通じて中小企業の経営者へ寄り添う活動を実施。新人育成のカギを握るOJTメンターを対象にした「仕事の教え方研修」や、演劇的手法・インプロ(即興劇)を通じて非言語メッセージの受発信を意識する「フィーリングコミュニケーション研修」行っている。また認定SPトランプファシリテーターとして、SPトランプを使用したコミュニケーション研修も得意とする。比企起業大学院講師。共著に『対話型OJT』『「研修評価」の教科書』がある。2児の父。
合わせて読まれている記事
登録販売者のための役立つ情報がいっぱい!
最新のドラッグストア業界動向のポイント、転職成功のためのノウハウなど、登録販売者のキャリアに役立つ多様な情報をお届けしています。チアジョブ登販は求人のご紹介や転職サポートのほかにも、登録販売者の方に嬉しい最新情報も提供。毎月更新しているコンテンツも多数です。ぜひ定期的にチェックしてみてください!