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2020-09-21
【薬剤師監修】高齢者への医薬品販売の注意点とは?登録販売者が押さえておくべきポイント
・Before
・After
医薬品を販売するときは、患者さまの症状を聞き、適切な商品をピックアップして紹介する必要があります。しかし、症状に合うものを選んだだけでは、本当に正しい医薬品を選んだことにはなりません。薬を買いに来た方が高齢者だった場合はなおさら、薬が合うかどうか以外にも気を遣わなければならないのです。 では具体的に、どのような注意が必要なのでしょうか。この記事では、高齢者に医薬品を販売するときの注意点と登録販売者が必ず知っておきたいポイントを分かりやすくご紹介します。
高齢者への医薬品販売に注意が必要な理由とは?
高齢者の体は、若い人と比べると様々な違いがあります。体の違いだけではなく、高齢者ならではの生活環境もあるため、医薬品を販売するときはいくつか気を配らなければならない点があります。
以下で、高齢者への医薬品販売に注意が必要な理由について解説します。
副作用が起きやすい
高齢者は主に2つの理由から、副作用が起こりやすい状態になっています。
1つめは体の機能が衰えていることが原因です。薬を代謝する能力が落ちているため、薬を服用してもなかなか代謝されず体の外に排出されません。そのため血液中の医薬品の濃度が必要以上に上昇し、副作用が起こりやすくなります。
2つめは、高齢者は複数の疾患をもっていることが多いことから、ほかの治療薬との相互作用が起きやすいことが原因です。高齢者は平均で4.5種類、70歳以上になると平均で6種類以上もの薬を毎日のように服用すると言われています。
これだけの薬を服用しているところへ、さらに市販の医薬品を服用するとなれば、相互作用が起きてしまっても不思議ではありません。薬の組み合わせによっては効果が出過ぎることで、副作用が起きやすくなる場合もあるのです。
病気を併発しやすい
高齢者はどうしてもいろいろな病気にかかりやすくなります。肝機能や腎機能が弱ると薬を代謝したり排出したりする速度が遅れるため、副作用が出やすくなるのです。
さらには副作用によって尿閉が起きたり、眼圧が上がったり、胃腸障害などが出てしまうこともあります。
薬の飲み忘れが起きやすい
多くの薬を飲んでいることに加え、管理能力が低下していることもあり、飲み忘れも起こりやすくなります。とくに1日に3回飲む必要がある薬は、飲み忘れが起きやすいのです。
飲み忘れることで薬が効かないことも問題ですが、逆に飲んだことを忘れて過剰に飲んでしまうケースもあります。
また、高齢者は食が細い方も多い傾向にあるため、なかには「1日に2回しか食事を摂らない」という方もいます。そのような方に1日3回服用する必要がある医薬品を販売してしまうと、1日に2回しか服用してもらえないということにもなりかねません。
▽参考:日本老年医学会
高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015
高齢者に医薬品を販売する際に確認すべきこと
高齢者が医薬品を服用する際には、相互作用や副作用の起こりやすさなど様々な問題を考慮する必要があります。最低でも、以下の3つに関しては販売前に確認しておきましょう。
サプリメント・併用薬の使用
相互作用が起こるのは医薬品だけなのでは?と思われるかもしれませんが、実はサプリメントでも相互作用は起こります。
高齢者で飲んでいる方が多いものとしては、トイレの回数が気になる方に人気の「ノコギリヤシ」でしょう。「ノコギリヤシ」には血液の凝固を抑制する働きがあるため、「ジクロフェナクナトリウム」や「イブプロフェン」などを併用すると、出血が止まりにくくなったり紫斑ができる可能性があります。
また、糖尿病の治療をされていたり、腎機能が低下していたりする方も要注意です。胃薬によく含まれている「合成ケイ酸アルミニウム」などのアルミニウム系製剤は、腎機能が落ちていると排出されづらくなり体内に蓄積しやすくなります。
するとアルミニウム脳症や骨軟化症などを発症してしまうこともあるのです。高齢者を守るためにも、併用しているサプリメントや医薬品は必ず確認しましょう。
過去に使用した薬の副作用の有無
医薬品を販売する際は、これまでに飲んで合わなかった薬がないかも確認します。
市販薬には多いもので10種類以上の成分が含まれているものもあるので、なかには合わない成分が含まれている可能性も……。お客さまの健康を守るためにも、副作用歴はきちんと確認しましょう。
ただし、「薬で副作用が起きたことはありますか?」と聞いてしまうと大きな副作用だけを意識させてしまうことが多いので、できれば「これまでに飲んだお薬で少しでも合わないと感じたものはありますか?」と聞くのがおすすめです。
服薬管理能力の確認
「錠剤でも飲み込めるか」「むせずに粉薬を飲めるか」、そして「自分で薬の管理をして正しく飲めるか」も確認しましょう。
錠剤を飲み込みにくいなら小粒タイプのものや飲む錠数が少ないものを、粉薬が苦手なら錠剤や液剤をおすすめします。薬の管理が難しいと判断した場合は、1日に1~2回の服用で済むものを提案すると親切です。



高齢者に起こりやすい薬の問題
65歳以上の高齢者は、すでに総人口の28.4%の割合を占め約3人に1人が高齢者と言われています。このまま高齢者が増えていけば、2025年には30.0%、2040年には35.3%と上昇していく見込みです(2019年9月総務省発表)。そんな昨今では、高齢者の服薬に関するトラブルがあとを絶ちません。
ここでは、高齢者に起こりやすい薬の問題について解説します。
ポリファーマシー
ポリファーマシーとは、「Poly」+「Pharmacy」で「多くの薬」という意味をもち、多剤併用による有害事象のことです。
高齢者は服用している薬の種類が平均で4.5種類あることから、多剤併用に伴う有害事象が問題視されているのです。
ポリファーマシーが起こる原因としては、単に併用薬が多いという問題もありますが、複数の医療機関にかかることでそれぞれの医療機関から似たような作用のある薬を処方されることも一因となります。
もちろん市販の薬も例外ではありません。たとえば整形外科で痛み止めとしてロキソニン®を服用している方が、解熱剤として市販でもロキソニン®を購入するケースも。
患者さまは痛み止めと解熱剤を別のものとして認識しているので、このような事態が起きてしまいます。
残薬
多くの薬を服用している高齢者だからこそ、ついつい飲み忘れて放置されてしまうことも……。薬が余っていることを医師に伝えづらいと感じている方が多いため、残薬は増える一方です。
日本薬剤師会の調査によると、家の片隅で眠っている残薬は75歳以上の在宅高齢者で年間総額475億円、専門家によれば1,000億円以上とも言われています。
これだけの医薬品が飲まれることなく袋に入れられたままになっていることを考えると、高齢者に勧める薬にも一段と気を遣わなければいけないことが分かります。

高齢者の健康を守るために、登録販売者ができること
ここまでお伝えしてきたように、高齢者は副作用が起こりやすく、多剤併用による影響が起きやすいのが特徴です。登録販売者はそんな高齢者の方の健康をサポートするうえで非常に大切な存在です。
「ほかに飲んでいるお薬はありますか?」
「今まで合わなかったお薬はありませんか?」
そうしたお声かけを積極的に行うことで、服用の問題点に気づけたり、お客さまの健康を守ることができるかもしれません。
「ほかに飲んでいるお薬を教えてもらっても、飲み合わせの判断ができない……」と不安な方もいるかもしれません。
そのときは、近くにいる薬剤師に聞いてみましょう。薬剤師がいない場合は、商品の販売元に電話をすればすぐに教えてくれますよ。
正しい対応方法を知って、高齢者の健康を守ろう
高齢者は肝機能や腎機能の低下などにより、薬による影響の出方が大きく違うだけでなく、多剤併用によるポリファーマシーを引き起こす可能性もあります。
実際に、胃酸止めやアレルギーの薬、降圧薬などが複数の医療機関で重複して処方されていた例がいくつもあるほどです。
市販薬を買いに来られる方は、高齢者に限らず「市販薬だから大した副作用はない」「市販薬くらいどれを選んでも大丈夫」と考えている方が少なくありません。しかし実際は、市販薬でも十分に健康に害を及ぼす危険性があるのです。
とくに様々なリスクを引き起こしやすい高齢者へはもちろん、来店されたお客さまの健康を守るためにしっかりと対応できるようにしておきましょう。
【執筆者プロフィール】
氏名:木村妃香里
薬学部を卒業後、都内の大手ドラッグストアで4年間勤務。毎日2,000人近くが来局する店舗でOTC販売を行ってきました。現在は薬の正しい使い方や選び方を広めるために執筆業をメインに活動しています。

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