著名人コラム
2024-04-26
オーバードーズへの対処法!登録販売者に求められる対応と注意すべき市販薬の種類<薬剤師監修>
・Before
・After
今メディアなどでも話題となっている「オーバードーズ(薬の過剰摂取)」について、登録販売者の皆さんは働くなかでも一度は聞いたことがあるでしょう。近年、手に入れやすさから若年層による市販薬のオーバードーズが深刻な問題となっています。ドラッグストアで働く登録販売者には、オーバードーズを防ぐ「ゲートキーパー」としての活躍が期待されています。今回の記事では、登録販売者ができる対処方法を詳しく解説します。【監修者:株式会社クスリの知識ナビ/代表取締役 内田明宏さん】
「オーバードーズ」とは?
「オーバードーズ(OD)」とは、薬(dose)の過剰摂取(over)という意味で、「1回あたりの服薬量が過剰であること」、また「その過剰摂取におよぶ行為」を指します。
オーバードーズに陥る理由の一つには、薬の服用を繰り返すうちに以前と同じ量では効きを感じられなくなり、十分な効果を得るために量が増えていってしまうことがあるとされています。
まずはオーバードーズの現状と、問題視される理由について確認しましょう。
オーバードーズが問題視される理由
近年、オーバードーズが注目を集めている理由は、ドラッグストアで市販の風邪薬や咳止めなどを大量に購入し、その副作用的な効果(眠気や疲労感の解消、多幸感、ふわふわした気分になるなど)を期待して服用する、10代・20代の若者が増えているためです。
こうした若者のなかには、好奇心や興味本位、仲間外れにされたくないといった理由で簡単に薬に手を出してしまう人もいるようです。
市販薬によるオーバードーズの現状
オーバードーズによる救急搬送者数は、年々増加傾向にあります。
総務省消防庁と厚生労働省の調査によると、オーバードーズが原因と疑われる救急搬送者は2023年上半期で5,625人に上ることが判明しています。
年代別に見ると、20代が1,742人で最も多く、10代で846人、合計で半数近くを占める結果となりました。
全体の7割が女性(4,132人)という傾向も見られています。
また、国立精神・神経医療研究センター(NCNP)の調査では、「過去1年以内に市販薬の乱用経験がある」高校生の割合は、全体の約1.6%に上っています。
市販薬の濫用によって「薬物依存」状態になると、自らの意思でやめられなくなる危険性があるため、社会的なサポート・教育など、早めに対処できる仕組みづくりが進められています。
▼参考サイトはコチラ
東京都保健医療局『市販薬のオーバードーズ(過剰摂取)について』
公益社団法人鹿児島県薬剤師会『オーバードーズって何?危険なの?』
市販薬のオーバードーズが増えた理由
では、市販薬によるオーバードーズはなぜ増加し続けているのでしょうか。
次で詳しく見ていきましょう。
(1)孤独や不安などを抱える人が増えた
オーバードーズ状態に陥ったり薬物依存症になったりするのは、決して特別な人ではありません。
10代・20代のオーバードーズが増加した理由には、家庭や学校で子どもたちが感じる次のような「孤独」や「不安」があると言われています。
・人間関係の悩み(家族・友人)
・学校でのいじめ
・家庭での虐待
・本音を言えない苦しみ
・孤独感
・自己肯定感の低さ
こうした精神的苦痛から逃れるために薬による快楽を求めてしまう、といった背景があると考えられています。
(2)気軽に購入できる
市販薬はインターネットなどでも気軽に購入できます。
また、当然ですが市販薬を所持していても法律上何の問題もありません。
身近な存在である市販薬の乱用は発見されにくく、このことも市販薬のオーバードーズ増加の一因と言えるでしょう。
(3)SNSの影響
SNSによって、オーバードーズに関する情報が共有されやすくなりました。
マイボイスコム株式会社が2021年に行ったインターネット調査によると、10代・20代のスマートフォン所持率は約98%となっています。
「他人の共感を得るため」という理由から市販薬の過剰摂取を行い、SNS上でその報告をしてしまう人もいるでしょう。
▼参考サイトはコチラ
厚生労働省『わが国における市販薬乱用の実態と課題「助けて」が言えない子どもたち』
オーバードーズを続けるとどうなる?
薬を過剰摂取してしまうと、「中毒症状」や「離脱症状」が現れる恐れがあります。
オーバードーズの中毒症状としては、次のようなものが考えられています。
・強い幸福感
・思考力の低下
・知覚過敏
また、体内から薬の成分が抜けるときに出る離脱症状として、次のようなものが見られると考えられています。
・けいれん、動悸
・吐き気、悪寒
・体に力が入らず動けない
これら以外にも、商品ごとに決められた用量以上の量を服用した場合には、予期せぬ副次的な作用が発生する恐れがあります。
肝障害が起こったり、最悪の場合は心肺停止で死亡したりする可能性もあります。
医薬品は決められた用法・用量を守って使用するのが大原則です。
オーバードーズによる危険性が高い市販薬の種類
厚生労働省は、下記に該当する医薬品を「濫用等のおそれのある医薬品」と定め、販売数を規制しています。
・エフェドリン
・コデイン
・ジヒドロコデイン
・ブロムワレリル尿素
・プソイドエフェドリン
・メチルエフェドリン
それぞれの効能・効果と具体的な市販薬は下記の通りです。
成分 | 効能・効果 | 含まれる薬の種類 | 商品例 |
エフェドリン | 交感神経を刺激して気管支を広げ、呼吸を楽にすることで咳を鎮める | プソイドエフェドリン、メチルエフェドリンの項を参照 | |
コデイン (コデインリン酸塩水和物) | 咳中枢に作用し、咳を鎮める | 鎮咳去痰薬(咳止め) | ・アネトンせき止め液/アネトン咳止め錠 など |
ジヒドロコデイン (ジヒドロコデインリン酸塩) | 咳中枢に作用し、咳を鎮める | 鎮咳去痰薬(咳止め) 風邪薬 | ・エスエスブロン錠/新ブロン液エース ・新トニン咳止め液/トニン咳どめ液D ・多くの風邪薬 など |
ブロムワレリル尿素 | 不安緊張状態を鎮静する | 鎮静剤 解熱鎮痛薬 など | ・ウット ・ナロン錠/ナロンエースT など |
プソイドエフェドリン (プソイドエフェドリン塩酸塩) | 交感神経を刺激し、鼻粘膜の血管を局所的に収縮させることで鼻づまりを改善する | 鼻炎用薬 風邪薬 など | ・アネトン アルメディ鼻炎錠 ・パブロン鼻炎カプセルSα ・ベンザブロックLプレミアム ・パブロンエースPro-X錠 など |
メチルエフェドリン (dl−メチルエフェドリン塩酸塩) | 交感神経を刺激して気管支を広げ、呼吸を楽にすることで咳を鎮める | 鎮咳去痰薬(咳止め) 風邪薬 | ・エスエスブロン錠 ・アネトンせき止め液/アネトン咳止め錠 ・多くの風邪薬 など |
また厚生労働省は、上記以外にも「デキストロメトルファン」や「ジフェンヒドラミン」を含む市販薬についても濫用の報告があり、注意が必要と呼びかけています。
登録販売者にできる問題への対処・対応のコツ
オーバードーズが疑われるお客さまに対して、登録販売者は具体的には下記のような対応・接客を行うことが求められています。
声かけやヒアリングを徹底する
オーバードーズが疑われるお客さまに対しては、積極的に声かけをしましょう。
・しっかりと眠れていますか?(2週間以上続く不眠はうつのサイン)
・なにかお困りごとはありませんか?
・お疲れのようですが、体調はいかがですか?
▼参考サイトはコチラ
政府広報オンライン「あなたもゲートキーパーに!大切な人の悩みに気づく、支える」
若年者(中学生、高校生など)の場合は、購入時に氏名・年齢・使用状況、類似する薬を他のドラッグストアや薬局で買って所持していないかを確認します。
また、日本の市販薬は含有成分が複数にわたるものも多いため(風邪薬では7~8成分ほど)、それらの相互作用にも気をつけましょう。
「必要な人」に「必要な数」だけ販売する
原則一人1包装と決まっています。
お客さまから複数の購入希望があった場合は、理由や使用状況などを確認して、問題がない場合のみ販売しましょう。
POPなどで呼びかけを行う
POPやポスターなどを活用して、防止対策を行っている旨や販売ルールを提示し、注意喚起を呼びかけましょう。
対応方法・接客のポイントはこちらの記事でも詳しく解説しています。
「濫用等のおそれのある医薬品」の適正販売のため、登録販売者にできることは?接客のポイントを解説
また厚生労働省は、市販薬販売のフロントラインにいる登録販売者がオーバードーズに対処するゲートキーパーとして役割を果せる仕組みづくりを今後の課題としてあげています。
具体的には、下記のような対応が求められています。
悩み・相談を抱えた当事者(患者、住民、家族)に気づく
②関わる
声をかけ、共感的な態度で話を聞く(傾聴)、信頼関係の構築
③つなぐ
薬物問題の専門的支援につなぐ
④見守る
当事者との良好な信頼関係を維持し、その後を見守る
出典:厚生労働省『わが国における市販薬乱用の実態と課題「助けて」が言えない子どもたち』
薬物問題の専門的支援を行っている機関とは、医療機関、精神保健福祉センター、保健所といった行政などです。
声かけや解決策などの情報提供により、ドラッグストアでお客さまのメンタルヘルスのサポートができると望ましいと示されています。
意識して、地域の健康を守れる登録販売者を目指しましょう。
登録販売者は街の健康を守るゲートキーパーに
今回は、市販薬のオーバードーズへの対処について登録販売者が知っておきたいポイントを解説しました。
しっかりと問題の背景を理解し、適切な医薬品販売に努めましょう。
登録販売者や薬剤師は、ドラッグストアでの医薬品濫用を防ぐ「ゲートキーパー」となり得る存在です。
ヒアリングを徹底し、店舗内や店舗間での情報共有なども行いながら、問題に対処していきましょう。
▼関連記事はコチラ
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【監修者プロフィール】
監修者:内田明宏(うちだ・あきひろ)さん
株式会社クスリの知識ナビ 代表取締役。
薬剤師としてドラッグストアや調剤薬局に約10年間勤務。その現場経験を活かし、登録販売者向けに市販薬に関する接客力アップのための情報発信や教材提供を行っている。
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